浅鉢形土器(糠塚遺跡出土)— 飛騨高山が秘める縄文時代前期の重要文化財

古い町並みや酒蔵、勇壮な高山祭で世界的に知られる岐阜県高山市。その中心部、静かな土蔵が並ぶ飛騨高山まちの博物館に、五千年以上もの時を経た一対の土器が静かに収蔵されています。高山市片野町の糠塚遺跡から出土した「浅鉢形土器」です。昭和六十三年(1988年)に国の重要文化財に指定されたこの土器は、縄文時代前期後半に飛騨の地で営まれていた暮らしと、東日本文化圏との交流を今に伝える貴重な遺物です。

糠塚遺跡と発掘の経緯

糠塚遺跡は高山市街地の南東約二キロ、大西山山麓の北西方向に広がる穏やかな扇状地に位置しています。山林からの恵みと盆地での生活の双方にアクセスできるこの地形は、縄文人にとって理想的な居住地でした。

遺跡の存在が明らかになったのは昭和五十七年(1982年)のこと。圃場整備に先立つ発掘調査が行われ、調査の結果、縄文時代の住居跡二軒、土坑五基、集石遺構二基をはじめ、七世紀末から八世紀初頭の住居跡十五軒、時期不明の建物跡二軒などが次々と発見されました。縄文の時代から飛鳥・奈良の時代に至るまで、同じ土地が長く人々の暮らしを支えてきたことが分かったのです。

そして、最も貴重な発見が第一号住居跡の床面ほぼ中央でなされました。大小二点の浅鉢形土器が並列させたような状態で出土したのです。誰かが意図して置いたかのような配置のまま、数千年にわたって人知れず眠り続けていた土器との、奇跡的な出会いでした。

重要文化財に指定された理由

文化庁は昭和六十三年六月六日、この二点の浅鉢形土器を国の重要文化財に指定しました。日本各地で出土する膨大な数の縄文土器のなかで、これらの土器が特別な評価を受けたのには理由があります。

第一に、保存状態が極めて良好であること。これほど古い土器が、ほぼ完全な姿で住居跡から出土するのは稀なことです。第二に、形態が洗練されていること。通常の煮炊き用の深鉢ではなく、扁平な円盤状という独特の浅鉢形をしており、住居の中央に対をなして置かれていた状況からも、日常用ではなく祭祀や儀礼に関わる土器であった可能性が指摘されています。

そして何より重要なのが、東日本縄文文化の特徴を色濃く受け継いでいる点です。縄文時代前期後半の飛騨地域は、東日本と西日本の文化が出会う地理的な要衝にありました。この土器は、東日本文化の伝播が深い山あいの地にまで及んでいたことを示す、まさに「粘土に刻まれた文化交流の証」と言えるのです。

魅力と見どころ

二点のうち大きい土器は、扁平な円盤状で、口縁部が強く内湾する独特の形をしています。底部を中心に同心円状に三段の屈曲を持ち、口縁部に沿って四十個もの小円孔がめぐっています。これらの孔の正確な用途は今も研究者の議論の的ですが、紐を通して吊るすため、あるいは祭祀的な意味合いを持っていたのではないかと考えられています。

胴部の文様にも注目してみてください。各屈曲部には綾杉状の連続線と刺突文が施されて文様帯が区画され、その文様帯のなかには連続爪形文によって三角形とS字状を交互に組み合わせた繊細な装飾が描かれています。土器の外面には赤色顔料や黒色の樹脂状物質が斑状に残されており、かつてこの土器が鮮やかに彩色されていたことを物語っています。今日見える落ち着いた土色からは想像もつかないほど、当時の人々の目には華やかな器として映っていたことでしょう。

小さい土器は、大きい土器の縮小版のような姿をしています。小円孔が等間隔に二十一個めぐり、強く張り出した胴部以下は二段の屈曲を経て丸底状の底部に至ります。大小二点が対をなすこの組み合わせは、飛騨高地における縄文文化を代表する遺物群のひとつです。

飛騨高山まちの博物館を訪ねる

二点の浅鉢形土器が収蔵されているのは、高山市上一之町にある飛騨高山まちの博物館です。古い町並みのほど近くに位置するこの博物館は、明治八年(1875年)に建てられた旧永田家の檜造りの土蔵十棟をそのまま展示室として活用しています。建物そのものが歴史遺産であり、展示と建築の両方を同時に楽しめる場所です。

所蔵資料は高山を中心とする飛騨の歴史民俗資料約七万五千点におよび、そのうち約九百点が常時展示されています。高山城主であった金森氏ゆかりの資料、飛騨に縁の深い円空仏、高山祭のからくり人形、城下町の暮らしを伝える生活道具など、十四の展示室で多彩な飛騨の歴史と文化を紹介しています。入館料は無料で、誰でも気軽に立ち寄ることができます。

館内の庭園は早朝から夜まで開放されており、観光地の喧騒からひと時離れて静かな時間を過ごすことができます。なお、浅鉢形土器の具体的な展示状況は時期によって異なる場合がありますので、ご覧になりたい方は事前に博物館へお問い合わせいただくことをおすすめします。

周辺の見どころ

博物館は高山観光の中心エリアにあり、徒歩で巡れる範囲に魅力的なスポットが集まっています。

  • 古い町並み(三町伝統的建造物群保存地区) — 博物館から徒歩数分。黒い格子の町家、酒蔵、和菓子屋などが軒を連ね、江戸の風情を今に伝えます。
  • 高山陣屋 — 江戸幕府の郡代・代官所として唯一現存する貴重な建物。飛騨が幕府の直轄領であった歴史を今に伝えます。
  • 高山祭屋台会館 — 春と秋に開催される高山祭で曳き出される豪華絢爛な屋台を間近で見学できる施設です。
  • 宮川朝市 — 宮川沿いに地元の農産物や手作りの工芸品が並ぶ朝市。飛騨の食と暮らしに触れられます。
  • 桜山八幡宮 — 秋の高山祭の舞台となる神社で、博物館から徒歩圏内にあります。

Q&A

Q糠塚遺跡の浅鉢形土器はどのくらい古いものですか?
A縄文時代前期後半、おおよそ五千年から六千年前のものとされています。中部山岳地帯における縄文土器のなかでも、特に古い時期に属する完成度の高い土器です。
Qいつでも展示されているのですか?
A博物館の展示は時期によって入れ替わることがあります。飛騨高山まちの博物館は基本的に無休で開館していますが、浅鉢形土器の展示の有無については、ご来館前に博物館へお問い合わせいただくと確実です。
Q入館料はかかりますか?
Aいいえ、飛騨高山まちの博物館は入館無料です。どなたでも気軽にお立ち寄りいただけます。
Q口縁部の小さな穴はどのような意味があるのですか?
A正確な用途はまだ解明されていませんが、紐を通して吊るすため、装飾用、あるいは祭祀的な意味合いを持っていたなどの説があります。大きい土器には四十個、小さい土器には二十一個が等間隔に並んでおり、意図的なデザインであったことは間違いありません。
Q高山駅からのアクセスを教えてください。
AJR高山駅から東へ徒歩約十五分です。市内の周遊バス「まちなみバス」も博物館近くに停車しますし、古い町並みとあわせて散策するのに便利な立地です。

基本情報

名称 浅鉢形土器/岐阜県高山市片野町糠塚遺跡第一号住居跡出土
指定区分 国指定重要文化財(昭和六十三年六月六日指定)
分類 考古資料/縄文時代
員数 二箇(附 土器残欠、石器類)
所有者 高山市
収蔵・展示 飛騨高山まちの博物館
所在地 〒506-0844 岐阜県高山市上一之町75
電話 0577-32-1205
開館時間 展示室 9:00〜19:00/庭園 7:00〜21:00
休館日 無休(臨時休館あり)
入館料 無料
アクセス JR高山駅から徒歩約15分

参考文献

文化遺産オンライン「浅鉢形土器/岐阜県高山市片野町糠塚遺跡第一号住居跡出土」
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/158068
岐阜県公式ホームページ「浅鉢形土器[あさばちがたどき] 附土器残欠、石器類」
https://www.pref.gifu.lg.jp/page/356515.html
文化庁 国指定文化財等データベース
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/201/10055
飛騨高山まちの博物館(高山市)
https://www.city.takayama.lg.jp/machihaku/
施設案内 飛騨高山まちの博物館(高山市)
https://www.city.takayama.lg.jp/shisetsu/1004139/1000039/1001660.html

最終更新日: 2026.05.15