山あいから運ばれてきた一軒
越前古窯博物館旧水野九右衛門家住宅(旧水野家住宅主屋、きゅうみずのけじゅうたくしゅおく)は、福井県丹生郡越前町小曽原にある木造2階建の民家で、天保6年(1835年)の建築、平成30年(2018年)5月10日に国の登録有形文化財となった。
もともとこの場所に建っていたわけではない。同じ越前町のうち、山あいの集落である熊谷にあった水野家の住まいを解体し、平成29年(2017年)に越前陶芸村のなかへ組み直したものである。文化庁のデータベースは、この建物を「山村集落からの移築民家」と短く記す。
正面に立つと形がすぐに読める。切妻屋根の妻側から入る切妻造妻入で、その入口の左右に短い突出部が前へ出る。地元でいう両袖造の形式である。外壁は柱を見せる真壁造で、漆喰の白に対して足元を腰板張とし、雨や雪の跳ね返りを受けるようにしている。建築面積は243平方メートル、屋根は瓦葺。
内部は手前から奥へ順に読み解ける。まず土間と板間、その奥に整形四間取で居室が並び、背面には仏間上段と納戸が張り出す。八畳が四つ、いわゆる田の字に並ぶ配置で、襖を外せば三十二畳がひと続きになる。明治中期に改修を受け、平成29年に現在地へ移された。
ひとつ注記しておきたい点がある。文化庁データベースの「年代」欄は天保6年(1835年)とするが、隣の「西暦」欄は1935と記載されている。天保6年は1835年であり、登録時の答申資料をはじめ他の資料もすべて1835年で一致する。
移築された民家が登録される理由
日本の建造物保護には二つの層がある。重要文化財は指定によって強く守られる一方、登録有形文化財はより緩やかで、大きな改変の前に届け出を求めるかわりに、使い続けることを前提とする。この住宅は登録番号18-193、第90回の登録として後者に入った。だからこそ、時間単位で部屋を借りて茶会や稽古に使うことができる。
登録基準は「造形の規範となっているもの」。平成30年3月9日の文化審議会答申は、両袖造という形式が当地方の上層農家の姿を示すこと、そして水野家が庄屋格の旧家であり、先代が越前焼研究で著名であったことを挙げている。
その先代が水野九右衛門(1921年から1989年)である。この博物館そのものが、彼の仕事から生まれた。鯖江市に生まれ、昭和20年(1945年)に熊谷の家へ婿入りし、自宅周辺の水田や山裾に散らばる陶片を拾い集めるところから研究が始まった。当時この焼き物は「織田焼」「小曽原焼」などと呼ばれ、地元と一部の研究者しか知らないものだった。昭和17年(1942年)に小山冨士夫が窯址を調査し、昭和22年(1947年)の論文「越前の古窯」で「越前」の語を用いたことにより、瀬戸・常滑・信楽・丹波・備前と並ぶ六番目の古窯として広く知られるようになる。
水野は40年を越前古窯の解明に費やし、昭和43年(1968年)には私財を投じて水野古陶磁館を開いた。晩年は中世窯を復元して焼成実験にも取り組み、3回目の実験を準備していた平成元年(1989年)9月に世を去った。収集資料は約37,000点、「福井県陶磁器資料(水野九右衛門コレクション)」として国の登録有形文化財となっている。住宅の現在の所有者は福井県である。
畳に座って過ごす見どころ
越前古窯博物館は平成29年(2017年)10月28日に開館した。水野コレクションを展示する資料館、この旧水野家住宅、そして茶室「天心堂」「天心庵」の三つで構成される。茶室は数寄屋建築の中村昌生の設計で、『茶の本』を著し自らを越前生まれと記した岡倉天心を顕彰している。
住宅は柵の向こうに眺めるだけの展示物ではない。八畳四間は襖を外して大空間になり、一室には茶会のための炉が切ってある。傘天井の囲炉裏の間や、中庭に面した広縁もある。集会、大学のゼミ、日本舞踊や雅楽の稽古、マルシェや展示会などに使われている。2月下旬には大正から平成にかけての雛人形およそ500体を並べる展示が開かれ、こちらは入場無料。
開館時間は午前9時から午後5時まで、入館は午後4時30分まで。休館日は月曜日(休日を除く)、休日の翌日(土・日・休日を除く)、および12月28日から1月4日。資料館の常設展は個人300円、30人以上の団体は1人240円で、高校生までの学生、70歳以上の方、障害者手帳をお持ちの方とその付添1名は常設展の観覧料が無料になる。旧水野九右衛門家住宅の和室は1部屋1時間400円、天心庵は900円、天心堂は2,500円。呈茶は生菓子付き800円、干菓子付き500円。撮影の可否はその日の利用状況によって変わるので、受付で確認するとよい。
公共交通で向かうなら少し計画がいる。ハピラインふくい武生駅から福鉄バス(武生・越前海岸線)のかれい崎行きに乗り、「陶芸村口」下車で約30分。福井鉄道の神明駅からは鯖浦線のかれい崎行きで、こちらも約30分。車なら北陸自動車道の武生インター、鯖江インターのいずれからも約30分で、越前陶芸村総合駐車場は250台を収容する。屋外の陶彫広場には岡本太郎やイサム・ノグチの作品が置かれているので、時間には余裕を持ちたい。
Q&A
- 越前古窯博物館旧水野九右衛門家住宅は内部を見学できますか。時間と料金は?
- 見学できます。博物館の一部として午前9時から午後5時まで(入館は午後4時30分まで)開いています。住宅を見て回るだけなら資料館の観覧券は不要で、資料館の常設展は300円。和室を催しに使う場合は1部屋1時間400円です。
- 旧水野九右衛門家住宅はもともとどこに建っていて、いつ移築されたのですか。
- 天保6年(1835年)に現在の越前町熊谷に建てられ、博物館の整備にあわせて平成29年(2017年)に小曽原の越前陶芸村へ移されました。文化庁の記録には明治中期の改修も記されています。
- 旧水野九右衛門家住宅の「両袖造」とはどのような形式ですか。
- 切妻屋根の妻側を正面として出入りし、その左右に短い突出部を前へ出す形式です。体の両側に袖がつくような姿から両袖造と呼ばれ、越前のこの一帯で上層の農家に見られる形といわれます。
- 旧水野九右衛門家住宅のそばで水野コレクションを見ることはできますか。
- できます。住宅からすぐの資料館が展示施設です。水野九右衛門が集めた約37,000点は「福井県陶磁器資料(水野九右衛門コレクション)」として国の登録有形文化財となっており、常設展では平安時代から近現代までの越前焼をたどれます。
- 武生駅から旧水野九右衛門家住宅へはどう行けばよいですか。
- ハピラインふくい武生駅から福鉄バス(武生・越前海岸線)かれい崎行きに乗り、「陶芸村口」で下車して約30分です。車の場合は北陸自動車道の武生インターまたは鯖江インターから約30分、越前陶芸村総合駐車場(250台)が利用できます。
基本情報
| 名称 | 越前古窯博物館旧水野九右衛門家住宅(旧水野家住宅主屋) |
|---|---|
| 所在地 | 福井県丹生郡越前町小曽原107-1-169 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号 18-193 |
| 指定年 | 平成30年(2018年)5月10日登録(第90回登録) |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造2階建、瓦葺、建築面積243平方メートル |
| 所有者 | 福井県 |
| 公開状況 | 越前古窯博物館の一部として公開。午前9時から午後5時(入館午後4時30分まで)。休館日は月曜日(休日を除く)、休日の翌日、12月28日から1月4日。和室は時間貸しあり。 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00012329
- 文化遺産オンライン
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/610573
- 越前古窯博物館(福井県陶芸館)
- https://www.tougeikan.jp/museum/koyou/
- 文化審議会答申 登録有形文化財(建造物)の登録について 平成30年3月9日(PDF)
- https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/pdf/r1392281_30.pdf
- えちぜん観光ナビ 越前古窯博物館
- https://www.town-echizen.jp/spot/spot01Detail.php?id=511
最終更新日: 2026.08.24