元和8年に建てられた朱塗りの塔

高さ約31.6メートルの朱塗りの五重塔が、千葉県市川市中山にある日蓮宗の寺院・法華経寺の境内に立っている。完成は元和8年(1622年)、江戸時代の前期にあたる。千葉県内に残る江戸時代以前の様式をもつ五重塔は、この一基だけである。

建立したのは本阿弥家10代の本阿弥光室(1583〜1625)。本阿弥家は刀剣の鑑定と諸工芸で知られた一族で、書や陶芸で名高い光悦もこの一門から出ている。光室は、父・光徳の三回忌と母・妙光の五回忌に合わせてこの塔を建てた。資金を援助したのは、加賀藩主の前田利光、のちの3代利常である。

指定の理由と価値

五重塔が重要文化財に指定されたのは、大正5年(1916年)5月24日のことである。価値の一つは、その希少さにある。関東地方には江戸時代以前の様式をもつ五重塔がほとんど残っておらず、現存するのはこの塔を含めて4基ほど。東京都大田区の池上本門寺に、もう一基が立っている。

様式は落ち着いた和様で、各層は方三間。垂木の組み方には古い手法が残る。初層から四層までを二重繁垂木とし、最上層だけを扇垂木としているのは、江戸時代以前の傾向を示す造りである。装飾は控えめで、蓑束と格子、窓下の格狭間のほかには彫刻もほとんど見当たらない。外部は全体が朱塗りで仕上げられている。

見どころ

塔のまわりを歩くと、四面とも同じ構えであることに気づく。各面の中央に桟唐戸を設け、その両脇に連子窓を配する。二層目から上には縁と手すりがめぐるが、初層には手すりがない。

部屋としての体裁をもつのは初層だけである。内部では心柱を囲んで金箔を施した四天柱が立ち、手すりをめぐらせた須弥壇が置かれている。柱の上部や組物には彩色の文様が残る。二層目から上は階をなさず、外から見えない部分は野仕上げのまま、構造材が入り組んで見える状態に留めている。心柱は地面から立ち上げるのではなく上から吊る懸垂式で、これは後の江戸期の塔にもみられる構造である。

訪れる人へひとこと。塔の内部は通常公開されていない。境内から外観を眺める形になるが、緑を背にした朱色と、五段に小さくなっていく屋根の重なりは、ゆっくり一周して見る価値がある。

周辺とアクセス

法華経寺は京成中山駅から徒歩約5分、JR総武線の下総中山駅からは徒歩約10分の距離にある。黒門から続く石畳の参道にはソメイヨシノが植えられ、4月の初めには花見の人でにぎわう。

法華経寺は文応元年(1260年)に開かれた日蓮宗の大本山の一つで、見どころは五重塔だけではない。室町時代後期の法華堂は、日蓮宗の建築のなかでも古い部類に入る。比翼入母屋造の祖師堂や四足門も重要文化財に指定されている。寺には日蓮筆の『立正安国論』『観心本尊抄』という二つの国宝も伝わるが、こちらは常時の公開はされていない。

境内の鬼子母神堂は、江戸三大鬼子母神の一つに数えられる。11月から2月にかけては、100日間の水行を含む荒行が営まれる。春の千部会、秋の御会式の時期には骨董市が立ち、参拝客でにぎわう。

Q&A

Q五重塔の中に入れますか。
A内部は通常公開されていません。塔は境内から外観を眺める形になります。そもそも部屋として造られたのは初層だけです。
Qいつ、誰が建てたのですか。
A元和8年(1622年)、刀剣鑑定の名家・本阿弥家の光室が、両親の菩提を弔うために建てました。加賀藩主の前田利光が資金を援助しています。
Q高さはどのくらいですか。
A地面から相輪の先端まで、総高は約31.6メートルです。
Q最寄り駅はどこですか。
A京成中山駅から徒歩約5分、JR下総中山駅から徒歩約10分です。
Q拝観料はかかりますか。
A五重塔が立つ境内は無料で入れます。駐車場も用意されており、無料です。

基本データ

名称法華経寺五重塔(ほけきょうじごじゅうのとう)
所在地千葉県市川市中山2-10-1
指定区分重要文化財(建造物)
指定年月日大正5年(1916年)5月24日
建立元和8年(1622年)/江戸前期
構造・寸法三間五重塔婆、瓦棒銅板葺、総高約31.6メートル
員数1基
所有者法華経寺
アクセス京成中山駅から徒歩約5分、JR下総中山駅から徒歩約10分
公開状況外観のみ見学可(内部は非公開)

参考文献

法華経寺五重塔/千葉県
https://www.pref.chiba.lg.jp/kyouiku/bunkazai/bunkazai/n111-003-2.html
法華経寺五重塔 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/121274
国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/464
正中山 法華経寺(日蓮宗 寺院ページ)
https://temple.nichiren.or.jp/1041026-hokekyoji/
日蓮宗大本山 中山法華経寺/ちば観光ナビ
https://maruchiba.jp/spot/detail_10053.html

最終更新日: 2026.06.04