久留里街道に西面する商家

旧河内屋店舗及び主屋は、千葉県君津市久留里市場にある昭和8年(1933年)建築の商家建築で、平成21年(2009年)8月7日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。木造平屋一部2階建、瓦葺、建築面積135平方メートルの一棟。登録番号は12-0125、第64回の登録にあたり、文化庁のデータベースでは登録告示日を同年8月25日と記録している。

建物は久留里街道、現在の国道410号に西面して建っている。間口は7.3メートル。街道に接する部分が切妻造平入のミセ、つまり店舗で、その後方に木造2階建の主屋が続く。両者のあいだは両下造(りょうげづくり)で繋がれている。屋根が棟から両側へ下る形式で、店と住まいという性格の違う二つの建物を、途切れさせずに一棟にまとめる工夫だ。

ミセの内部は、内法の高い格天井の一室として造られた。天井を格子状に組む格天井は、本来は寺社や格式ある座敷に使われる仕上げである。それを商家の店先に用い、しかも天井までの高さを稼いでいる。当初は後寄りに低い床を張っていたことも記録されており、土間と床の高低差を客の動きに合わせて設計していたことがうかがえる。

所有者は個人。君津市が公表している市内文化財一覧では、旧河内屋店舗及び主屋が市内で唯一の国登録文化財として記載されている。

登録基準は「歴史的景観への寄与」

登録の根拠となった基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。個々の意匠の完成度よりも、街道沿いの町並みを構成する一軒としての価値が評価された、と読める。

その評価を支えているのが正面まわりの造りだ。出桁造(だしげたづくり)は、軒下の桁を柱筋より前へ持ち出して庇を深く張り出す手法で、町家の正面に厚みと影を与える。そこに下屋庇が重なり、さらに棟が高く積まれる。街道を歩く人の目線に対して、上へ上へと積み上がっていく構えになっている。文化庁の解説はこれを「重厚な外観をつくる」と表現している。

河内屋という屋号の来歴は、建物より古い。千葉県教育委員会の解説によれば、この商家は江戸期から続くと伝えられ、明治期には金物やガラス、猟具などを扱った。とりわけ知られていたのが、久留里鎌と、上総掘りの井戸部品の販売である。

上総掘りは、明治中期に上総地方で発達した井戸掘りの技術だ。竹を細く割ってひご状にしたものを繋ぎ、そのしなりを利用して地下深くまで掘り進む。重機に頼らず少人数で深井戸を掘れるこの方法は、房総の地下水を汲み上げる手段として広まった。久留里の町なかにいくつも自噴井戸があるのは、この技術の産物である。「生きた水・久留里」は平成20年(2008年)に環境省の「平成の名水百選」へ選ばれており、千葉県内からの選定はこの一件のみだ。

つまり河内屋の店先には、名水の町を成り立たせた道具そのものが並んでいたことになる。昭和8年という建築年は、久留里街道沿いの商業がまだ活気を保っていた時期にあたる。建物の重厚さは、その時代の商いの規模をそのまま反映していると考えてよい。

訪ね方と、久留里の歩き方

建物は現在、ギャラリーとして改装され、さまざまな展示の場として活用されている。千葉県教育委員会の解説にそう記されている。ただし所有者は個人であり、常設の観光施設ではない。内部を見学できるかどうかは展示の開催状況によるため、訪問前に久留里観光交流センターへ問い合わせておくのが確実だ。街道側からの外観は、通りを歩けばいつでも見ることができる。

交通はJR久留里線が基本になる。木更津駅から上総亀山駅へ向かう単線のローカル線で、久留里駅は久留里市場の集落のなかにある。旧河内屋のある仲町も同じ街道沿いで、駅から歩ける距離だ。車の場合は木更津東インターチェンジから久留里方面へ約10分。ただし国道410号は建物のすぐ際を通っており交通量もあるため、路上駐車は避けたい。

久留里駅から徒歩1分の久留里観光交流センターには、館内に「生きた水久留里 酒ミュージアム」が併設されている。かずさ8蔵の地酒が展示され、試飲はおちょこ1杯200円。3杯(600円)で久留里の名水のペットボトルが1本もらえる。開館時間は平日が午前10時30分から午後4時、土日祝が午前10時から午後4時で、水曜が休館日(祝日の場合は開館し翌日休館)。駐車場は50台分あり無料だ。久留里城周辺と城下町のガイドも受け付けており、原則3名以上、2週間前までの予約が必要となっている。

町なかには水汲み場が点在し、大きなタンクを抱えた人が入れ替わり立ち寄っていく。久留里城址は山の上にあり、資料館では上総掘りの用具も展示されている。街道の商家、井戸、酒蔵、山城。ひとつの谷あいの町に、水を軸にした要素が揃っている。

Q&A

Q旧河内屋店舗及び主屋は見学できますか。内部は公開されていますか。
A外観は久留里街道(国道410号)沿いからいつでも見ることができます。内部については、千葉県教育委員会がギャラリーとして改装され展示の場に活用されていると説明していますが、所有者は個人であり常設の公開施設ではありません。見学の可否は展示の開催状況によるため、久留里観光交流センター(電話0439-27-2875)に事前確認することをおすすめします。
Q旧河内屋店舗及び主屋へのアクセス方法を教えてください。
AJR久留里線の久留里駅が最寄りで、建物は同じ久留里街道沿いの久留里市場仲町にあり、駅から徒歩圏です。車では木更津東インターチェンジから久留里方面へ約10分。建物の前を通る国道410号は交通量があり路肩も狭いため、久留里観光交流センターの無料駐車場(約50台)に停めて歩くほうが安全です。
Q旧河内屋店舗及び主屋は何を商っていた店だったのですか。
A千葉県教育委員会の解説によれば、江戸期から続くと伝えられる商家で、明治期には金物やガラス、猟具などを扱いました。とりわけ久留里鎌と、上総掘りによる井戸部品の販売で知られていました。上総掘りは明治中期に上総地方で発達した井戸掘りの技術で、久留里の自噴井戸群を支えた工法です。
Q旧河内屋店舗及び主屋の建築上の特徴はどこにありますか。
A間口7.3メートルで、街道側に切妻造平入のミセ(店舗)、後方に木造2階建の主屋を置き、その間を両下造で繋いでいます。ミセは内法の高い格天井の一室で、当初は後寄りに低い床が張られていました。正面は出桁造として下屋庇を付け、棟を高く積むことで重厚な外観をつくっています。
Q旧河内屋店舗及び主屋はなぜ登録有形文化財になったのですか。
A登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」です。個々の意匠の希少性というより、久留里街道沿いの城下町の町並みを構成する建物としての価値が評価されました。平成21年(2009年)8月7日の登録で、君津市が公表する市内文化財一覧では市内唯一の国登録文化財として記載されています。
Q旧河内屋店舗及び主屋の周辺には何がありますか。
A久留里駅から徒歩1分の久留里観光交流センターに「生きた水久留里 酒ミュージアム」があり、かずさ8蔵の地酒展示と試飲(おちょこ1杯200円)が楽しめます。町なかには自噴井戸の水汲み場が点在し、「生きた水・久留里」は平成20年(2008年)に環境省の平成の名水百選へ千葉県から唯一選ばれました。山上には久留里城址と資料館があり、上総掘りの用具も展示されています。

基本データ

名称旧河内屋店舗及び主屋(きゅうかわちやてんぽおよびしゅおく)
所在地千葉県君津市久留里市場字仲町158-1他
指定区分国登録有形文化財(建造物)/登録基準「国土の歴史的景観に寄与しているもの」/登録番号12-0125
指定年平成21年(2009年)8月7日 登録(登録告示は同年8月25日)
員数1棟
寸法木造平屋一部2階建、瓦葺、建築面積135平方メートル、間口7.3メートル
所有者個人
公開状況外観は街道沿いから見学可。内部はギャラリーとして活用されるが常設公開ではないため、久留里観光交流センターへ事前確認が必要

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)― 旧河内屋店舗及び主屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00007730
文化遺産オンライン ― 旧河内屋店舗及び主屋
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/173032
千葉県教育委員会 ― 旧河内屋店舗及び主屋
https://www.pref.chiba.lg.jp/kyouiku/bunkazai/bunkazai/q111-073.html
君津市 ― 市内文化財
https://www.city.kimitsu.lg.jp/soshiki/41/342.html
君津市 ― 久留里観光交流センター(生きた水久留里 酒ミュージアム)
https://www.city.kimitsu.lg.jp/site/kanko/2188.html

最終更新日: 2026.08.19