住吉神社本殿
本殿の裏側に回ると、壁面は素直に二間として読める。ところが入口のある正面へ戻ると、同じ建物が三間に見える。正面中央にあるはずの柱がなく、扉の両脇にだけ柱が立つため、本来は存在しない一間を目が補ってしまうのだ。住吉造という古い社殿形式が持つ、ちょっとした見どころである。
現在の本殿は、元和9年(1623年)に福岡藩主・黒田長政が再建した。長政は白銀二千両と材木を寄進したと伝わる。員数は一棟。福岡市博多区住吉、JR博多駅から南へ徒歩10分ほどの市街地に建つ。
神社そのものの歴史は本殿よりはるかに古い。筑前国一宮として『延喜式』神名帳に名を連ね、全国に二千社以上ある住吉神社の始源とされることも多い。摂津の住吉大社よりも創建が古いという説がある。
指定の理由と価値
住吉造は、伊勢神宮の神明造、出雲大社の大社造とともに、日本の神社建築でもっとも古い形式の一つに数えられる。その古さがもっともよく分かるのは、建物にないものを見たときだ。深い軒を支えるために大陸の仏教建築から取り入れられた組物(くみもの)が、この本殿には使われていない。組物を持たないということは、仏教建築の影響が及ぶ前の構造をそのまま残しているということである。
本殿が国の重要文化財に指定されたのは、大正11年(1922年)4月13日のことだ。住吉造の代表として知られる摂津の住吉大社よりも建立年代が古いとされ、かつては那珂川河口の岬に位置していた。中世まで博多湾は今よりずっと内陸まで入り込んでおり、海の安全を守る神を祀る社として、水際に立つこの場所にはそれなりの理由があった。
祀られる住吉三神は、『古事記』では伊弉諾尊が黄泉の国から戻って禊をした際に現れたとされる。神功皇后と天照皇大神も相殿に祀られている。
見どころ
この本殿の輪郭をつくっているのは、直線への徹底ぶりである。屋根は軒先で反り上がらない。破風、妻に立つ千木、棟に並ぶ三本の堅魚木も、後の社殿形式が好んだゆるやかな反りとは逆に、まっすぐに保たれている。建物を囲む廻縁はない。柱は朱、板壁は白。それ以外の色を加えない簡素な配色である。
妻側を見上げると、棟の端を覆う懸魚(げぎょ)が目に入る。ここではその懸魚が盾の形に擬してあるという。海を越えた遠征で住吉三神に導かれたと伝わる神功皇后の、武神的な一面を読み取る向きもある。
正面に立ち、中央の柱がないことを確かめてから裏へ回ってみるとよい。柱間の数が表と裏で食い違うこの仕掛けは、宮大工が目の前に残した小さな謎のようなものだ。
周辺の見どころとアクセス
境内には東門・南門・西門の三つの入口がある。東門は博多駅にもっとも近く駐車場もあるが、一の鳥居から続く正面参道を通るなら西門から入りたい。本殿の南側には、昭和13年(1938年)に完成した能楽殿が建つ。総檜造りの舞台を持ち、福岡市の指定文化財で、西日本でも有数の能舞台として知られる。
本殿の近くには、2013年に奉納された古代力士の像も立つ。住吉の神は古くから相撲と結びつき、新たに昇進した横綱がこの社に参拝する習わしがあった。年間でもっとも賑わうのは7月30・31日の名越大祭で、人形(ひとがた)に厄災を託して水に流す神事や、茅の輪くぐりが行われる。
博多の総鎮守で祇園山笠の舞台でもある櫛田神社までは、徒歩で10分ほど。二社のあいだにはキャナルシティ博多があり、半日で三か所をまとめて歩ける。
Q&A
- 本殿の中に入れますか。
- 内部は一般には公開されていません。本殿の前には拝殿が建ち、参拝者は境内から本殿を眺める形になります。建築としての見どころは外観にあります。
- どうやって行けばよいですか。
- JR・地下鉄の博多駅から徒歩約10分です。バスの場合、西鉄バス「住吉」停留所から徒歩2分ほどで境内に着きます。
- 写真撮影はできますか。
- 境内から外観を撮影する分には、おおむね問題ありません。神事の最中や参拝者の近くでは配慮し、当日の掲示があれば従ってください。
- いつ訪れるのがよいですか。
- 境内は通年で参拝できます。7月下旬の名越大祭の頃がもっとも賑わい、建物そのものをゆっくり見るなら平日の朝が向いています。
- 1623年の再建にしては古く見えるのはなぜですか。
- 再建にあたって、現在の建物よりはるかに古い住吉造の形式を忠実に守ったためです。直線的な屋根、組物を用いない構造、簡素な配色は、いずれも仏教建築の影響を受ける前の様式に属しています。
基本データ
| 名称 | 住吉神社本殿(すみよしじんじゃほんでん) |
|---|---|
| 所在地 | 福岡県福岡市博多区住吉三丁目 |
| 指定区分 | 重要文化財(建造物) 大正11年(1922年)4月13日指定 |
| 建立年代 | 元和9年(1623年) 黒田長政による再建 |
| 構造形式 | 住吉造、檜皮葺 桁行四間・梁間二間 切妻造妻入 |
| 員数 | 1棟 |
| 所有者 | 住吉神社 |
| 内部公開 | 非公開(境内からの外観参拝) |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/3464
- 住吉神社本殿|文化財情報検索|福岡市の文化財
- https://bunkazai.city.fukuoka.lg.jp/cultural_properties/detail/140
- 筑前國一之宮 住吉神社(公式サイト)
- https://www.nihondaiichisumiyoshigu.jp/
最終更新日: 2026.06.04