火事のあとに建てられた店
佐滝本店(さたきほんてん)は、青森県三戸郡三戸町大字八日町49にある大正期の鉄筋コンクリート造店舗で、平成9年(1997年)7月15日に国の登録有形文化財に登録された。文化庁の国指定文化財等データベースは建築年代を大正13年(1924年)とするが、青森県と三戸町はいずれも大正14年(1925年)竣工と記している。この1年の差について、公表資料による説明は見当たらない。
商いの歴史は建物より古い。初代佐藤瀧次郎が雑貨商「佐滝」を八日町に開いたのは明治19年(1886年)である。八日町は三戸城下を貫く商人町であり、以来およそ40年、店はこの通りで商いを続けた。
それを断ち切ったのが大正12年(1923年)の三戸大火である。
店舗を焼失した瀧次郎は、木造での再建を選ばなかった。耐火建築である鉄筋コンクリート造を採用したのである。大正期の東北地方において、鉄筋コンクリートは銀行や官公庁の材料であって、地方の雑貨商が手を出すものではなかった。この判断があったからこそ、大火以前の八日町の建物がほぼ姿を消したなかで、この一棟だけが残っている。
設計と施工を担ったのは弘前の堀江組。青森県の記録は、設計者を堀江金蔵、すなわち堀江組の棟梁・堀江佐吉の六男と特定している。堀江組は津軽で銀行建築の実績を重ねた工匠集団であり、その素性は建物の内部にはっきりと表れている。
登録番号02-0001という位置づけ
佐滝本店は登録有形文化財であって、国宝や重要文化財のような指定文化財ではない。登録制度は平成8年(1996年)の文化財保護法改正で導入されたもので、現に使われ続けている近代以降の建造物を、所有者の自由度を保ちながら緩やかに保護する仕組みである。指定と登録は上下関係ではなく、対象と手法が異なる別の制度と理解した方がよい。
この建物の登録番号は02-0001。02は青森県の県コードであり、0001は県内で最初に登録された建造物であることを示す。登録回は第4回、登録告示は平成9年7月30日。登録基準は「造形の規範となっているもの」が適用されている。
その基準を支える評価は二つある。文化庁は本建物を南部地方における鉄筋コンクリート造の先駆けと位置づける。青森県はさらに踏み込んで、県内最古の現存する鉄筋コンクリート造店舗と記す。日本全体で見れば大正13年の鉄筋コンクリート建築は珍しくないが、人口規模のさして大きくない町の雑貨店がそれを選んだ例は、当時としても限られていた。
屋根飾りと、銀行のような室内
建築面積は99平方メートル。塔屋風の屋根飾りが軒線の上に立ち上がる。文化庁の解説はこの構成に、当時流行したドイツ表現派の影響を読み取っている。量塊感と垂直性を強調し、頂部に彫刻的な造形を置く傾向は、大正期の日本の建築界が輸入していた最新の意匠語彙であった。三戸の商店街にそれが現れたことの意味は小さくない。
側面にはアーチ門が付設されている。正面からは気づきにくいので、建物の脇まで回り込んで見たい。
2階正面は近年改修を受けた。かつてこの建物は蔦に覆われた外観で知られていたが、文化庁の解説は改修によってその趣が一新されたと明記している。古い写真集や1990年代の案内書の記憶をもって訪れると、印象は相当に異なる。
内部には堀江組の来歴が濃く残る。青森県の記録によれば、天井高は約4.5メートル。梁と天井縁には曲線を用いた装飾が施され、柱の頂部にはトスカーナ式オーダーを思わせる柱頭飾りが置かれる。設えも同じ方向を向いており、カウンター、金庫、応接間が備わる。雑貨店に地方銀行の空間文法が与えられたわけである。屋上には鉄製の小ベランダも設けられた。
この高い天井の下に立つと、大正12年の火災が単なる前史ではなく、施主が設計者に手渡した条件そのものであったことが実感される。
見学と交通
青森県は佐滝本店の公開状況を「公開」とし、問合せ先に三戸町教育委員会事務局(電話0179-20-1157)を挙げている。ただし三戸町は、佐藤家建造物群が私有地であるため見学には事前連絡が必要と案内している。県の記載は「調整すれば見学できる」という意味に受け取るのが実態に近い。券売所も定まった開館時間も拝観料もない。
撮影の可否については公表がないため、連絡の際に併せて確認するとよい。
最寄り駅は青い森鉄道の三戸駅。ただし三戸駅は三戸町ではなく隣接する南部町にあり、八日町の市街地までは車でおよそ10分を要する。タクシーの営業所が八日町54-3にあり、実質的に同じ通り沿いである。三戸町は1乗車100円均一のコミュニティバスも運行している。自動車では東北自動車道八戸インターチェンジから約50分。
Q&A
- 佐滝本店は見学できますか。手続きはどうすればよいですか。
- 青森県は公開と記載していますが、佐藤家の建造物群は私有地に建つため、三戸町は事前連絡を求めています。窓口は三戸町教育委員会事務局(電話0179-20-1157)です。決まった開館時間や拝観料はありません。
- 佐滝本店は重要文化財や国宝ですか。
- いずれでもなく、登録有形文化財です。平成8年の文化財保護法改正で導入された登録制度に基づくもので、現役で使われている近代以降の建造物を主な対象とします。登録年月日は平成9年7月15日、告示は同年7月30日です。
- 佐滝本店の建築年はいつですか。資料によって異なるのはなぜですか。
- 文化庁のデータベースは大正13年(1924年)、青森県と三戸町は大正14年(1925年)としています。いずれも大正12年の三戸大火の後の再建である点は一致します。一次資料としては文化庁の記載を優先すべきですが、1年の差の理由は公表資料からは判明しません。
- 佐滝本店の設計と施工は誰が手がけたのですか。
- 弘前の堀江組が設計施工を担当しました。青森県は設計者を、堀江組棟梁・堀江佐吉の六男である堀江金蔵と記しています。堀江組は銀行建築に実績があり、天井の高い室内や柱頭飾りといった内装の性格はその経験に由来します。
- 佐滝本店の周辺に他の文化財はありますか。
- 同じ佐藤家の所有として、佐滝文庫蔵(明治26年)、佐滝土蔵(大正元年)、佐滝別邸(大正14年)、佐滝門及び塀(大正14年)の4件が登録されています。二棟の蔵は八日町の敷地内にあり、別邸と門・塀は文化庁の記載では大字梅内字雷平285-2です。5件で明治から大正までおよそ30年の建築活動を辿ることができます。
基本情報
| 名称 | 佐滝本店(さたきほんてん) |
|---|---|
| 所在地 | 青森県三戸郡三戸町大字八日町49 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号 02-0001 |
| 指定年 | 登録年月日 平成9年(1997年)7月15日/告示 同年7月30日(第4回登録) |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 鉄筋コンクリート造2階建、建築面積99平方メートル |
| 所有者 | 個人 |
| 公開状況 | 青森県は「公開」と記載。私有地のため三戸町教育委員会事務局(0179-20-1157)への事前連絡が必要 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース:佐滝本店
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000232
- 青森県教育庁文化財保護課:佐滝本店
- https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kyoiku/e-bunka/torokuyukei_1.html
- 三戸町:佐藤家建造物群(国登録有形文化財)
- https://www.town.sannohe.aomori.jp/soshiki/kyouikuiinkaijimukyoku/rekishi_bunka/1/1906.html
- 文化遺産オンライン:佐滝本店
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/165542
- 三戸町:三戸町へのアクセス
- https://www.town.sannohe.aomori.jp/soshiki/machidukuri/kankou/1/5376.html
最終更新日: 2026.08.13