茂木七郎右衛門家住宅新蔵:野田の醤油王が築いた大正期の土蔵建築
千葉県野田市の歴史的な町並みの中に佇む茂木七郎右衛門家住宅新蔵は、日本の醤油産業の黄金期を物語る貴重な建造物です。大正時代に建てられたこの土蔵は、2018年(平成30年)に邸宅内の17棟1基とともに国の登録有形文化財に指定されました。茂木七郎右衛門家は、世界的に知られるキッコーマン醤油の創業家の一つであり、その邸宅全体が江戸時代後期から大正時代にかけての醤油醸造家の暮らしと繁栄を今に伝えています。
茂木七郎右衛門家の歴史:醤油産業の礎を築いた名家
茂木七郎右衛門家は、安永元年(1772年)より屋号「柏屋」として醤油醸造業を営んできた野田を代表する醸造家です。茂木七左衛門家からの分家として始まったこの家は、やがて野田の醤油産業において中核的な存在へと成長しました。明治20年(1887年)には5代茂木七郎右衛門が野田醤油醸造組合の頭取に就任し、業界の近代化を牽引しました。
さらに大正6年(1917年)、茂木一族と髙梨一族の8家が合同して野田醤油株式会社(現キッコーマン株式会社の前身)を設立した際には、6代茂木七郎右衛門が初代社長に就任しています。この合同により200を超える商標が「キッコーマン」に統一され、日本を代表する調味料ブランドが誕生するきっかけとなりました。
新蔵の建築的特徴と価値
新蔵は大正時代に建設された土蔵造りの建物で、主屋の背面において本蔵(旧来の蔵)と並び建っています。土蔵造りとは、木造の骨組みの外側を厚い土壁で塗り込め、さらに漆喰で仕上げる日本の伝統的な防火建築技法です。壁の厚さは20〜30センチメートルにもおよび、優れた耐火性と調湿性を備えているため、貴重な財産や醸造に関わる物資の保管に最適でした。
新蔵が大正時代に増築されたことは、この時期に茂木家の事業がさらなる拡大期を迎えていたことを示唆しています。野田醤油株式会社の設立と前後する時期であり、醤油産業の隆盛とともに安全な保管施設の需要が高まっていた時代背景がうかがえます。本蔵と新蔵が並び建つ配置は、邸宅全体の空間構成を理解するうえで重要な要素であり、醤油醸造家の暮らしの実態を知る貴重な手がかりとなっています。
文化財に指定された理由
平成30年(2018年)3月27日、茂木七郎右衛門家住宅は主屋をはじめとする17棟1基が一括して国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。新蔵は「造形の規範となっているもの」という基準で評価されています。
この指定が特に注目される理由は、邸宅群の残存状態の良さにあります。敷地内には、黒漆喰の外壁が重厚な趣を醸す明治期の主屋、透彫欄間やシャンデリアを備えた瀟洒な書院、関西風の建築手法を取り入れた新座敷、本蔵・新蔵をはじめとする複数の土蔵群、堅牢な薬医門の正門、4メートルを超える煉瓦塀や土塀、そして立川流の宮大工による精緻な彫刻で飾られた琴平神社の社殿群が、江戸時代後期から大正時代にかけての姿をよく保っています。一つの邸宅にこれほど多様な建造物がまとまって残されている例は極めて稀であり、その歴史的・建築的価値は非常に高いものです。
見どころ・魅力
茂木七郎右衛門家住宅は現在も個人の住居として使用されているため、残念ながら建物内部の見学はできません。しかし、周辺の道路からは重厚な正門や4メートルを超える煉瓦塀・土塀の威容を目にすることができ、かつての醤油醸造家の権勢がうかがえます。これらの高い塀は防火・防犯のために築かれたもので、新蔵をはじめとする蔵に保管されていた貴重な財産を守る役割を果たしていました。
邸宅に隣接する琴平神社は、毎月10日に一般参拝のために開門されます。寛政元年(1789年)に2代茂木七郎右衛門が讃岐の金刀比羅宮から分祠した神社で、本殿は向唐破風造の照り起り屋根という特徴的な屋根形式を持ちます。立川流の宮大工、佐藤庄助則久と里次則莊による精緻な彫刻は一見の価値があります。毎年11月10日には例祭が行われ、12年に一度の申年には大祭が催されます。
周辺情報
茂木七郎右衛門家住宅は、野田市の醤油産業の歴史が色濃く残る地区に位置しており、周辺には醤油にまつわる文化施設が点在しています。
徒歩圏内にあるキッコーマンもの知りしょうゆ館(野田工場)では、醤油の製造工程を無料で見学でき、せんべい焼き体験なども楽しめます(要予約)。建築家・山田守が設計した野田市郷土博物館は、千葉県で最初の登録博物館で、江戸時代の醤油醸造模型や高瀬船の模型など野田の歴史を展示しています。2021年には博物館建物自体も国登録有形文化財に登録されました。
また、同じく茂木一族の邸宅である茂木本家住宅(非公開)や、旧茂木佐平治邸を活用した野田市市民会館も近隣に位置しています。上花輪歴史館(旧髙梨家住宅)では醤油醸造家の暮らしを間近に体験でき、名勝「高梨氏庭園」では美しい日本庭園を楽しむことができます。野田市駅周辺の散策では、醤油の香りが漂う工場地帯を含め、歴史と産業が融合した独特のまちの雰囲気を満喫できます。
Q&A
- 新蔵や主屋の内部を見学できますか?
- 茂木七郎右衛門家住宅は現在も個人の住居として使用されているため、新蔵を含む建物内部の見学はできません。ただし、外観は周辺の道路から見ることができ、隣接する琴平神社は毎月10日に一般参拝のため開門されます。
- アクセス方法を教えてください。
- まめバス(9愛宕ルート、11南循環ルート、12新南ルート)または茨急バスの「キッコーマン前」バス停から徒歩約2分です。電車の場合は、東武アーバンパークライン(東武野田線)野田市駅から徒歩約10〜15分です。車の場合は常磐自動車道・柏ICから約25分です。
- 茂木七郎右衛門家とキッコーマンの関係は?
- 茂木七郎右衛門家(屋号:柏屋)は、1917年(大正6年)に設立された野田醤油株式会社(現キッコーマン株式会社)の創業家の一つです。6代茂木七郎右衛門が同社の初代社長を務めました。新蔵をはじめとする邸宅の建造物群は、醤油産業がもたらした繁栄を物語っています。
- 周辺で見学できる醤油関連施設はありますか?
- 近隣にはキッコーマンもの知りしょうゆ館(無料・要予約)、野田市郷土博物館、上花輪歴史館(旧髙梨家住宅)、野田市市民会館(旧茂木佐平治邸)などがあり、野田の醤油文化を多角的に体験できます。
- おすすめの訪問時期はありますか?
- 四季を通じて訪問可能です。春は桜、秋は紅葉が歴史的な町並みに彩りを添えます。琴平神社の例祭は毎年11月10日に行われ、12年に一度の申年には大祭が催されます。キッコーマン工場見学は季節を問わず楽しめますが、事前予約をお勧めします。
基本情報
| 名称 | 茂木七郎右衛門家住宅新蔵(もぎしちろうえもんけじゅうたくしんぐら) |
|---|---|
| 文化財種別 | 国登録有形文化財(建造物) |
| 登録年月日 | 平成30年(2018年)3月27日 |
| 建築年代 | 大正時代 |
| 建物種別 | 住宅附属の蔵(土蔵造) |
| 所在地 | 千葉県野田市野田339 |
| 交通アクセス | まめバス 9愛宕ルート・11南循環ルート・12新南ルート、茨急バス「キッコーマン前」バス停下車 徒歩約2分/東武アーバンパークライン「野田市駅」下車 徒歩約10〜15分 |
| 内部見学 | 不可(個人住宅のため)。琴平神社は毎月10日に開門。 |
| 料金 | 無料(外観のみ公道より見学可) |
参考文献
- 茂木七郎右衛門家住宅(もぎしちろうえもんけじゅうたく)|野田市ホームページ
- https://www.city.noda.chiba.jp/kurashi/kyoiku/bunka/1000585/1017161.html
- 茂木七郎右衛門家住宅主屋ほか/千葉県
- https://www.pref.chiba.lg.jp/kyouiku/bunkazai/bunkazai/q111-103.html
- 茂木七郎右衛門家住宅主屋 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/364997
- 国指定文化財等データベース(文化庁)茂木七郎右衛門家住宅主屋
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00012108
- 茂木七郎右衛門家住宅などが国の登録有形文化財に|野田市ホームページ
- https://www.city.noda.chiba.jp/kurashi/oshirase/kyoikubunka/1012398.html
- 野田の醤油醸造 - Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%8E%E7%94%B0%E3%81%AE%E9%86%A4%E6%B2%B9%E9%86%B8%E9%80%A0
最終更新日: 2026.03.12