行永家住宅 — 丹後に息づく江戸後期の庄屋の暮らし

京都府舞鶴市の東部、小倉川の谷筋に広がる静かな集落の中に、国指定重要文化財「行永家住宅」は佇んでいます。文政8年(1825年)に建てられた主屋を中心に、道具蔵や新蔵、味噌蔵、米蔵などが取り囲むように建ち並ぶその屋敷構えは、丹後地方の江戸後期における庄屋の暮らしぶりを今に伝える貴重な存在です。現在もご当主がお住まいになりながら大切に守り継がれているこの住宅は、年に2回の一般公開で、その見事な建築美を間近に感じることができます。

行永家の歴史

行永家は江戸時代前期より現在の舞鶴市小倉地区に定住したと考えられています。天明年間(1781〜1788年)頃からは代々小倉村の庄屋を務め、年貢の取りまとめや村の行政、紛争の調停など、地域社会において重要な役割を担ってきました。武士と農民の間をつなぐ存在として、その住まいもまた一般の農家とは異なる格式と規模を備えていました。

現在の主屋は、近隣で発生した火災により前の建物が類焼した後、文政8年(1825年)に再建されたものです。この再建にあたっては、当時の最新の建築技法が取り入れられ、丹後地方の農家住宅としてきわめて質の高い建物が完成しました。

重要文化財に指定された理由

主屋は昭和50年(1975年)6月23日に国の重要文化財に指定されました。その最大の理由は、日本の農家建築における間取りの発展過程を示す貴重な遺構であるためです。

行永家住宅の間取りは、土間に面して「しもでん」「だいどころ」、上手に「おくのま」「へや」を配する整形四間取りを基本としながらも、桁行中央に1間幅の「なかのま」と仏間を設け、整形六間取りの特徴をも併せ持つ過渡的な構成となっています。四間取りから六間取りへと移行する平面の発展過程を具体的に示す例として、建築史上きわめて重要な位置づけにあります。

平成15年(2003年)12月25日には、道具蔵と新蔵が追加指定され、宅地も含めた屋敷全体としての保存が図られることとなりました。

建築の見どころ

主屋の構造

主屋は桁行18.0メートル、梁間9.9メートルの堂々たる規模を誇ります。屋根は入母屋造で四周に桟瓦葺きの庇が付き、背面の一部が二階建てとなっています。この二階部分は養蚕のために設けられたもので、天井を高くして蚕の飼育に必要な空間を確保しています。

豪壮な梁組

内部で最も目を引くのは、6本の大梁を互い違いに組んだ豪壮な梁組です。自然の曲がりを活かした木材が大胆に用いられ、構造的な強さと視覚的な迫力を兼ね備えています。大工の技術力と遊び心が存分に発揮された、まさに圧巻の空間です。

竹すのこ天井

台所や居間の上部には、すのこ状に編んだ竹の上にむしろを敷いた「竹すのこ天井」が設けられています。かまどや囲炉裏の煙がこの天井を通って上昇し、煙抜きから外へ出ていく仕組みです。かつては天井裏に柴や薪を上げ、煙を利用して乾燥貯蔵していたといいます。この煙が柱や屋根の木材をカビや虫食いから守る役割を果たしており、日々火を焚き続けることが家の寿命を延ばす知恵でもありました。

土で塗り込まれた垂木

主屋の垂木は防火対策として土で塗り込まれています。先代の住宅が近隣火災で類焼した経験を踏まえた工夫であり、実用性と美しさを兼ね備えた特徴的な意匠となっています。

土蔵群と屋敷構え

主屋を囲むように、道具蔵、新蔵、味噌蔵、米蔵、木屋(離れ)が建ち並んでいます。道具蔵は江戸後期、新蔵は江戸末期の建築で、いずれも土蔵造・二階建・桟瓦葺きです。味噌蔵、米蔵、木屋は明治期の建築で、主屋の附(つけたり)として指定されています。これらの建物群と宅地が一体となって、丹後地方の庄屋の屋敷構えを見事に伝えています。

見学について

行永家住宅は現在もご当主がお住まいの個人住宅であるため、通常は非公開です。ただし、毎年4月29日(昭和の日)と11月23日(勤労感謝の日)の年2回、午前10時から午後4時まで一般公開が行われています。公開日には主屋の内部を見学でき、地元の保存会の方々やボランティアガイドから建築の特徴や歴史についての解説を聞くことができます。

特に11月の秋季公開は、周囲の山々が紅葉に彩られ、しっとりとした雰囲気の中で歴史的建造物を味わえる格別の機会です。

周辺情報

舞鶴市には行永家住宅と合わせて訪れたい魅力的なスポットが数多くあります。「舞鶴赤れんが倉庫群」は、明治・大正時代に旧海軍によって建てられた12棟の赤煉瓦倉庫で、国の重要文化財に指定されています。現在は博物館やイベントホール、ギャラリーとして活用されています。「舞鶴引揚記念館」では、第二次世界大戦後の引き揚げの歴史がユネスコ世界記憶遺産の関連資料とともに紹介されています。また、西国三十三所の第二十九番札所である松尾寺も近隣に位置しています。冬季にはカニや牡蠣など、日本海の新鮮な海の幸も楽しめます。

アクセス

車でお越しの場合は、舞鶴若狭自動車道の舞鶴東インターチェンジを下り、国道27号方面へ向かいます。右(東)に分岐する細い道を入ると小倉集落に到着します。公開日には分岐点に案内看板が設置されます。公共交通機関をご利用の場合、最寄りのバス停は「小倉」で、住宅まで徒歩約11分です。最寄りの鉄道駅はJR小浜線の松尾寺駅(約2.8km)または東舞鶴駅(約4.2km)です。

Q&A

Q行永家住宅はいつ見学できますか?
A毎年4月29日(昭和の日)と11月23日(勤労感謝の日)の年2回、午前10時から午後4時まで一般公開されています。それ以外の日は個人住宅のため見学できません。
Q入場料はかかりますか?
A入場料や公開スケジュールの最新情報については、舞鶴市役所生涯学習部文化振興課(電話: 0773-66-1019)にお問い合わせください。
Q駐車場はありますか?
A公開日には臨時駐車場が設けられることがあります。詳細は公開日の案内をご確認ください。
Q行永家住宅の建築的な価値とは何ですか?
A四間取りから六間取りへと移行する過渡期の間取りを持つ点が、日本の農家建築の発展過程を知る上できわめて重要です。また、竹すのこ天井や6本の大梁を互い違いに組んだ梁組、防火用に土で塗り込まれた垂木など、江戸後期の丹後地方の建築技術の粋を伝えています。
Q現在も人が住んでいるのですか?
Aはい、現在もご当主がお住まいです。日々かまどで火を焚き続けることで、煙が木材を守り、建物の保存に役立っています。「住み続ける」こと自体が最良の文化財保存であるという、生きた文化遺産の好例です。

基本情報

名称 行永家住宅(ゆきながけじゅうたく)
指定区分 国指定重要文化財(建造物)
主屋建築年 文政8年(1825年)
主屋指定年月日 昭和50年(1975年)6月23日
追加指定 道具蔵・新蔵:平成15年(2003年)12月25日
建築様式 入母屋造、桟瓦葺、一部二階建
規模(主屋) 桁行18.0m、梁間9.9m
所在地 〒625-0020 京都府舞鶴市字小倉831番地
一般公開 年2回:4月29日(昭和の日)、11月23日(勤労感謝の日)10:00〜16:00
お問い合わせ 舞鶴市役所生涯学習部文化振興課 電話: 0773-66-1019
アクセス 舞鶴若狭自動車道 舞鶴東ICから車で約5分/JR松尾寺駅から約2.8km/バス停「小倉」から徒歩約11分

参考文献

重要文化財(国指定) 行永家住宅の秋季一般公開が開催されました — 舞鶴市公式ホームページ
https://www.city.maizuru.kyoto.jp/kyouiku/0000003481.html
京都府舞鶴市 行永家住宅 — JAPAN GEOGRAPHIC
https://japan-geographic.tv/kyoto/maizuru-yukinagake.html
国指定文化財等データベース — 文化庁
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00003889
行永家住宅を見学しました(2年日本文化)— 京都府立東舞鶴高等学校
https://www.kyoto-be.ne.jp/higashimaizuru-hs/mt/info/2025/06/post-1476.html
文化財行永家住宅 — NAVITIME
https://www.navitime.co.jp/poi?spot=02043-536813

最終更新日: 2026.03.23

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