津軽半島から浪岡へ ― 移築された営林署庁舎
旧増川営林署庁舎(展示館しょうわ)は、青森県青森市浪岡大字女鹿沢字野尻にある昭和12年(1937年)建設の木造洋風庁舎で、令和4年(2022年)10月31日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。
もとは現在の東津軽郡外ヶ浜町にあたる増川に建てられ、津軽海峡に向かって東面していた。増川は津軽半島北部の集落で、周囲一帯は国有林である。営林署は伐採の許可、材積の集計、林班図の管理といった実務をこなす現場の役所で、この庁舎の内部も大きな事務室が一室という単純な構成だった。
昭和37年(1962年)頃に増築があり、平成20年(2008年)に解体・移築されて浪岡へ移った。移築先の女鹿沢は、青森市と弘前市を結ぶ国道7号沿いのりんご産地である。距離にして直線でおよそ70キロ、海辺の役所が内陸の果樹地帯に据え直されたことになる。文化庁の登録基準は「造形の規範となっているもの」、登録番号は02-0105。
ひとつ留保がいる。国指定文化財等データベースの構造欄は「木造2階建、鉄板葺、建築面積170㎡」とするが、同じデータベースの解説文は「平屋建」と記す。解説文が昭和12年当初の姿を、構造欄が増築後の現状を示していると読むのが自然だが、データベース自体に説明はない。
妻壁のスクラッチタイル
この建物で最初に目が留まるのは妻壁である。漆喰仕上げの壁面に半円アーチ形の窓が開き、そのアーチの縁がスクラッチタイルで縁取られている。スクラッチタイルは表面に縦の掻き筋を入れた化粧煉瓦で、大正末から昭和初期の日本で、銀行や大学の校舎など「格」を求められる建築に多用された。地方の営林署庁舎にこれが使われている例は多くない。
他の部分は素直な造りである。外壁は下見板張、縦長の窓が等間隔に並び、屋根は切妻造の金属板葺。正面北寄りに玄関棟が張り出し、そこだけ切妻造のポーチが載る。長く低い箱の一角に小さな高まりが付くという構成で、この非対称が建物の表情を決めている。
戦前、東北各地には同種の木造官公庁舎が数え切れないほど建った。そのほとんどが失われた。登録は個別の建物の造形を評価すると同時に、消えた建築類型の標本としての価値を認めたものと読める。設計者名は一次資料に記載がない。
現在の外壁は青緑色に塗られている。りんご畑の広がる緩い斜面のなかで、この色はよく目につく。
昭和11年のラジオが鳴る展示室
青森県内の登録有形文化財としては珍しく、この建物は日常的に人を迎え入れている。1階が喫茶、2階が展示室である。運営するのは元電器店主の福士光春さんで、約35年の営業のあいだ修理しながら集めたラジオ、扇風機、テレビ、家電類が室内を埋めている。動くものも少なくない。令和8年(2026年)の地元テレビ取材では、昭和11年(1936年)頃のラジオが現役で放送を受信している様子と、屋外に置かれた昭和43年(1968年)製スバル360が紹介された。階段沿いの壁には旧紙幣・硬貨や映画ポスターが並ぶ。
入館料は大人300円、小人100円、喫茶利用者は無料、営業時間は10時から17時、定休日は水曜と木曜、という情報が訪問者の記録として複数ある。ただし公的機関による告知ではないため、訪問前に電話で確認しておきたい。館内撮影は公開されている訪問記に写真が多数あることから可能と思われるが、これも受付での確認をすすめる。
アクセスは自動車が現実的である。所在地の女鹿沢字野尻は、国道7号沿いの道の駅なみおか「アップルヒル」と同じ字にあたる。県観光情報サイトはアップルヒルまでをJR奥羽本線浪岡駅から車で約5分、東北自動車道浪岡ICから約8分としており、青森・弘前の両市街からはそれぞれ30分前後を見ておけばよい。
同じ浪岡地区には国史跡の浪岡城跡と青森市中世の館がある。半日で回れる範囲に収まる。
Q&A
- 旧増川営林署庁舎(展示館しょうわ)は見学できますか。入館料と営業時間は?
- 1階が喫茶、2階が展示室として公開されています。訪問者の記録によれば入館料は大人300円・小人100円で喫茶利用者は無料、営業時間は10時から17時、定休日は水曜・木曜です。公的な告知ではないため、事前に電話で確認してください。
- 旧増川営林署庁舎はもともとどこに建っていたのですか。
- 現在の東津軽郡外ヶ浜町にあたる増川で、昭和12年(1937年)に津軽海峡に東面して建てられました。昭和37年頃に増築され、平成20年(2008年)に青森市浪岡へ移築されています。
- 旧増川営林署庁舎はなぜ登録有形文化財になったのですか。
- 令和4年10月31日、「造形の規範となっているもの」という登録基準により登録されました。下見板張の外壁に縦長窓を並べた構成と、漆喰仕上げの妻壁に開く半円アーチ形窓をスクラッチタイルで縁取った意匠が評価されています。
- 旧増川営林署庁舎は平屋建ですか、2階建ですか。
- 国指定文化財等データベース内で記述が分かれています。構造欄は「木造2階建、建築面積170㎡」、解説文は「平屋建」です。現在は1階が喫茶、2階が展示室として使われており、実態としては2層あります。
- 展示館しょうわへの行き方を教えてください。
- 青森市浪岡大字女鹿沢字野尻14-134、国道7号沿いの道の駅なみおか「アップルヒル」と同じ字にあります。最寄り駅はJR奥羽本線浪岡駅で、青森市街・弘前市街からはいずれも車で30分前後です。
- 展示館しょうわには何が展示されていますか。
- 館主が電器店を営んでいた約35年のあいだに修理しながら集めた昭和期の家電類が中心です。ラジオ、扇風機、テレビなどのほか、旧紙幣・硬貨や映画ポスターも並びます。修理を経て動作する機器も含まれます。
基本情報
| 名称 | 旧増川営林署庁舎(展示館しょうわ) |
|---|---|
| 所在地 | 青森県青森市浪岡大字女鹿沢字野尻14-134 |
| 指定区分 | 国登録有形文化財(建造物)/登録番号 02-0105/登録基準「造形の規範となっているもの」 |
| 指定年 | 令和4年(2022年)10月31日登録・同日告示 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造2階建、鉄板葺、建築面積170㎡(構造欄)。解説文は「平屋建、切妻造金属板葺」と記載 |
| 所有者 | 国のデータベースに記載なし |
| 公開状況 | 喫茶・展示館として公開。入館料は大人300円・小人100円(喫茶利用者無料)、10時〜17時、水・木曜休との訪問者情報あり。要事前確認 |
| 建設年 | 昭和12年(1937年)/同37年頃増築/平成20年(2008年)移築 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「旧増川営林署庁舎(展示館しょうわ)」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00014309
- 文化遺産オンライン「旧増川営林署庁舎(展示館しょうわ)」
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/546078
- 青森県教育委員会文化財保護課「登録有形文化財(登録)」
- https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kyoiku/e-bunka/torokuyukei_102.html
- 青森市「国指定文化財」
- https://www.city.aomori.aomori.jp/bunka_sports_kankou/bunka_geijutsu/1005024/1005036/1005037/1005038.html
- 青森県観光情報サイト Amazing AOMORI「道の駅なみおか アップルヒル」(アクセス参考)
- https://aomori-tourism.com/spot/detail_318.html
最終更新日: 2026.08.14