石場家住宅:弘前城下に息づく江戸時代の商家建築

弘前城の北門・亀甲門の正面に佇む石場家住宅は、津軽地方に現存する数少ない近世商家の遺構として、1973年(昭和48年)に国の重要文化財に指定されました。江戸時代中期に建てられたとされるこの大規模な町家建築は、釿(ちょうな)で仕上げられた太い梁や豪壮な指物、雪国特有の「こみせ」を備え、かつての津軽の商家の繁栄を今に伝えています。現在も「石場家酒店」として地酒の販売を続けており、300年以上にわたり商いの灯を絶やさぬ生きた文化財として、国内外の訪問者を魅了しています。

歴史的背景

石場家は代々「清兵衛(せいべえ)」を名乗り、屋号を「マルセ」と称して、弘前藩出入りの商人として藩内の藁工品(わらこうひん)や荒物を取り扱っていた豪商です。菩提寺には元禄期(1688~1704年)の墓碑が残されており、少なくとも18世紀初頭から続く由緒ある家柄であることがわかります。

現在の主屋は18世紀中頃の建築と推定されていますが、もとは別の場所にあったものを19世紀初頭に現在地——弘前城北口の亀甲門前、外堀端の通りの角地——に移築したと考えられています。この移築の際に、東側に座敷部分が増設されました。時代の変遷とともに取り扱う品物も藁製品から米や肥料、そして現在の酒・たばこへと変わりましたが、石場家は連綿と家名を守り続けてきました。弘前城に隣接し、亀甲門向かいの四辻に面するという好立地は、石場家が藩政時代に大きな影響力を持つ商家であったことを物語っています。

重要文化財としての価値

石場家住宅は1973年(昭和48年)2月23日に国の重要文化財に指定されました。その指定理由は多岐にわたります。まず、津軽地方において近世の商家建築がほとんど残っていない中で、石場家住宅はその数少ない遺構の一つであり、地域の商業史・建築史を知る上で極めて貴重な存在です。

建物の規模は非常に大きく、桁行約18.1メートル、梁間約18.2メートルの本体に加え、東面と北面に突出部を持つ堂々たる構えを見せています。釿(ちょうな)で角材に仕上げた太い梁や指物を用いた豪壮な構造は、この地方の豪商にふさわしい威容を示しています。座敷部分の造作も優秀で、細部にまで行き届いた仕上げは当時の高い建築技術を伝えています。さらに、正面の南側と西側に設けられた「こみせ」は、豪雪地帯特有の雁木造りの伝統を色濃く残しており、建築史的にも高く評価されています。

建築の見どころ

石場家住宅は正面15間半(約28メートル)、奥行22間(約40メートル)の広大な屋敷地の西南隅に位置し、間口9間の南面が入母屋造の妻入で構成されています。屋根はもとは石置の柾葺(まさぶき)でしたが、現在は鉄板葺に改められています。

建物に入ってまず目を引くのが、玄関から奥の土蔵まで続く広大な土間(どま)です。天井を見上げると、釿で仕上げられた太い梁が幾重にも組まれた豪壮な梁組が広がり、藩政時代の大店(おおだな)の雰囲気がそのまま漂っています。土間には古い井戸も残されており、往時の商家の生活を偲ぶことができます。

「常居(じょうい)」と呼ばれる家族の居間には、囲炉裏が残されています。梁に巻き付けられた年縄(としなわ)は、毎年新年に掛け替えられる習わしのもので、家の歴史の重みを感じさせます。正面道路に沿って設けられた15畳の角座敷は、19世紀初頭の移築時に増設されたもので、商家の格式を示す洗練された意匠が見られます。

そして、建物の南面と西面に張り出す「こみせ」は、石場家住宅を象徴する存在です。こみせとは、雪の多い津軽地方の商家街で、歩行者が雪や雨を避けて通行できるように店先に設けた木造のアーケードのことです。かつて亀甲町は商家街として賑わい、多くの建物にこみせが設けられていましたが、現在この界隈でこみせが残る建物は石場家住宅のみとなっており、その希少性は計り知れません。

見学案内

石場家住宅は現在も石場家酒店として営業しており、津軽の地酒を購入することができます。有料で内部を見学することも可能で、土間部分から座敷、梁組などを間近に見ることができます。商家として300年以上の歴史を持つ空間に身を置き、江戸時代の暮らしに思いを馳せるひとときは格別です。

JR弘前駅からは、浜の町・石渡線バスに乗車して約15分、「亀甲門前」バス停下車すぐです。弘前城公園の北門(亀甲門)から亀甲橋を渡ると、正面の交差点角に堂々たる姿の石場家住宅が見えます。弘前城の散策と合わせて訪れるのがおすすめです。

周辺の観光スポット

石場家住宅の周辺には、弘前を代表する観光スポットが集まっています。目の前に広がる弘前公園(弘前城跡)は、毎年春に約200万人が訪れる日本屈指の桜の名所です。現存する日本最北端の天守をはじめ、城門や櫓など多くの重要文化財が残されています。

石場家住宅から徒歩約1分の場所には津軽藩ねぷた村があります。弘前ねぷたまつりで使われる実物大の大型ねぷたの展示や、津軽三味線の生演奏、津軽塗・こぎん刺しなどの伝統工芸の製作体験が楽しめます。敷地内の揚亀園は、岩木山を借景とした大石武学流庭園で国の登録記念物に指定されています。

少し足を延ばせば、明治時代のルネサンス様式が美しい旧第五十九銀行本店本館(重要文化財)、仲町の武家屋敷群、弘前れんが倉庫美術館、弘前市りんご公園など、歴史と文化を楽しめるスポットが数多くあります。弘前は主要な観光地が中心部にコンパクトにまとまっているため、徒歩や循環バスで効率よく巡ることができます。

Q&A

Q石場家住宅の内部は見学できますか?
Aはい、有料で見学が可能です。入場料は中学生以上100円、小学生以下は無料です。開館時間は9:00~17:00で、不定休および1月1日・2日が休館日となっています。土間部分から内部を見学でき、豪壮な梁組や囲炉裏のある常居など、江戸時代の商家の雰囲気を体感できます。
Q「こみせ」とは何ですか?
Aこみせとは、豪雪地帯である津軽地方の商家街に見られた、店先に設けられた木造のアーケード(雁木)のことです。冬季の積雪や雨から歩行者を守るための通路として機能していました。石場家住宅では南面と西面にこみせが残されており、かつての亀甲町商家街でこみせを保持する唯一の建物として貴重な存在です。
Q現在も商売をしているのですか?
Aはい。石場家は現在「石場家酒店」として津軽の地酒やたばこの販売を続けています。江戸時代の藁工品・荒物商から時代とともに取り扱う商品は変わりましたが、300年以上にわたって商家としての歴史を紡ぎ続けている、生きた文化財です。
Q弘前駅からのアクセスを教えてください。
AJR弘前駅から弘南バスの浜の町・石渡線に乗車し、約15分で「亀甲門前」バス停に到着します。バス停からはすぐの場所にあります。タクシーの場合は約10分、徒歩では約25~30分です。弘前城公園の北門(亀甲門)のすぐ向かいに位置しているため、お城の散策と合わせて訪問するのが便利です。
Qおすすめの訪問時期はありますか?
A一年を通じて見学可能ですが、特におすすめの時期があります。春(4月下旬~5月上旬)は弘前さくらまつりと合わせて訪れると、桜に彩られた弘前城と歴史的な商家を同時に楽しめます。夏(8月上旬)は弘前ねぷたまつりの時期で、周辺が祭りの熱気に包まれます。冬は雪が積もるこみせの風情を味わうことができ、この建築が雪国の暮らしのために生まれたことを実感できます。

基本情報

名称 石場家住宅(いしばけじゅうたく)
指定区分 国指定重要文化財(昭和48年2月23日指定)
建築年代 江戸時代中期(18世紀中頃)、19世紀初頭に現在地へ移築・改造
建物形式 入母屋造、妻入、鉄板葺(旧・柾葺)、こみせ付
規模 桁行約18.1m、梁間約18.2m、一部二階、東面・北面突出部あり
所在地 〒036-8332 青森県弘前市大字亀甲町88番地
電話番号 0172-32-1488
開館時間 9:00~17:00
休館日 不定休、1月1日・2日
入場料 中学生以上100円/小学生以下無料
交通アクセス JR弘前駅より弘南バス浜の町・石渡線約15分「亀甲門前」下車すぐ
所有者 個人

参考文献

石場家住宅 — 弘前市公式ホームページ
https://www.city.hirosaki.aomori.jp/gaiyou/bunkazai/kuni/kuni17.html
石場家住宅(青森県弘前市亀甲町) — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/143768
石場家住宅 — 青森県庁ホームページ
https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kyoiku/e-bunka/jubun_kenzoubutu_16.html
石場家住宅 — HIROSAKI Heritage(建物が語る弘前文化遺産)
https://www.hirosaki-heritage.com/ishibake-jutaku/
石場家住宅 — 弘前観光コンベンション協会
https://hirosaki-kanko.or.jp/details.html?id=CNT00404021400065489
石場家住宅 — Amazing AOMORI(青森県観光情報サイト)
https://aomori-tourism.com/spot/detail_104.html
石場家住宅 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9F%B3%E5%A0%B4%E5%AE%B6%E4%BD%8F%E5%AE%85
石場家住宅 — 日本民家探訪
https://www.jminka.com/post/aomori-ishibashike
石場家住宅(青森県弘前市亀甲町) — 国指定文化財等データベース
https://online.bunka.go.jp/db/heritages/detail/143768

最終更新日: 2026.04.17