三階建ての鐘楼という選択
教圓寺鐘楼(きょうえんじしょうろう、寺名は「教円寺」とも表記)は、福岡県豊前市大字宇島にある文久3年(1863年)建立の木造三階建の鐘楼で、令和2年(2020年)8月17日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。
日本の寺院の梵鐘は、たいてい一層の吹き放ちの架構に吊るされている。ここは違う。その違いは、何本か手前の通りからでも目に入る。高さはおよそ13.3メートル。正面三間、側面二間で、下部に袴腰が付く。袴腰は鐘楼特有の、裾が広がる板張りの部分である。その上にさらに二層が積み上がり、宝形造桟瓦葺の屋根が載る。文化庁は解説文でこれを「類稀な三層の鐘楼」と記している。
教圓寺は浄土真宗本願寺派の寺院である。宇島港を本拠として財をなした万屋の主人・小今井潤治が私財を投じ、1821年ごろに創建したと伝わる。1850年に正式な寺院に昇格し、鐘楼はその十数年後、幕末の文久3年に建てられた。昭和55年(1980年)に改修を受けている。
港町が上へ伸ばした理由
この高さは、宇島という町の成り立ちを知ると腑に落ちる。文政4年(1821年)、小倉藩は宇島で築港の大事業に着手した。背景には、山国川河口の漁村の帰属をめぐる中津藩との係争があったとされる。工事には七年の歳月が費やされ、豊前東部第一の良港が完成した。廻船業を営む者が集まり、湿地だった場所に町が生まれる。教圓寺の創建は、この築港と時を同じくしている。
新しい港町には、海を見渡す目が要った。鐘楼の三層目はかつて物見やぐらを兼ねたと伝わり、現在もそこからは宇島の町並みが一望できるという。実際に船影を見張るのに使われたかどうかを示す確かな史料はなく、地元に語り継がれてきた伝承として受け止めるのが妥当だろう。ただ、梵鐘を吊るすだけなら三層目は要らない。
木割にも目を向けたい。二層の組物は出組で、その上に二軒繁垂木が密に並ぶ。四周には連子窓あるいは火頭窓が入り、縁は出三斗が受ける。梵鐘は大小二口が二層目の内部に吊るされている。登録基準は「再現することが容易でないもの」。景観への寄与を理由とする登録が多いなかで、この基準は満たすのが難しく、評価の重心が周囲との関係ではなく、大工仕事そのものに置かれていることを示している。
行き方と、あわせて見たいもの
鐘楼が建つのは境内の南西隅、旧中津街道の道筋に接する位置である。小倉から中津へ向かうこの街道を行く者は、寺の本体より先に、まずこの塔を見ることになった。位置の選び方は意図的だと考えてよい。
訪ねるなら日の低い時間がいい。斜めから光が当たると、袴腰の板張りと、その上の連子の面がはっきり分かれて見える。真昼だと陰影が飛んで平板になる。街道から見上げると、寺の付属建築というより城の櫓に近い印象を受ける。来訪者がしばしば口にする感想でもある。
境内は開かれており、鐘楼の外観は事前の連絡なしに見学・撮影できる。一方で内部の常時公開はなく、上層へ上がることも一般には認められていない。研究などの必要がある場合は、寺へ直接問い合わせるほかない。教圓寺は葬儀や年回法要を日々営む現役の寺院なので、法要中は本堂に近づかず、話し声を落として拝観したい。平成10年(1998年)に修復された本堂は九間四面の広さがあり、境内から眺めるだけでも見応えがある。駐車場がある。
JR日豊本線の宇島駅から東へ約1.7キロメートル、徒歩20〜25分ほど。駅にはタクシーも待機している。豊前市によれば、市内で初めて国の登録有形文化財となった建造物である。
Q&A
- 教圓寺鐘楼は何が珍しいのですか?
- 三階建てである点です。日本の鐘楼はほぼ一層の吹き放ちの架構で、文化庁も解説文で「類稀な三層の鐘楼」と記しています。高さはおよそ13.3メートル、下部に袴腰が付き、屋根は宝形造桟瓦葺。梵鐘は二層目に吊るされています。
- 教圓寺鐘楼は上まで登れますか?
- 登れません。内部の常時公開はなく、上層への立ち入りも一般には認められていません。境内には入れるので、外観の見学と撮影は可能です。特別な事情がある場合は、寺へ直接ご相談ください。
- 教圓寺鐘楼へは最寄り駅からどう行きますか?
- JR日豊本線の宇島駅が最寄りで、東へ約1.7キロメートル、旧中津街道の道筋を徒歩20〜25分です。駅前にタクシーがあり、車の場合は寺に駐車場があります。
- 教圓寺鐘楼の三層目は本当に物見やぐらだったのですか?
- 地元にはそう伝わっており、最上層からは今も宇島の町並みが見渡せるといいます。ただし史料で裏づけられたものではなく、伝承として受け止めるのが適切です。確かなのは、梵鐘を吊るすだけであれば三層目は必要ない、ということです。
- 教圓寺鐘楼はいつ建てられ、いつ登録されましたか?
- 文久3年(1863年)の建立で、昭和55年(1980年)に改修されています。登録有形文化財になったのは令和2年(2020年)8月17日、基準は「再現することが容易でないもの」です。豊前市によれば、市内で初めての登録有形文化財にあたります。
基本情報
| 名称 | 教圓寺鐘楼(きょうえんじしょうろう) |
|---|---|
| 所在地 | 福岡県豊前市大字宇島215 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号 40-0173 |
| 指定年 | 登録年月日・登録告示 令和2年(2020年)8月17日 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造3階建、瓦葺、建築面積41平方メートル/高さ約13.3メートル/正面三間・側面二間 |
| 所有者 | 宗教法人教圓寺 |
| 公開状況 | 境内から外観の見学可。内部および上層は一般公開されていない。 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース — 教圓寺鐘楼
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00013466
- 文化遺産オンライン — 教圓寺鐘楼
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/432882
- 豊前観光まちづくり協会 — 教圓寺 鐘楼
- https://buzen-kk.jp/spot/%E6%95%99%E5%9C%93%E5%AF%BA-%E9%90%98%E6%A5%BC/
- 豊前市 — 近世の交通と石造品(宇島港築港について)
- https://www.city.buzen.lg.jp/kanko/miru/bunkazai/11.html
- 本願寺鎮西別院 — 寳林山 教圓寺 寺院紹介
- https://hongwanji-chinzei.jp/buzen_kyoenji/
最終更新日: 2026.08.24