亀谷に残る奥の松酒造の蔵6棟
奥の松酒造は、享保元年(1716年)の創業と伝える福島県二本松市の酒蔵で、二本松市亀谷一丁目の醸造場に建つ大正初期から昭和初期の蔵6棟が、平成16年(2004年)7月23日にそろって国の登録有形文化財に登録された。清酒「奥の松」の醸造元で、読みは「おくのまつしゅぞう」。文化庁のデータベースでは6棟とも「奥の松酒造」を冠した名称で登録されている。
蔵元の公式サイトによると、奥の松の歴史は江戸時代初期、二本松藩主の丹羽光重に仕えた遊佐金之丞に始まる。享保元年からは「油屋」の屋号で酒のほか味噌・醤油・油も造り、のちに油屋を分家に譲って、本家は酒造業に専念した。明治から大正にかけて千石酒屋に育ち、大正末期から昭和初期に「油屋酒造店」と名を改めている。
昭和8年(1933年)に全国品評会で優等賞を受け、昭和10年(1935年)には全国名誉賞杯をはじめ多くの賞を得て、「伊兵衛の吟醸蔵」と呼ばれるようになったと蔵元は記す。地酒蔵元会の蔵元紀行によれば、遊佐家では跡取りが「金之丞」と「伊兵衛」を代ごとに交互に名乗る決まりがあった。銘柄名は、蔵元に伝わる「奥州二本松」の判から「奥」と「松」の2字を採ったものとされる。
奥の松酒造の6棟と敷地の配置
奥の松酒造の6棟は第43回の登録で、登録番号07-0071から07-0076までの連番で登録された。告示は同じ年の8月17日で、登録基準はいずれも「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。建てられた時期で並べると次のようになる。
- 二級蔵中棟:大正初期に建ち、昭和初期に2階建へ改造。醸造場に残る建物のうち最も古い
- 一級蔵:昭和初期。鉄筋コンクリート造の1階に2階建の土蔵を載せた3階建の仕込蔵で、建築面積は6棟で最大の207平方メートル
- 二級蔵北棟:昭和初期。木造2階建の仕込蔵
- 二級蔵南棟:昭和初期。鉄筋コンクリート造2階建の仕込蔵で、南面に「奥」「の」「松」の文字を浮き出す
- 麹蔵:昭和初期。鉄筋コンクリート造2階建で、木造の小屋組に切妻の屋根を架ける
- 槽場蔵:昭和初期。土蔵造2階建で、もとは仕込蔵だったと伝える
文化庁の解説文をつなぎ合わせると、敷地の配置がおおよそ読み取れる。醸造場のほぼ中央、北寄りに二級蔵北棟が東西に棟を向けて建ち、その南に中棟、さらに南に南棟が接して、3棟がひと続きになる。麹蔵は二級蔵の東北にほぼ南北棟で建ち、槽場蔵は敷地の西側の街路に西の妻面を見せて、醸造場の正面の南端を受け持つ。一級蔵は棟を南北に向けた3階建で、解説文は県道沿いの目印になっていると書く。
木造・土蔵造・鉄筋コンクリート造が1つの敷地に混在していることが、奥の松酒造の6棟の大きな特徴である。一級蔵・二級蔵北棟・麹蔵の小屋組はそろって木造のキングポストトラスで、北棟と麹蔵は軒まわりに土蔵風の鉢巻を回す。槽場蔵の両妻面の腰には南棟と同じく石積みに見せる目地が切られている。新しい構造を採りながら外観は蔵らしく整える、という手法が棟をまたいで繰り返されている。
奥の松酒造の歩みと亀谷の蔵
昭和30年(1955年)に「奥の松醸造株式会社」へ組織を改めた蔵元は、昭和43年(1968年)に本社を移して「奥の松酒造株式会社」と名乗った。蔵元紀行によれば、このとき二本松市内の旧蔵から販売と瓶詰めの部門が新しい本社へ移っている。昭和49年(1974年)には安達太良山麓に八千代蔵が竣工し、同じ年に近隣の醸造元と東日本酒造協業組合を設けた。現在の奥の松の酒は、この協業組合で醸されていると蔵元は説明している。
亀谷の6棟は、この「市内の旧蔵」にあたると考えられる。ただし資料は旧蔵の所在地を明記しておらず、奥の松酒造の亀谷の蔵が現在どのように使われているかも、公表された資料では確かめられなかった。一級蔵や二級蔵南棟が建てられた昭和初期は、蔵が吟醸酒で名を上げた時期と重なっている。
奥の松酒造の蔵を見るには
亀谷にある奥の松酒造の6棟は見学施設として公開されておらず、内部公開の案内も見当たらない(2026年9月30日確認)。一級蔵は県道沿いに建ち、槽場蔵は西側の街路に妻面を向けているので、外観はこの2棟が道路から目に入りやすい。敷地は私有地なので、立ち入らずに道路から眺めることになる。撮影も道路からにとどめたい。
亀谷の醸造場は、JR東北本線の二本松駅から北東へ直線でおよそ700メートルの位置にあり、歩いて10分ほどが目安になる。
奥の松の酒を味わいたい場合は、亀谷から南西へ直線でおよそ5キロメートル離れた長命69番地の奥の松酒造本社に「酒蔵ギャラリー」がある。売店を兼ねた施設で、蔵元限定の酒を含むほぼ全商品を無料で試飲でき、営業は午前10時から午後5時まで。2025年9月からは土曜・日曜も休まず営業している。瓶詰めや製造ラインの工場見学は前日までの電話予約制で、工場が休む土曜・日曜・祝日は受け付けていない。本社の最寄りはJR東北本線の杉田駅で、徒歩10分ほどとされる。いずれも登録文化財の6棟とは別の場所である。
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁):奥の松酒造一級蔵
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004195
- 国指定文化財等データベース(文化庁):奥の松酒造二級蔵北棟
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004196
- 国指定文化財等データベース(文化庁):奥の松酒造二級蔵中棟
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004197
- 国指定文化財等データベース(文化庁):奥の松酒造二級蔵南棟
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004198
- 国指定文化財等データベース(文化庁):奥の松酒造麹蔵
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004199
- 国指定文化財等データベース(文化庁):奥の松酒造槽場蔵
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004200
- 奥の松酒造:奥の松の歴史
- https://www.okunomatsu.co.jp/history
- 奥の松酒造:酒蔵ギャラリー・工場見学
- https://www.okunomatsu.co.jp/gallary
- 奥の松酒造:会社概要
- https://www.okunomatsu.co.jp/corp
- 地酒蔵元会:蔵元紀行 奥の松酒造株式会社 歴史背景
- https://www.kuramotokai.com/kikou/14/history
- コトバンク:奥の松(日本酒・本格焼酎・泡盛 銘柄コレクション)
- https://kotobank.jp/word/%E5%A5%A5%E3%81%AE%E6%9D%BE-699245
- 東北夢の桜街道:奥の松酒造(所在地・交通)
- https://www.tohoku-sakurakaido.jp/sakagurakaido/sakagura/view/11
最終更新日: 2026.09.30
基本情報
| 名称 | 奥の松酒造 |
|---|---|
| 所在地 | 福島県二本松市亀谷一丁目213 |
| 指定 | 登録有形文化財 6件 |
| 座標 | 37.59275, 140.44267 |