宮川の支流に残る大正の石積み堰堤
小豆沢砂防堰堤群は、岐阜県飛騨市宮川町小豆沢の谷に大正8年(1919年)から大正9年(1920年)にかけて築かれた石積みの砂防堰堤で、このうち第一号から第三号までの3基が平成31年(2019年)3月29日に国の登録有形文化財となった。3基とも石材を人の手で積み上げた空石積の堰堤で、所有者は岐阜県である。
小豆沢は「あずきさわ」と読む。飛騨市の北端近く、富山県境まで数キロの山あいにある集落で、宮川に沿って国道360号とJR高山本線が通る。堰堤が並ぶのは、集落の西側の山から宮川へ流れ下る短い支流である。岐阜県が現地に立てた案内板は、この流れを「宮川の支川小豆沢」と呼んでいる。
大正3年の土砂災害と宮川の砂防事業
小豆沢砂防堰堤群が築かれるきっかけは、大正3年(1914年)8月13日の豪雨災害だった。国土交通省神通川水系砂防事務所によれば、当時の吉城郡坂下村では塩屋大谷・小豆沢大谷・小豆沢滝谷など8つの谷から大量の土砂が一度に流れ出し、それが宮川をせき止めて村の低地が湖のようになった。現在の宮川町の範囲で死者36名、流失した住家49戸、流された田畑74.3ヘクタールという被害が記録されている。
この災害を受けて、宮川流域では大正8年(1919年)7月から昭和5年(1930年)9月まで国の直轄による砂防事業が行われた。案内板によれば、小豆沢ではこの事業の中で5基の砂防堰堤が建設され、そのうち3基が登録された。文化庁の解説文は、最も下流の第一号を神通川水系に設置された最初の砂防施設としている。
同じ平成31年3月29日には、宮川町桑野の桑谷で5基、神岡町の六郎谷で2基の砂防堰堤も登録された。岐阜県古川土木事務所は、大正3年の災害を出発点とする一連の事業の遺構として、これらを並べて紹介している。
下流から上流へ、3基の配置
小豆沢砂防堰堤群の3基は、谷の下から番号順に並ぶ。文化庁のデータベースに記された建設年と規模は次のとおりである。
- 第一号砂防堰堤 大正8年(1919年) 堤長36m、堤高5.5m 3基のうち最下流
- 第二号砂防堰堤 大正9年(1920年) 堤長30m、堤高4.5m 第一号の約200m上流
- 第三号砂防堰堤 大正9年(1920年) 堤長25m、堤高5.5m 第二号の約240m上流
第一号から第三号まではおよそ440メートルで、この短い区間に3段の堰堤が置かれている。登録番号は21-270から21-272の連番で、登録基準はいずれも「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。
下流の第一号は集落のすぐ奥にあり、石垣や人家に近い。上流へ進むにつれて谷は細くなり、第二号と第三号は木々に覆われた沢筋の中にある。案内板の写真を見比べると、第二号では水が石積みの斜面を薄く滑り落ち、第三号では堤体の下半分が土砂に埋もれて斜面になじんでいる。100年のあいだに谷がどう落ち着いてきたかが、下流から順にたどれる並びである。小豆沢砂防堰堤群の各堰堤の構造と見え方は、それぞれのページで扱う。
見学とアクセス
小豆沢砂防堰堤群は現役の砂防施設で、見学の受付や入場料はない。集落の道路脇には岐阜県古川土木事務所が設けた案内板と記念碑があり、3基の位置を示した地図と写真、登録の経緯がまとめられている。訪れたらまずここで位置関係を確かめるとよい。
上流の2基へ向かう遊歩道や見学路の案内は、県の公開資料には見当たらない(2026年9月25日確認)。谷は急で足場が悪く、堰堤の上や沢の中へ立ち入るのは避けたい。雨の最中や雨の後は水量が増えるので、谷に近づかないこと。
最寄り駅はJR高山本線の杉原駅で、岐阜県で最も北にある無人駅である。駅から国道360号を北へ約2キロ、歩いて25分から30分ほどで小豆沢の集落に着く(地図上の目安)。列車の本数は少ないので、時刻を事前に確かめておきたい。高山本線の杉原駅と猪谷駅の間は、橋脚まわりの洗掘のため2026年3月18日から運転を見合わせ、5月30日に再開している。車の場合は飛騨市古川町の中心部から国道360号を北上する。専用の駐車場は案内されていない。
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁) 小豆沢第一号砂防堰堤
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00012736
- 国指定文化財等データベース(文化庁) 小豆沢第二号砂防堰堤
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00012737
- 国指定文化財等データベース(文化庁) 小豆沢第三号砂防堰堤
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00012738
- 岐阜県古川土木事務所 登録有形文化財(砂防堰堤群が登録有形文化財(建造物)に登録)
- https://www.pref.gifu.lg.jp/page/26367.html
- 岐阜県古川土木事務所 小豆沢看板及び記念碑設置状況(PDF)
- https://www.pref.gifu.lg.jp/uploaded/attachment/165619.pdf
- 岐阜県砂防課 登録有形文化財(県内の登録砂防施設)
- https://www.pref.gifu.lg.jp/shakai-kiban/kasen/sabo/11653/bunkazai.html
- 国土交通省北陸地方整備局 神通川水系砂防事務所 降雨・降雪による災害
- https://www.hrr.mlit.go.jp/jintsu/outline/saigai/rain.html
- 東海旅客鉄道 高山本線 杉原駅~猪谷駅間の運転再開について(2026年5月26日)
- https://jr-central.co.jp/news/release/_pdf/000045604.pdf
最終更新日: 2026.09.25
基本情報
| 名称 | 小豆沢砂防堰堤群 |
|---|---|
| 所在地 | 岐阜県飛騨市宮川町小豆沢 |
| 所有者 | 岐阜県 |
| 指定 | 登録有形文化財 3件 |
| 座標 | 36.43043, 137.19590 |