茂木七郎右衛門家住宅向蔵:醤油王の屋敷に残る江戸時代の土蔵

千葉県野田市の中心部に、日本の醤油産業の発展を支えた名家・茂木七郎右衛門家の邸宅が静かに佇んでいます。その広大な敷地内に残る「向蔵(むこうぐら)」は、江戸時代に建てられた土蔵で、醤油醸造で栄えた一族の暮らしと繁栄を今に伝える貴重な建造物です。

平成30年(2018年)3月、向蔵を含む茂木七郎右衛門家住宅の18件の建造物が国の登録有形文化財に登録されました。主屋、書院、土蔵群、門・塀、そして敷地内に祀られた琴平神社に至るまで、江戸時代後期から大正時代にわたる建物群が良好に保存されており、野田の醤油文化を象徴する文化遺産として高く評価されています。

茂木七郎右衛門家と野田の醤油醸造

茂木七郎右衛門家は、安永元年(1772年)に屋号を「柏屋」として醤油醸造業を興しました。利根川と江戸川という二つの大河に恵まれた野田は、原材料の調達と製品の江戸への輸送に極めて有利な地であり、茂木家はこの地の利を活かして醤油醸造家としての地歩を固めていきました。

明治20年(1887年)に野田醤油醸造組合が結成されると、五代茂木七郎右衛門が頭取に就任。さらに大正6年(1917年)には、茂木家をはじめとする醸造家が合同して野田醤油株式会社(のちのキッコーマン株式会社)を設立し、六代茂木七郎右衛門が初代社長に就任しました。茂木七郎右衛門家は、野田の醤油産業の発展を語る上で欠かすことのできない存在です。

向蔵の建築と特徴

向蔵は、邸宅内に配された複数の土蔵の一つで、「向こう側にある蔵」という配置上の位置関係から名付けられたものです。日本の伝統的な土蔵造りの技法で建てられており、木骨の軸組に竹と縄で下地を編み、その上に何層もの土壁を塗り重ね、最終的に漆喰で仕上げるという工程を経ています。

土蔵は耐火性・防湿性・防盗性に優れた構造として知られ、壁の厚さは30センチメートルにも及ぶことがあります。江戸時代の豪商にとって、貴重な財産や書類、家宝を守るために土蔵は不可欠な存在でした。茂木七郎右衛門家の敷地内には、向蔵のほかにも本蔵、新蔵、奥文庫蔵、穀物蔵、琴平蔵と、用途に応じた複数の蔵が設けられており、その数の多さは一族の繁栄ぶりを如実に物語っています。

登録有形文化財としての価値

茂木七郎右衛門家住宅が登録有形文化財として評価された理由は、個々の建物の建築的価値に加え、江戸時代後期から大正時代にかけての醤油醸造家の邸宅が、主屋・書院・土蔵群・門塀・神社建築に至るまで、ほぼ完全な形で現存している点にあります。

主屋は外壁を黒漆喰で仕上げた重厚な佇まいを見せ、書院には透彫欄間やシャンデリアなど和洋折衷の瀟洒な意匠が施されています。新座敷は関西風の建築様式で、背面に大壁や鉄板張を採用して防火対策を講じるなど、随所に工夫が凝らされています。正門は堅牢な薬医門、煉瓦塀と土塀はともに4メートルを超える高さを誇り、防犯・防火への万全の備えがうかがえます。

敷地東隣に境内を構える琴平神社は、寛政元年(1789年)に二代茂木七郎右衛門が讃岐の金刀比羅宮から分祠したもので、本殿・神楽殿・額殿・手水舎の全てが立川流の宮大工によって建てられた格式高い社殿群です。

見どころと楽しみ方

茂木七郎右衛門家住宅は現在も個人のお住まいとして使用されているため、内部の見学はできません。しかし、敷地を囲む高い煉瓦塀や土塀、格式ある正門、そして塀越しに望む土蔵の屋根などから、往時の壮大さを十分に感じ取ることができます。

隣接する琴平神社は毎月10日に一般参拝のために開門されます。立川流の宮大工による精緻な彫刻で飾られた本殿は必見で、向唐破風造の照り起り屋根という独特の屋根形式も見どころの一つです。参拝日には、一般の方も境内に入ることができますので、訪問の際にはぜひ日程を合わせてみてください。

野田市駅周辺には、茂木本家住宅、茂木佐平治邸(一般公開)をはじめとする醤油醸造家の邸宅が数多く残っており、まるで江戸・明治・大正の時代にタイムスリップしたような散策を楽しむことができます。

周辺情報:野田の醤油文化を巡る

向蔵周辺の観光と合わせて訪れたいスポットをご紹介します。キッコーマンもの知りしょうゆ館は、野田市駅からほど近いキッコーマン野田工場内にあり、醤油の製造工程や歴史を楽しく学べる見学施設です。事前予約制で、見学後には「まめカフェ」でせんべい焼き体験や醤油ソフトクリームも楽しめます。

野田市郷土博物館は、千葉県初の登録博物館として知られ、押絵扁額「野田醤油醸造之図」や江戸時代の醤油醸造工程模型など、野田ならではの資料を展示しています。隣接する旧茂木佐平治邸は無料で庭園や建物を見学でき、醤油醸造家の優雅な暮らしぶりを垣間見ることができます。

茂木本家美術館では、12代茂木七左衛門が収集した葛飾北斎をはじめとする浮世絵や日本画のコレクションを鑑賞できます。また、「日本さくら名所100選」に選ばれた清水公園は、春の桜はもちろん、四季を通じて自然を楽しめるスポットとして人気です。

Q&A

Q向蔵や邸宅の内部を見学することはできますか?
A茂木七郎右衛門家住宅は現在も個人のお住まいとして使用されているため、敷地内および建物内部の見学はできません。ただし、隣接する琴平神社は毎月10日に一般参拝のために開門されますので、その際に境内の建築を間近でご覧いただけます。
Q茂木七郎右衛門家とキッコーマンの関係は?
A茂木七郎右衛門家は、大正6年(1917年)に設立された野田醤油株式会社(のちのキッコーマン株式会社)の創業に深く関わった醸造家です。六代茂木七郎右衛門が初代社長に就任しました。茂木一族の複数の家が同社の設立メンバーとなっています。
Q最寄り駅からのアクセスは?
A東武アーバンパークライン(東武野田線)の野田市駅が最寄りです。駅から徒歩約10分、またはまめバス(9愛宕ルート・11南循環ルート・12新南ルート)や茨急バスの「キッコーマン前」バス停下車徒歩約2分です。東京都心からは乗り換えを含めて約60〜90分です。
Qおすすめの訪問時期はいつですか?
A春(3月下旬〜4月上旬)の桜の季節と秋(11月)の紅葉の季節が特におすすめです。琴平神社の参拝日(毎月10日)に合わせて訪問すると、神社の建築も鑑賞できます。観光客が少なく落ち着いた雰囲気の中で歴史散策を楽しめるのも魅力です。

基本情報

名称 茂木七郎右衛門家住宅向蔵(もぎしちろうえもんけじゅうたくむこうぐら)
文化財種別 国登録有形文化財(建造物)
登録日 平成30年(2018年)3月27日
建築年代 江戸時代
構造 土蔵造
所在地 千葉県野田市野田339
交通アクセス まめバス 9愛宕ルート・11南循環ルート・12新南ルート「キッコーマン前」バス停下車徒歩約2分/茨急バス「キッコーマン前」バス停下車徒歩約2分/東武アーバンパークライン野田市駅から徒歩約10分
見学 内部見学不可(個人住宅のため)。琴平神社は毎月10日に一般参拝のため開門。
入場料 無料(外観のみ)
登録物件 主屋、書院、新座敷、本蔵、新蔵、向蔵、奥文庫蔵、穀物蔵、正門、内門、煉瓦塀、書院北・東側土塀、書院南側板塀、琴平神社本殿、琴平神社神楽殿、琴平神社額殿(絵馬殿)、琴平神社手水舎、琴平蔵(計17棟1基)

参考文献

茂木七郎右衛門家住宅(もぎしちろうえもんけじゅうたく)|野田市ホームページ
https://www.city.noda.chiba.jp/kurashi/kyoiku/bunka/1000585/1017161.html
茂木七郎右衛門家住宅主屋ほか/千葉県
https://www.pref.chiba.lg.jp/kyouiku/bunkazai/bunkazai/q111-103.html
茂木七郎右衛門家住宅などが国の登録有形文化財に|野田市ホームページ
https://www.city.noda.chiba.jp/kurashi/oshirase/kyoikubunka/1012398.html
茂木七郎右衛門 (6代) - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8C%82%E6%9C%A8%E4%B8%83%E9%83%8E%E5%8F%B3%E8%A1%9B%E9%96%80_(6%E4%BB%A3)
野田の醤油醸造 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%8E%E7%94%B0%E3%81%AE%E9%86%A4%E6%B2%B9%E9%86%B8%E9%80%A0
国指定文化財等データベース
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00012540

最終更新日: 2026.03.12