桜丘会館 — 福島・いわき、校名の由来となった昭和13年の学び舎

福島県いわき市平の中心部、JRいわき駅から歩いておよそ10分。桜並木の先に、やわらかな色合いのモルタル壁に丸窓や細長いアーチ窓を配した、木造2階建ての建物が静かに佇んでいます。旧磐城高等女学校の図書館兼同窓会館として昭和13年(1938)に建てられた桜丘会館(おうきゅうかいかん)です。平成26年(2014)に国の登録有形文化財に登録され、現在は福島県立磐城桜が丘高等学校の敷地内で、百年近い時を超えて大切に守られています。この建物こそ、2001年の共学化の際に「磐城桜が丘」という新しい校名の由来となった、まさに母校のランドマークなのです。

華やかな観光名所ではありません。けれども、昭和前期の地方都市に芽生えた新しい建築潮流と、女子教育に注がれた人々の情熱を今に伝える、静かで凛とした一棟。建物の表情そのものに、近代東北の教育史の一頁を読み取ることができる、そんな場所です。

創立25周年を記念して建てられた会館

物語の始まりは明治37年(1904)にさかのぼります。当時の平町旧城跡、藩主安藤公の庭園跡に、私立磐城女学校が開校しました。明治45年(1912)には福島県立磐城高等女学校として再出発し、いわき地域の女子中等教育の中心的存在として歩みを重ねていきます。昭和10年代に入ると、学校は創立25周年という大きな節目を迎えようとしていました。

桜丘会館はその記念事業の中核として計画された建物です。同時期、全国で「皇紀2600年」を記念する各種の事業が催されており、本建物の建設もこの時代の空気のなかで進められました。昭和13年(1938)に竣工し、昭和27年(1952)の改修を経て今日まで、その姿を保ち続けています。

一階は図書館、二階は畳敷の教室

桜丘会館の平面計画は、本館と新館の2つの部分で構成されています。本館の一階は図書館として、二階は畳敷の教室兼同窓会の集会室として設計され、一棟のなかに学習と交流、2つの機能を併せ持つ仕組みでした。これに対して西に並ぶ新館は、生徒生活実習寮として整備されました。当時の高等女学校らしく、家事・裁縫といった実習を伴う生活教育を想定した空間です。

一つの建物のなかに図書館、集会ホール、そして生活実習の場が共存する、こうした構成が今もほぼそのままの形で残されていることは、戦前の女子中等教育の姿を具体的に伝える資料として、きわめて貴重です。

登録有形文化財となった理由

文化庁文化審議会の答申を経て、桜丘会館は平成26年(2014)4月25日付で国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。評価のポイントは、何よりもそのデザインです。モルタル塗の外壁に配された丸窓、欠円アーチの縦長窓、そして建物の隅部に横長に連なる窓——これらは昭和前期に流行した近代建築の潮流をよく示すモチーフで、東北の地方都市の学校建築に新しい意匠が受け入れられていった過程を、明快に物語っています。

加えて、本館と新館の2棟構成が往時のままに残り、しかも現役の学校施設として今なお敷地内で役割を果たしていること。度重なる災害や再開発のなかで失われがちな戦前の地方学校建築が、このような形で今日まで伝えられている意義は大きく、東北地方における女子教育史の生きた証人としても高く評価されています。

見どころとなる建築のディテール

校門の外からでも、いくつもの見どころを楽しむことができます。もっとも象徴的なのは、外壁に穿たれた円形の「丸窓」。昭和初期の建築家たちがヨーロッパの近代建築や客船建築から取り入れたモチーフで、端正なモルタル壁に軽やかな遊び心を添えています。縦長の窓の上部をゆるやかに曲げた「欠円アーチ」の意匠は、やや教会堂を思わせる上品なリズムを正面に与えています。

建物の隅にまわり込んで連続する「横長窓」は、1930年代のモダニズム建築でしばしば用いられた手法で、内部の空間を軽やかに感じさせるとともに、ボリューム感を巧みに演出しています。一方で屋根は伝統的な瓦葺き。こうした近代意匠と和風素材の組み合わせは、昭和前期の地方建築ならではの折衷美を生み出しています。建築面積はおよそ168平方メートルと決して大きくはありませんが、その親密なスケール感もまた、図書館兼集会施設という用途にふさわしい魅力といえるでしょう。

見学にあたって

桜丘会館は現役の県立高等学校の敷地内に位置しているため、建物内部は原則として一般公開されていません。外観については校地周辺の公道から鑑賞することが可能で、正面の姿を十分に楽しむことができます。春には敷地内の桜が、「桜丘」の名にふさわしい彩りを建物に添え、初夏の新緑、秋の澄んだ空の下でもそれぞれに趣のある表情を見せてくれます。

平日の授業時間帯の立ち入りは控え、生徒や教職員の学校生活の妨げにならないよう、静かな心づかいをもって訪ねることをおすすめします。オープンキャンパスや同窓会行事などの機会に公開される場合もありますので、訪問前に学校公式ウェブサイトの案内を確認なさると安心です。

周辺の見どころ

桜丘会館が建つ平(たいら)地区は、いわき駅を中心とするコンパクトで歩きやすい街です。駅の北側には磐城平城跡が広がり、石垣や外堀の名残を残す小高い丘から市街地を見渡すことができます。少し車を走らせれば、福島県内唯一の国宝建造物である白水阿弥陀堂を訪れることもできます。平安時代末期の永暦元年(1160)に奥州藤原氏ゆかりの徳姫が建立したと伝えられるお堂で、浄土式庭園とともに、秋の紅葉や夏の蓮の季節にはとりわけ美しい風景を見せてくれます。

このほか、いわき市立美術館や市街中心部の平銀座商店街でのひとときも午後の楽しみに。足を伸ばせば、スパリゾートハワイアンズやアクアマリンふくしまなど、いわきを代表する観光スポットもいわき駅から比較的アクセスしやすく、桜丘会館を旅程の一点に据えた一日コースを組み立てることもできるでしょう。

Q&A

Q桜丘会館の内部は見学できますか。
A現役の県立高等学校の敷地内にあるため、建物内部は通常一般公開されておりません。外観は校地周辺の公道から鑑賞いただけます。オープンキャンパスや同窓会行事の折に公開される場合もありますので、事前に学校公式ウェブサイトでご確認ください。
Q「桜丘」という名前の由来を教えてください。
A建物が建つ「桜町」という地名と、敷地の桜に由来するといわれています。この会館の名は在校生・卒業生に長く愛され、2001年に共学化した折に校名自体も「磐城桜が丘高等学校」へと改められました。建物の名前が校名を生んだ珍しい例です。
Q建築のどこに注目すればよいでしょうか。
Aまずは外壁の丸窓、縦長の欠円アーチ窓、そして建物の隅に連続する横長窓の3点に注目してみてください。これらは昭和前期に流行した近代建築の意匠で、伝統的な瓦屋根と組み合わされた折衷の美しさを楽しむことができます。
Q見学に適した季節はいつですか。
A春の桜の季節は、校名の由来にふさわしい風景を楽しむことができ特におすすめです。初夏の新緑、秋の澄んだ空の下もそれぞれに趣があります。平日の授業時間帯は避け、週末午前中など静かな時間帯をお選びいただくと、より落ち着いてご覧いただけるでしょう。
Qいわき駅からのアクセス方法は。
AJRいわき駅から徒歩でおよそ10〜15分です。いわき駅は東京方面からは常磐線、郡山方面からは磐越東線で結ばれており、新幹線利用の場合は東北新幹線郡山駅または仙台駅経由でも到達できます。

基本情報

名称 桜丘会館(おうきゅうかいかん)
指定区分 登録有形文化財(建造物) 平成26年(2014)4月25日登録
当初の用途 旧福島県立磐城高等女学校 図書館兼同窓会館
竣工 昭和13年(1938)/昭和27年(1952)改修
構造 木造2階建、瓦葺、建築面積約168㎡
構成 本館および西側の新館からなる1棟
所有者 福島県
所在地 福島県いわき市平字桜町5-1(福島県立磐城桜が丘高等学校内)
アクセス JRいわき駅より徒歩約10〜15分
公開状況 外観のみ見学可(内部は原則非公開)

参考文献

文化遺産オンライン「桜丘会館」
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/279780
国指定文化財等データベース(文化庁)「桜丘会館」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009893
福島県立磐城桜が丘高等学校 施設紹介「桜丘会館」
https://iwakisakuragaoka-h.fcs.ed.jp/学校紹介-1/施設/桜丘会館
磐城桜が丘高等学校同窓会「桜丘会」公式ホームページ 学校沿革
https://www.iwakisakuragaoka.jp/viewer/info.html?id=19
Wikipedia「福島県立磐城桜が丘高等学校」
https://ja.wikipedia.org/wiki/福島県立磐城桜が丘高等学校

最終更新日: 2026.04.22