二度の増改造で三階建になった商店 ― 越前市蓬莱町

南越(旧中村商店)(なんえつ/きゅうなかむらしょうてん)は、福井県越前市蓬莱町125にある明治45年(1912年)建築の木造3階建の商店建築で、平成15年(2003年)7月1日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。登録番号は18-0022である。

木造で三階建。地方の商店建築としては珍しい。ふつうは二階建で止まる。この建物が高いのは、はじめからそう建てられたからではない。文化庁のデータベースは「当初は2階建で,2度の増改造を経ている」と明記する。増改造の年代は昭和5年頃(1930年頃)と昭和15年(1940年)。三階部分は後から載った。いま通りから見える正面は、およそ三十年をかけて三度の工事が積み重なった結果である。

場所の説明を少し。越前市は平成17年(2005年)の合併までは武生市といい、その武生は越前国府が置かれた土地にあたる。旧北陸道が通り、街道沿いに育った商業地は、打刃物・越前和紙・織物といった周辺の産業を背後に控えていた。蓬莱町はその商業中心の一角にあり、駅から歩ける距離にある。明治末にはすでに住宅の通りではなく、店の通りだった。

中村商店もその一軒である。以後この建物は商いの場であり続け、現在入っている履物卸の屋号「南越」は、旧越前地方の南部を指す地域名でもある。

「造形の規範」としての登録

登録有形文化財の登録基準は三つある。地方の建物では第一の「国土の歴史的景観に寄与しているもの」で登録される例が多いが、この建物が該当するのは第二の「造形の規範となっているもの」である。景観への寄与ではなく、造形そのものが評価されたことになる。基準としては一段踏み込んだ判断といえる。

その根拠は、通常なら相反する二つの語彙を一つの正面にまとめている点にある。構造は木造、切妻造、桟瓦葺という在来の作り方そのままである。ところが街路側の見え方は、大正から昭和初期に都市から流入してきた商業建築の感覚を取り込んでいる。2階と3階に大きな窓が4カ所並び、その寸法は伝統的な町家の正面が許容する範囲を明らかに超えている。

数字を読む

間口は4間、およそ7.3メートル。登録上の建築面積は89平方メートル。城下町の商業街としても狭い敷地で、上へ伸ばすほかなかった事情がここに出ている。文化庁の記述では、1階と2階が店舗および倉庫、3階に和室4室を設ける。

この配置は少し立ち止まって考えたい。商いの二層の上に住まいを置くのは、狭い敷地に対する都市的な解法である。そして結果として、あまり例のないものが生まれる。町並みを見下ろす眺めをもつ座敷である。二階建の町家に住む者は隣家の壁を見る。ここに住む者は屋根越しに遠くを見た。

福井県は歴史的建造物の保存・活用を促す事業の実績一覧に、現在の屋号でこの建物を挙げている。地元の近代建築調査でも、同じ蓬莱町に立つ旧武生郵便局(大正3年)や旧武生公会堂(昭和4年)と並んで、武生地区の主要な近代建築のひとつとして扱われてきた。

通りから何を見るか

まず軒の線を見る。切妻の妻面も桟瓦もごく普通で、その普通さこそが要点になる。遠目には伝統的な町並みの一部として溶けている。近づいて階数を数えたところで、ようやく違和感が立ち上がる。

次に4カ所の窓。上二層に規則的に並び、しかも一つひとつが大きい。壁より窓のほうが目立つ正面になっている。明治の町家の一般的な二階正面が、低い虫籠窓や板戸の帯であることを思えば、差は一目でわかる。

三度の工事の継ぎ目は表に出ていないが、推測はできる。屋根の勾配や棟の通り、軒の納まりの違い、上階の壁と軸部の取り合いに生じた不連続。二度も増改造を受けた建物が、すべてを隠しきることはまずない。

訪問時の注意とアクセス

これは私有の、現役の商業建築であって博物館ではない。受付も開館時間もなく、内部の一般公開は行われていない。見学は公道からの外観に限る。無料で、時間の制約もない。ただし相手の営業の場であることは踏まえたい。歩道から正面を撮ることは通常問題にならないが、店内に向けてレンズを向けたり、内部を見に立ち入ったりすることは前提にできない。内部を見たい場合は、直接訪ねるのではなく越前市観光協会などを通じて事前に相談するのが筋である。

アクセスは容易である。武生駅から徒歩約5分。ただし同駅は令和6年(2024年)3月の北陸新幹線敦賀延伸に伴い、JR西日本からハピラインふくいに移管されている。新幹線で来る場合に降りるのは越前たけふ駅で、こちらは別の駅であり、車で約12分の距離にある。

訪問は建物単体ではなく通りを単位に組み立てたい。同じ蓬莱町に、旧武生郵便局(大正3年、現在は工房として使用)と、越前市武生公会堂記念館(昭和4年、鉄筋コンクリート造で6層の塔屋をもつ)が立つ。公会堂記念館は現役の博物館で、指定文化財を複数所蔵しており、外観ばかりの行程に内部見学を一つ挟むことができる。三棟なら半日で十分に回れる。時間が残れば、この街の代名詞である打刃物の工房も訪ねられる。

Q&A

Q南越(旧中村商店)の内部は見学できますか?
Aできません。私有の現役商業建築で、開館時間も入館制度もありません。見学は公道からの外観に限られ、こちらは無料でいつでも可能です。内部を見たい場合は越前市観光協会などを通じて事前に相談してください。
Q南越(旧中村商店)の「南越」は何と読みますか。名称が二つあるのはなぜですか?
A「なんえつ」と読みます。文化庁のふりがなも「なんえつ(きゅうなかむらしょうてん)」です。中村商店が創業時の商号、南越が後の屋号で、建物は現在も後者の名で呼ばれているため、登録名称に併記されています。
Q南越(旧中村商店)へは電車でどう行きますか?
A武生駅から徒歩約5分です。同駅は令和6年(2024年)3月からハピラインふくいの駅になっています。北陸新幹線を利用する場合に降りるのは越前たけふ駅で、そこからは車で約12分かかります。
Q南越(旧中村商店)が木造3階建なのはなぜですか?
A最初からではありません。明治45年(1912年)に2階建の商店として建てられ、昭和5年頃と昭和15年の二度の増改造を経て3階が加わりました。間口は約7.3メートルしかなく、拡張は上へ向かうほかなかったとみられます。
Q南越(旧中村商店)の内部はどのような構成ですか?
A文化庁の記述によれば、1階と2階が店舗および倉庫、3階に和室4室を設けます。正面外観は2階・3階に大きな窓を4カ所開き、これが登録理由となった「和風を基調としながら近代的な様相をも併せ持つ」性格をよく示しています。
Q南越(旧中村商店)の周辺に、あわせて見られる建物はありますか?
A同じ蓬莱町に登録有形文化財が二件あります。旧武生郵便局(大正3年)と、越前市武生公会堂記念館(昭和4年、鉄筋コンクリート造・6層の塔屋)です。記念館は公開施設で、指定文化財を複数所蔵しています。

基本情報

名称南越(旧中村商店)/なんえつ(きゅうなかむらしょうてん)
所在地福井県越前市蓬莱町125
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 18-0022 登録基準「造形の規範となっているもの」
指定年平成15年(2003年)7月1日登録、同年7月17日登録告示
員数1棟
寸法木造3階建、切妻造、桟瓦葺、間口4間(約7.3メートル)、建築面積89平方メートル
所有者個人・法人(文化庁データベースの所有者名欄は空欄。福井県内の登録文化財一覧は所有者を株式会社南越とする)
公開状況公道からの外観見学のみ。現役の私有商業建築で内部の一般公開はない

参考文献

国指定文化財等データベース 南越(旧中村商店)(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00003422
文化遺産オンライン 南越(旧中村商店)
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/168732
越前市 文化財種別一覧(国登録有形文化財の項)
https://www.city.echizen.lg.jp/office/090/030/shubetuitirann.html
福井県 福井の歴史的建造物保存促進事業 実績一覧
https://www.pref.fukui.lg.jp/doc/bunshin/rekiken-jisseki-h18-.html

最終更新日: 2026.08.26