十和田ホテル本館:十和田湖畔に佇む秋田杉の名建築

秋田県鹿角郡小坂町、十和田八幡平国立公園内の十和田湖西岸。湖を見下ろす高台の森の中に、昭和13年(1938年)に完成した木造3階建ての壮麗なホテルが静かに佇んでいます。十和田ホテル本館は、天然秋田杉をふんだんに使い、北東北3県から集められた80名の宮大工が技を競い合って造り上げた、昭和前期を代表する大規模木造建築です。平成15年(2003年)には「再現することが容易でないもの」として国の登録有形文化財に登録されました。

歴史的背景

十和田ホテルの建設は、昭和11年(1936年)の十和田国立公園誕生(後に十和田八幡平国立公園に改称)を契機とした観光開発の一環として計画されました。当時、昭和15年(1940年)に開催予定だった東京オリンピックに向け、日本政府は全国各地に国際観光ホテルの整備を推進しており、十和田ホテルもその国策の中で誕生した一棟です。同時期には雲仙観光ホテル(昭和10年)、川奈ホテル(昭和11年)、赤倉観光ホテル(昭和12年)なども開業しています。

設計を手がけたのは、日本大学工学部土木建築科教授の長倉謙介氏です。長倉氏はこのホテル建設のためにヨーロッパ視察に赴いたと伝えられ、その成果は北欧の山荘を思わせる独特の外観に反映されています。

昭和13年秋に竣工し、翌昭和14年6月に秋田県営ホテルとして開業しました。しかし、東京オリンピックは戦争の影響で中止となり、昭和15年には経営が鉄道省へ移管されます。太平洋戦争の激化に伴いやむなく営業を中止し、戦後は進駐軍に接収されました。昭和27年(1952年)の接収解除後、秋田県が買い戻し、日本交通公社による運営再開を経て、その後は秋田県観光開発公社(現・秋田県物産振興会)などが運営を担ってきました。

平成10年(1998年)には老朽化に対応するため、建設時の文化的価値を保持しながらの大規模修復工事が実施されました。そして平成15年(2003年)5月16日、本館一棟が登録基準三「再現することが容易でないもの」として国の登録有形文化財に登録されました。

文化財指定の理由

十和田ホテル本館が登録有形文化財に指定された最大の理由は、現代では再現が極めて困難な建築技術と意匠の集大成であるという点にあります。

建物には日本三大美林のひとつである天然秋田杉がふんだんに使用されています。外壁は石積みの基壇の上に杉の半丸太を張りつめた独特の手法が採られ、日本の木造建築の伝統とヨーロッパの山荘建築が見事に融合しています。L字形の平面計画により、本館全21室の客室すべてから十和田湖を望むことができます。

特筆すべきは、秋田・青森・岩手の3県から約80名の宮大工を集め、技術を競わせて建設されたという点です。各客室の床の間、天井、格子戸、建具、畳表に至るまで一室ごとに異なる意匠が施されており、それぞれの部屋に宮大工たちの技と心意気が宿っています。このような伝統的木造建築技術の粋を一堂に集めた建物は、現代において再現することがきわめて困難です。

建築の見どころ

内部空間で最も印象的なのは、吹き抜けを持つ玄関ホールです。樹齢65年から85年の杉丸太を柱に配し、玄関正面には樹齢約100年のブナの皮付き柱が堂々と立ちます。玄関の踏み込み板にはケヤキが使われ、土間の石畳には十和田湖畔から集められた石が敷きつめられています。

天井は同じ直径の杉丸太を竿縁に使った杉皮張りの船底天井で、「秋田杉の館」の名にふさわしい格調高い空間を演出しています。繊細な組子欄間も見事で、木の温もりと職人技の妙が随所に感じられます。

玄関ホールの上部に位置する「杜の図書館」は、木の香りに包まれながら窓越しに十和田湖の美しい眺望を楽しめる、くつろぎの読書スペースです。本館玄関の車寄せには太鼓梁が平使いに配され、大樹のぬくもりと歴史に磨かれた美を感じさせる空間となっています。

客室はまさに伝統技術の展示場です。部屋ごとに異なる床の間、床脇の意匠、多種多様な木材と技法が用いられ、扉ひとつとっても造りが異なります。約80名の宮大工が腕を競った結果、すべての客室が唯一無二の芸術作品となっています。

大浴場と展望露天風呂からは、十和田湖越しに連なる山並みや櫛ケ峰、八甲田連峰のシルエットを望む絶景が広がります。

お食事と十和田湖ひめます

ダイニングルームでは、木立越しに湖を眺めながら、秋田県の旬の食材を使った和洋折衷料理を堪能できます。中でも外せないのが、十和田湖の名産「ひめます」です。明治時代、後に「近代日本の養殖三偉人」と称される和井内貞行が苦難の末に十和田湖での養殖・定着に成功したこの魚は、淡水魚特有の臭みがなく、上品な脂の乗りが特徴です。十和田ブランドの「十和田湖ひめます」は、ぜひ味わっていただきたい逸品です。

周辺の観光スポット

  • 奥入瀬渓流:全長約14kmの渓流沿いに滝や苔むした岩が連なる、日本屈指の景勝地。ホテルから車で約20分の子ノ口が湖側の入口です。特に秋の紅葉シーズンは圧巻の美しさです。
  • 十和田神社:湖畔の古い杉林の中に鎮座する静謐な神社。休屋エリアにあり、ホテルから車で約10分です。
  • 乙女の像:詩人・彫刻家の高村光太郎による十和田湖のシンボル的なブロンズ像。休屋の湖畔に立っています。
  • 発荷峠展望台:十和田湖を一望できる随一のビュースポット。ホテルから車で約5分。周囲4つの展望台の中で最も美しい景色が見られると評判です。
  • 小坂町:旧小坂鉱山事務所(国重要文化財)や日本最古の木造芝居小屋・康楽館など、鉱山の歴史を伝える見どころが集まる町です。

Q&A

Q十和田ホテル本館はなぜ文化財に指定されているのですか?
A平成15年(2003年)に登録基準三「再現することが容易でないもの」として国の登録有形文化財に登録されました。北東北3県から集められた約80名の宮大工が技を競い合い、天然秋田杉を駆使して造り上げた昭和前期の大規模木造建築であり、各客室ごとに異なる伝統的意匠は現代では再現が極めて困難とされています。
Q宿泊しなくても建物を見学できますか?
A本館は現役のホテルとして営業しているため、内部をじっくり鑑賞するには宿泊がおすすめです。秋田杉の外壁や石積みの基壇など、建物外観の美しさは外からでもお楽しみいただけます。ロビーの見学等については、直接ホテルにお問い合わせください。
Qおすすめの訪問時期はいつですか?
Aホテルの営業期間は例年4月下旬から11月中旬頃までです。新緑の美しい初夏、涼しい湖畔で過ごす夏、そして十和田湖・奥入瀬渓流の紅葉が見頃を迎える10月中旬が特に人気です。季節ごとに異なる表情を見せるブナ林と湖の景観をお楽しみいただけます。
Q十和田ホテルへのアクセス方法は?
A東北自動車道の十和田ICから車で約50分です。公共交通機関をご利用の場合は、JR花輪線鹿角花輪駅やJR奥羽本線大館駅からバスやタクシーをご利用ください。季節によって運行状況が異なるため、事前にホテルへご確認いただくことをおすすめします。
Q十和田ホテルの建築の特徴を教えてください。
A日本大学の長倉謙介教授が設計し、ヨーロッパの山荘建築と日本の伝統的木造建築を融合させた点が最大の特徴です。外壁は石積みの基壇の上に秋田杉の半丸太を張りつめ、北欧のログハウスを思わせる外観です。内部では吹き抜けの玄関ホールに樹齢65〜85年の杉丸太や約100年のブナ柱を配し、船底天井、組子欄間など、随所に高度な伝統技法が光ります。

基本情報

名称 十和田ホテル本館
文化財指定 国登録有形文化財(建造物) — 平成15年(2003年)9月19日登録
登録基準 三「再現することが容易でないもの」
竣工 昭和13年(1938年)
構造 木造一部鉄筋コンクリート造3階建、鋼板葺、建築面積780㎡
設計 長倉謙介(日本大学工学部土木建築科教授)
所有者 秋田県
所在地 秋田県鹿角郡小坂町十和田湖字鉛山
アクセス 東北自動車道 十和田ICから車で約50分
営業期間 4月下旬~11月中旬(冬期休館)
電話番号 0176-75-1122

参考文献

十和田ホテル本館 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/179716
十和田ホテルの歴史 — 十和田ホテル公式サイト
https://towada-hotel.com/concept.html
十和田ホテル本館 — 全国観光資源台帳(公益財団法人 日本交通公社)
https://tabi.jtb.or.jp/res/050037-
北東北3県の宮大工の技が光る!「十和田ホテル」本館は国登録有形文化財 — トラベルjp
https://www.travel.co.jp/guide/article/21644/
十和田ホテル — 十和田湖国立公園協会
https://towadako.or.jp/enjoy/post1323/

最終更新日: 2026.04.10