三国港(旧阪井港)突堤
長さ511メートル、幅およそ9メートルの石造の腕が、九頭竜川の河口右岸先端から日本海へ西に突き出している。福井県坂井市三国、古い港町の沖である。この突堤は岩盤の上ではなく、編んだ粗朶(そだ)の上に立つ。見えている石積みの下には、ナラなどの若枝を格子状に編んだ粗朶沈床が敷かれ、石を詰めて河口の柔らかな砂地に沈め、その上に中詰石を積み、安山岩の巨石で被覆している。オランダ由来のこの工法は、突堤が砂地に不等沈下するのを防いだ。日本の海域で用いられた最初の例である。
突堤は二つの役割を同時に担う。冬の北西の強い波から港を守る防波堤であり、河口の流れを絞って堆積した土砂を洗い流す導流堤でもある。明治11年(1878)から同15年(1882)にかけて築かれ、その高い歴史的価値により平成15年(2003)に重要文化財に指定された。いまも港を守り続けている。
オランダ人技師と、明治の志
三国は北前船の寄港地として沿岸交易で栄えたが、九頭竜川がたびたびそれを阻んだ。上流から流れ下る土砂が毎年のように河口を塞ぎ、町は水害に見舞われ、大きな船の出入りが妨げられた。地元の豪商6人が県と新政府に改修を強く求め、政府は内務省雇のオランダ人技師G・A・エッセルを派遣した。エッセルは、右岸に弧を描く突堤を、上流側に粗朶の水制を組み合わせ、河口の流路を狭めて川自身の力で土砂を深所へ吐き出させる計画を立てた。エッセルの帰国後は、同僚のヨハネス・デ・レイケが施工を指揮し、エッセルと書簡を交わしながら工事を進めた。
この事業はより大きな文脈に属する。阪井港の修築は明治政府が手がけた最初期の近代港湾事業の一つであり、三国港はいま熊本の三角港、宮城の野蒜港とともに「明治三大築港」に数えられる。築造の石材は近くの東尋坊一帯の玄武岩から採取し、船で運んだ。労苦は厳しかった。日本海特有の冬の荒天は粗朶沈床を二十数回も破壊し、コレラが流行し、工費は予算を大きく超えて約30万円に達した。うち約8万円を地元商人が負担している。
知る人を喜ばせる挿話が一つある。設計者ジョージ・アーノルド・エッセルは、だまし絵の階段や敷き詰め文様の版画で知られる画家M・C・エッシャーの父であった。画家が生まれたのは父の離日から二十年後の1898年で、本人がこの港を見ることはなかったが、地元では技師の名を冠してこの構造物を「エッセル堤」と呼び親しんできた。
見どころ
岸から見ると、突堤は河口を横切って長く低い弧を描く。その上を歩いてこそ、規模と年月が体感できる。夕景の名所として知られ、石の腕が日本海に沈む夕日を背に黒く浮かぶ。釣り場としても親しまれ、年間を通じて釣り人が河口に集まる。河口近くには、地元の奉仕団体が建てた、エッセルとデ・レイケのレリーフを掲げた顕彰碑がある。
突堤は長い歳月のなかで修復と延伸を重ねてきた。昭和23年(1948)の福井地震で沈下し、嵩上げが行われた。昭和45年(1970)には下流側に新堤が継がれ、合わせた全長は約927メートルとなったが、歴史的な石造部はもとの趣を保つ。実用的な注意を一つ。海側の先端は波を直接受け、破損のために立入が制限されることがあるため、先端までの往復が常にできるとは限らない。隣接するサンセットビーチの駐車場が拠点に便利で、東尋坊の玄武岩の断崖も近い。
Q&A
- なぜ「エッセル堤」と呼ばれるのですか。
- 設計したオランダ人技師G・A・エッセルにちなみます。彼は画家M・C・エッシャーの父にあたりますが、突堤の築造は画家の生誕より前のことです。
- 粗朶沈床とは何ですか。
- ナラなどの若枝を格子状に編み、石を詰めて砂地に沈め、荷重を分散して不等沈下を防ぐ基礎工です。三国港はこのオランダ工法が日本で初めて用いられた場所です。
- 先端まで歩けますか。
- 歩ける場合が多いものの、常にではありません。波を受ける海側の先端は破損後に立入が制限されることがあります。先端まで行く場合は現地で状況をご確認ください。
- 行き方を教えてください。
- えちぜん鉄道三国芦原線の三国港駅から徒歩約5分です。隣接するサンセットビーチに無料駐車場があります。
基本情報
| 名称 | 三国港(旧阪井港)突堤(みくにこう〈きゅうさかいこう〉とってい) |
|---|---|
| 所在地 | 福井県坂井市三国町宿地先 |
| 指定区分 | 重要文化財(平成15年〈2003〉12月25日指定) |
| 員数 | 1基 |
| 構造・形式 | 石造突堤、粗朶沈床を基礎工とする、延長511.0m |
| 年代 | 明治11年(1878)着工〜明治15年(1882)竣工(明治13年に開港) |
| 設計・施工 | G・A・エッセル(計画)/ヨハネス・デ・レイケ(施工) |
| 所有者 | 福井県 |
| アクセス | えちぜん鉄道三国港駅から徒歩約5分 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)三国港(旧阪井港)突堤
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/3829
- 土木学会 選奨土木遺産「三国港エッセル堤」
- https://committees.jsce.or.jp/heritage/node/331
最終更新日: 2026.06.22