小原に立つ一本のカヤ

宮城県白石市の西部、小原の集落に、高さ約30メートルに達する常緑樹が一本立っている。根元の周囲は約3.2メートル、目通り(人の目の高さ)の幹囲は約2.6メートル。樹齢はおよそ300年と見られている。

この木はカヤ(榧)であるが、ふつうのカヤではない。種子が小さい「コツブガヤ」と呼ばれる変種で、昭和18年(1943年)2月19日に国の天然記念物に指定された。同じ指定を受けたコツブガヤは、現在のところ全国に二本しかない。

カヤという木と、コツブガヤの発見

カヤはイチイ科の常緑針葉樹で、日本にだけ分布する。おおむね山形・宮城より南の温暖な地域に育ち、成長は遅い。緻密でやや弾力のある材は碁盤・将棋盤の最高級材として知られ、種子は炒って食べられたほか、かつては灯火用の油も採られた。

ふつうのカヤの種子は細長く、緑色の厚い仮種皮に包まれている。昭和の初め、三重県でカヤを調べていた研究者が、種子がほぼ球形で、長さが通常の半分ほどしかない個体に気づいた。仮種皮を含めた直径はおよそ18〜20ミリメートル。これが新たな変種として昭和3年(1928年)に発表され、コツブガヤと名づけられた。葉にも違いがある。ふつうのカヤの葉先は鋭くとがって触れると痛いが、コツブガヤの葉先は鈍く、あるいはわずかに突き出る程度で、枝はたいへん密に茂る。

小原のコツブガヤは、この変種が国内で確認された二例目にあたる。

指定の理由

指定は昭和18年2月19日。名木・巨樹・老樹などを対象とする基準による。

評価された点は二つある。ひとつは大きさである。樹勢が旺盛で、これほどの高さに育ったコツブガヤは数少ない。そもそも変種自体が希少で、その巨木となればなおさらである。

もうひとつは分布である。小原は宮城県南部、カヤの分布の北限に近い。最初のコツブガヤは遠く南西の三重県で見つかっていた。数百キロ離れた二か所に同じ変種が現れたことは、この変種がどのように広がったのかという問いを投げかける。その学術的な興味も、指定の理由に含まれている。

三重県の最初の一本は昭和34年(1959年)の暴風雨で倒れ、指定は解除された。三例目は平成に入ってから三重県で見つかっている。小原のコツブガヤは、結果として現存するコツブガヤの指定としては最も古い。

見どころ

木の根元に立って見上げると、樹齢と樹高がよく分かる。幹はいくつもの高さを抜けて、梢が空に細くなっていく。

近づくと葉が面白い。ふつうのカヤは枝に手を入れると葉先が刺さるが、この木では刺さらない。鈍い葉先と密に茂る枝こそ、研究者がふつうのカヤとの違いに気づいたしるしである。秋には、変種の名の由来となった小さく丸い種子を、葉の間や木の下に見つけられることがある。

この木が植物園の標本ではなく、人の暮らす集落のなかで生きてきた一本であることも覚えておきたい。今の小原の家並みよりもずっと長く、ここに立っている。

小原を訪ねる

木は小原の集落のなかにあり、近くの道から眺めるのがよい。入場料も門もなく、見学のための施設もない。静かな集落なので、声を落とし、民家の庭に立ち入らないよう配慮したい。

小原は白石川の上流、白石市の南西、七ヶ宿町との境に近い。周辺の拠点となるのは、車で少し走ったところにある材木岩公園で、駐車場や休憩施設、季節の売店がある。小原へは車での移動が便利で、東北新幹線の白石蔵王駅からおよそ30分である。

小原のまわり

小原は狭い範囲に見どころが集まっている。

材木岩も国の天然記念物で、川面から約100メートルそびえる柱状節理の岩壁である。五角形・六角形の柱がきれいに並び、材木を立てかけたように見えることからこの名がある。一夜で堂を建てようとした工匠が、夜明けに間に合わず材木を川に投げ込み、それが石になったという言い伝えが残る。

谷あいの小原温泉は古くからの湯治場で、明治の文人・徳富蘇峰はこの渓谷を「碧玉渓」と名づけた。新緑と紅葉の季節がとくに美しい。

小原にはもう一本、国指定のカヤがある。コツブガヤの前年に天然記念物となった「小原のヒダリマキガヤ」で、種子に左巻きの筋が走る別の変種である。国指定のカヤの変種が二本そろう土地は、全国でもまれである。

少し足を延ばせば、写真でよく知られる蔵王キツネ村も同じ白石市内にあり、市街地には復元された白石城が建つ。

Q&A

Qコツブガヤはふつうのカヤとどう違いますか。
A種子が通常の半分ほどの長さで、ほぼ球形をしています。仮種皮を含めた直径はおよそ18〜20ミリメートルです。葉先が鈍く、枝が密に茂る点も特徴です。木の種としてはカヤと同じです。
Q木の樹齢はどのくらいですか。
A正確な数字はありませんが、地元ではおよそ300年と見られています。幹の太さや樹高も、相応の古さを示しています。
Q場所とアクセスを教えてください。
A宮城県白石市の小原地区にあります。車での移動が便利で、白石蔵王駅からおよそ30分です。材木岩公園の周辺を拠点にすると回りやすいでしょう。
Q拝観料や見学施設はありますか。
Aありません。近くの公道から無料で眺められます。門や受付はなく、周囲は民家なので、生活への配慮をお願いします。
Q訪ねるのに良い季節はいつですか。
A常緑樹なので一年を通じて見られます。小原渓谷とあわせるなら、新緑の晩春か、紅葉の秋がおすすめです。

基本データ

名称小原のコツブガヤ(おばらのコツブガヤ)
所在地宮城県白石市小原
指定区分国指定天然記念物
指定年月日昭和18年(1943年)2月19日
樹種カヤ(イチイ科)コツブガヤ(変種)
樹高約30メートル
幹囲目通り約2.6メートル/根元周囲約3.2メートル
推定樹齢約300年
アクセス東北新幹線・白石蔵王駅から車で約30分

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)「小原のコツブガヤ」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/401/198
白石市「指定文化財 小原のコツブガヤ」
https://www.city.shiroishi.miyagi.jp/soshiki/30/376.html
文化遺産オンライン「庫蔵寺のコツブガヤ」
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/201936
鳥羽市「国指定文化財 庫蔵寺のコツブガヤ」
https://www.city.toba.mie.jp/soshiki/k_shakaikyoiku/gyomu/rekishi_bunkazai/bunkazai/2/2213.html

最終更新日: 2026.05.22