旧大和田銀行本店社屋 ― 敦賀の商都としての記憶を今に伝える明治の銀行建築

福井県敦賀市の中心部、石畳の通りに面して静かに佇む旧大和田銀行本店社屋は、明治34年(1901年)に建てられた木造二階建ての商業建築です。敦賀の偉大な実業家・二代目大和田荘七が創業した大和田銀行の発祥の地に建つこの建物は、令和3年(2021年)に国の登録有形文化財に登録されるとともに、日本遺産「荒波を越えた男たちの夢が紡いだ異空間~北前船寄港地・船主集落~」の構成文化財にも認定されています。現在は「みなとつるが山車会館」の別館として活用され、港町敦賀の繁栄の歴史を静かに語り続けています。

歴史的背景

大和田銀行は、明治25年(1892年)に二代目大和田荘七によって個人経営の形で創業されました。荘七は安政4年(1857年)に敦賀の薬屋の末っ子として生まれ、大和田家の婿養子となったのち、明治20年(1887年)に二代目荘七を襲名。その5年後に銀行業を始めました。

当時の敦賀港は、明治32年(1899年)の開港場指定を控え、国際貿易港としての発展の黎明期にありました。ロシアのウラジオストクとの航路が開通し、やがて朝鮮半島との貿易も盛んになるなか、大和田銀行は敦賀の経済を支える中核的な金融機関へと成長していきます。大阪、福井、武生にも支店を展開し、大正7年(1918年)には株式会社に改組されました。

昭和2年(1927年)、荘七は新たな本店社屋(現・敦賀市立博物館の建物、重要文化財)を建設。それ以降、この初代本店社屋は大和田商店として、戦後は小森商事の社屋として使用されました。平成8年(1996年)、敦賀市がこの建物の歴史的重要性を鑑みて買い取り、現在のみなとつるが山車会館の別館として保存・活用されることとなりました。

文化財としての価値

旧大和田銀行本店社屋は、令和3年(2021年)2月26日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。その評価のポイントは、明治期の地方銀行本店の遺構として極めて貴重であること、そして敦賀の中心部における歴史的な通りの景観を形成している点にあります。

また、日本遺産「荒波を越えた男たちの夢が紡いだ異空間~北前船寄港地・船主集落~」の構成文化財としても認定されており、江戸時代から明治期にかけて日本海沿岸を結んだ北前船交易の拠点としての敦賀の歴史を物語る建造物として位置づけられています。敦賀市内に残る10の構成文化財のひとつとして、港町の繁栄を今に伝える貴重な存在です。

建築の見どころ

建物は木造二階建、切妻造桟瓦葺の平入りで、建築面積は約248平方メートルです。最も特徴的なのは正面のファサードで、パラペット(低い壁)を立ち上げることで陸屋根(フラットルーフ)のように見せ、矩形の縦長窓を規則的に並べて洋風の外観を演出しています。屋根は起り屋根(むくりやね)と呼ばれるわずかに反った形状をしています。

内部は、正面側を客溜りと営業室として、その両脇に応接室を配置するという銀行建築らしい構成です。一方、建物の後半部分は和風仕様のまま残されており、いわゆる町家建築の趣を保っています。このように前半が洋風、後半が和風という和洋折衷の構成は、明治期の商業建築の特徴をよく表しており、当時の商人たちが西洋の様式を取り入れながらも日本の伝統的な生活空間を維持していた様子を伝えています。

なお、かつてはこの建物に付随して延宝3年(1675年)銘の棟札を持つ土蔵もありましたが、残念ながら現存していません。

現在の展示内容

みなとつるが山車会館の別館として活用されている本建物では、敦賀の歴史に関するさまざまな展示を見ることができます。大和田銀行の歴史資料や、北前船の精巧な模型を通じて、港町敦賀がいかに海上交易によって栄えたかを知ることができます。

また、戦国時代の敦賀城主・大谷吉継に関する常設展示コーナーも設けられています。豊臣時代の敦賀港の物流や、吉継と敦賀の商人たちとの交流がわかる資料が紹介されており、歴史ファンにも人気のスポットとなっています。

アクセス・拝観情報

旧大和田銀行本店社屋は、みなとつるが山車会館の別館として見学できます。開館時間は10時から17時まで。休館日は毎週月曜日(祝日の場合は翌日)、祝日の翌日、年末年始です。入館料はみなとつるが山車会館と共通で、一般300円(団体20名以上は250円)、高校生以下は無料です。隣接する敦賀市立博物館との共通入館券は500円で購入できます。

JR敦賀駅からは「ぐるっと敦賀周遊バス」またはコミュニティバスで相生町方面へ。車の場合は北陸自動車道敦賀ICから約10分です。なお、令和6年(2024年)3月に北陸新幹線が敦賀まで延伸開業し、東京や金沢からのアクセスがさらに便利になりました。

周辺の見どころ

旧大和田銀行本店社屋の周辺には、敦賀の歴史と文化を堪能できるスポットが集まっています。すぐ隣の敦賀市立博物館(旧大和田銀行本店本館・重要文化財)は、昭和2年竣工の壮麗な洋風建築で、ドリス式やイオニア式の列柱、大理石の階段、北陸初のエレベーターなど、見どころが豊富です。氣比神宮は越前国一宮として2000年以上の歴史を持ち、日本三大木造大鳥居のひとつに数えられる朱塗りの大鳥居が印象的です。敦賀赤レンガ倉庫は明治38年(1905年)に建てられた国登録有形文化財で、現在はジオラマ館とレストラン館として活用されています。また、人道の港 敦賀ムゼウムでは、大正・昭和期にポーランド孤児やユダヤ難民が上陸した敦賀港の感動的な歴史を学ぶことができます。日本三大松原のひとつ・気比の松原も必見です。

Q&A

Q旧大和田銀行本店社屋と敦賀市立博物館の違いは何ですか?
Aどちらも大和田銀行の本店として使われた建物ですが、時代が異なります。旧大和田銀行本店社屋(本記事の対象)は明治34年(1901年)に建てられた初代本店で、木造二階建ての和洋折衷建築です。一方、敦賀市立博物館として使われている建物は昭和2年(1927年)に建てられた二代目本店で、鉄骨レンガ造の大規模な洋風建築であり、国の重要文化財に指定されています。両方の建物は相生町に隣接して建っています。
Q日本遺産「北前船寄港地・船主集落」とはどのようなものですか?
A江戸時代から明治期にかけて、日本海沿岸を航行して各地の港に寄港しながら交易を行った「北前船」に関連する文化遺産を認定した日本遺産ストーリーです。敦賀はこの交易ネットワークの重要な寄港地のひとつであり、旧大和田銀行本店社屋は市内に残る10の構成文化財のひとつに数えられています。
Q建物内では何を見ることができますか?
Aみなとつるが山車会館の別館として、大和田銀行の歴史資料、北前船の模型と関連展示、敦賀城主・大谷吉継に関する常設展示などを見学できます。明治期の和洋折衷建築の内部空間そのものも見どころのひとつです。
Q公共交通機関でのアクセス方法を教えてください。
AJR敦賀駅から「ぐるっと敦賀周遊バス」またはコミュニティバスに乗車し、相生町方面で下車してください。所要時間は数分程度です。令和6年(2024年)3月に北陸新幹線が敦賀まで延伸したため、東京や金沢方面からのアクセスも大変便利になりました。
Q二代目大和田荘七とはどのような人物ですか?
A安政4年(1857年)に敦賀の薬屋の末っ子として生まれ、大和田家の婿養子となった実業家です。明治25年(1892年)に大和田銀行を創業し、敦賀港の国際化に尽力しました。銀行経営のほか、縄や筵産業の発展、商工会議所の設立など、敦賀の近代化に多大な貢献をした人物として知られています。

基本情報

名称 旧大和田銀行本店社屋(きゅうおおわだぎんこうほんてんしゃおく)
文化財指定 国登録有形文化財(建造物)/日本遺産構成文化財
登録年月日 令和3年(2021年)2月26日
建築年 明治34年(1901年)
構造 木造2階建、切妻造桟瓦葺平入、建築面積約248㎡
現在の用途 みなとつるが山車会館 別館
所在地 〒914-0062 福井県敦賀市相生町8-13他
所有者 敦賀市
開館時間 10:00〜17:00
休館日 月曜日(祝日の場合は翌日)、祝日の翌日、年末年始
入館料 一般300円(団体250円)、高校生以下無料
アクセス JR敦賀駅よりバス約5分/北陸自動車道敦賀ICより車で約10分

参考文献

旧大和田銀行本店社屋 – 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/595259
旧大和田銀行本店社屋が国登録有形文化財になりました – 敦賀市
https://www.city.tsuruga.lg.jp/smph/about_city/news_from_facility/gaibu_shisetsu/minatotsurugayama/bekkan-touroku.html
みなとつるが山車(やま)会館 – 敦賀市
https://www.city.tsuruga.lg.jp/mobile/shisei_joho/shiyakusho_shisetsu/gaibushisetsu/minatotsuruga.html
敦賀市立博物館 – 重要文化財・旧大和田銀行本店本館について
https://tsuruga-municipal-museum.jp/introduction/tsuruga/
みんなの文化財 第10・11回 旧大和田銀行本店 – 敦賀市
https://www.city.tsuruga.lg.jp/mobile/kanko_annai/kanko_annai/owadaginko_1-2.html
大和田銀行 – Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E5%92%8C%E7%94%B0%E9%8A%80%E8%A1%8C
旧大和田銀行本店社屋 – 日本遺産ポータルサイト
https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/culturalproperties/result/2690/

最終更新日: 2026.03.29