群馬県舞台一号墳出土品とは
群馬県舞台一号墳出土品(ぐんまけんぶたいいちごうふんしゅつどひん)は、前橋市荒子町に所在した5世紀後半の古墳・舞台1号墳から発見された一括出土品で、国の重要文化財に指定されています。所有者は国(文化庁)で、現在は高崎市綿貫町にある群馬県立歴史博物館に保管・展示されています。
舞台1号墳は墳丘長およそ42メートルの帆立貝式古墳で、円丘部に小さな方形の造り出しを持つ独特の形をしていました。発掘調査により、造り出し部からは家形埴輪が、墳丘上からは円筒埴輪が見つかり、さらに造り出しの一角に設けられた長方形の埋納施設からは、滑石で作られた数百点に及ぶ模造品と、粘土で食物を表現した特異な土師器が姿を現しました。儀礼の場であった造り出し部の様子を、これほど豊かに伝えてくれる古墳は決して多くありません。
古墳時代の関東地方、なかでも上毛野(かみつけの・現在の群馬県)は「東国文化」の中心地として栄え、1万3千基を超える古墳が築かれた古墳大国でした。舞台1号墳から出土したこれらの遺物は、その豊かな精神世界を今に伝える、かけがえのない文化遺産です。
歴史的背景 ― 東国に花開いた古墳文化
群馬県は古墳時代を通じて、ヤマト政権と密接な関係を保ちながら独自の繁栄を遂げた地域です。県内では3世紀後半から7世紀にかけて1万3千基を超える古墳が築かれ、近畿地方など中央で埴輪づくりが下火になった後も、群馬では作り続けられたという特色を持ちます。
舞台1号墳が築かれた5世紀後半は、こうした古墳文化が大きく発展していく時期にあたります。この頃、墳丘の側面に儀礼空間として「造り出し」を設ける古墳が現れ始め、被葬者の魂を慰める祭祀がそこで執り行われるようになりました。舞台1号墳は、まさにこの新しい祭祀のかたちを伝える格好の事例といえます。
古墳が築かれた前橋市荒子町は、利根川の流域に開けた平野部に位置し、当時から農耕に恵まれた豊かな土地でした。地元の有力者の墓と推定される舞台1号墳は、こうした地域社会の発展を物語る貴重な手がかりでもあります。
重要文化財に指定された理由
舞台1号墳出土品が国の重要文化財に指定された最大の理由は、5世紀後半の古墳における祭祀の様子を、出土遺物の組み合わせから具体的に復元できる点にあります。多くの古墳では、副葬品が散逸したり、埴輪と石製品が別々に評価されたりすることが多いなか、この古墳では祭祀空間である造り出し部から、家形埴輪・石製模造品・供物表現のある土師器がまとまった状態で見つかりました。
とりわけ注目されるのが、長方形の埋納施設に納められていた滑石(かっせき)製の模造品群です。鏃(やじり)、鎌、斧、刀子(とうす)、勾玉、有孔円板、臼玉、下駄に至るまで、実用の道具や装身具を本物そっくりに小型化したもので、その総数は300点を超えます。これほど多様な石製模造品が一括して見つかる例は全国的にもまれで、当時の人々が「ものを身代わりとして納める」祭祀観念を持っていたことを雄弁に物語ります。
さらに、粘土で小魚や団子、木の実といった食物を表現した土師器の存在は、文字資料の乏しい古墳時代の食文化や供物の実態を伝える資料として極めて価値が高いものです。これらの遺物が組み合わさることで、墳丘上で生きていた当時の祭祀儀礼が、視覚的にもよみがえってくるのです。
魅力・見どころ
味わい深い家形埴輪
造り出し部から見つかった2棟の家形埴輪は、いずれも丁寧な作りで、当時の建築様式を知る貴重な手がかりとなっています。屋根や入口の表現には、被葬者があの世でも住まうための家を模した、古代の人々のあたたかな心遣いが感じられます。群馬県立歴史博物館では、その素朴で味わい深い造形をじっくりと観察することができます。
圧巻の石製模造品コレクション
滑石製の模造品群は、刀子67点、臼玉202点、斧9点をはじめとして、まさに圧巻のボリュームを誇ります。柔らかい滑石を細やかに加工してミニチュアの道具をつくる技術には、古墳時代の職人の高い技量がうかがえます。とりわけ「下駄」を模した石製品は珍しく、当時の履物文化を考える上でも貴重な資料です。
食卓を伝える土師器
赤色顔料が塗られた土師器の上には、粘土をひねって作られた小さな魚、団子状の食べ物、木の実とおぼしき粒などが並べられています。1500年前のお供えの様子がそのまま立体的に表現されたこの土師器は、まるで古代のミニチュアフードのように愛らしく、見る者の心を惹きつけます。
常設で見られる国指定重要文化財
これらの出土品は、群馬県立歴史博物館の常設展示の一環として鑑賞することができます。同館には国宝に指定された綿貫観音山古墳出土品も展示されており、群馬の埴輪文化の豊かさを一度に味わえる稀有な空間となっています。
周辺の見どころ
群馬県立歴史博物館は「群馬の森」と呼ばれる広大な都市公園内にあり、敷地内には群馬県立近代美術館も併設されています。アートと歴史を一日で楽しめる文化の拠点として、地元の人々にも親しまれています。
少し足を延ばせば、舞台1号墳と並んで群馬県を代表する古墳である綿貫観音山古墳を訪れることができます。墳丘長97メートルの前方後円墳で、未盗掘の横穴式石室が現存し、出土品は国宝に指定されています。さらに高崎市内には、墳丘長210メートルを誇る東日本最大級の太田天神山古墳(太田市)や、復元整備された保渡田八幡塚古墳など、見学に値する古墳が点在しています。
高崎市街地では、戦後復興期に建立された高崎白衣大観音や、達磨発祥の地として知られる少林山達磨寺などの名所も楽しむことができます。古墳めぐりの合間に、群馬の郷土料理である「おっきりこみ」や、銘菓「ぐんまちゃんプリン」を味わうのもおすすめです。
Q&A
- 舞台1号墳の現地を見学することはできますか。
- 舞台1号墳は前橋市荒子町に所在していましたが、現在は古墳そのものを見学することはできません。代わりに、出土品が群馬県立歴史博物館に展示されており、家形埴輪・石製模造品・土師器などを間近に鑑賞することができます。
- 「帆立貝式古墳」とはどのような形ですか。
- 円丘部に小さな方形の造り出しが付いた形で、平面が帆立貝の貝殻に似ていることから名付けられました。前方後円墳の前方部を極端に短くした形態とも考えられ、5世紀前後の関東地方で多く築かれました。舞台1号墳は墳丘長約42メートルのこの形式の古墳です。
- 「石製模造品」とは何のためのものですか。
- 実用の道具や装身具を、柔らかい滑石で本物そっくりに小型化したミニチュアです。祭祀の場で実物の代わりに納めることで、被葬者の魂を慰めたり、邪悪なものを払ったりする役割を担ったと考えられています。古墳時代の精神世界を伝える重要な遺物です。
- 展示はいつでも見ることができますか。
- 群馬県立歴史博物館の常設展で展示されていますが、展示替えや特別展開催期間中は一部展示替えがある場合がございます。確実にご覧になりたい方は、事前に同館の公式サイトまたは電話(027-346-5522)でご確認のうえお出かけください。
- 英語の解説はありますか。
- 群馬県立歴史博物館では、館内の主要展示に英語表記の解説が用意されています。また、音声ガイドやパンフレットも整備されており、海外からのお客様も安心して鑑賞することができます。
基本情報
| 指定名称 | 群馬県舞台一号墳出土品 |
|---|---|
| 種別 | 国指定重要文化財(考古資料) |
| 所有者 | 国(文化庁) |
| 出土地 | 群馬県前橋市荒子町(舞台1号墳) |
| 古墳の形状 | 帆立貝式古墳(墳丘長約42メートル) |
| 時代 | 古墳時代(5世紀後半) |
| 主な出土品 | 家形埴輪、円筒埴輪、石製模造品(鏃・鎌・斧・刀子・勾玉・有孔円板・臼玉・下駄)、供物表現のある土師器 |
| 展示場所 | 群馬県立歴史博物館 |
| 所在地 | 〒370-1293 群馬県高崎市綿貫町992-1(群馬の森公園内) |
| 電話番号 | 027-346-5522 |
| 開館時間 | 午前9時30分~午後5時(入館は午後4時30分まで) |
| 休館日 | 月曜日(祝日・振替休日の場合は翌日)、年末年始、展示替期間 |
| 観覧料 | 一般300円、大学・高校生150円、中学生以下無料(企画展は別料金) |
| アクセス | JR高崎駅東口より高崎市内循環バス「ぐるりん」で約30分、「群馬の森」下車。関越自動車道高崎玉村スマートIC経由。駐車場約480台(無料) |
参考文献
- 群馬県立歴史博物館 春の特別展示「すばらしき群馬のはにわ」展示パンフレット(令和3年)
- https://grekisi.pref.gunma.jp/wp/wp-content/uploads/2021/04/R2_harutokubetsu.pdf
- 群馬県立歴史博物館 公式サイト
- https://grekisi.pref.gunma.jp/
- 群馬県 文化財保護課「群馬の文化財」
- https://www.pref.gunma.jp/page/5190.html
- 群馬県「古墳時代の群馬-東国文化の中心地」
- https://www.pref.gunma.jp/page/5152.html
- 群馬県教育委員会『舞台遺跡』(1995年)
- https://www.city.maebashi.gunma.jp/soshiki/kyoiku/bunkazaihogo/gyomu/3/2/5103.html
- ぐんぱく(群馬県博物館連絡協議会)「群馬県立歴史博物館」
- https://www.gunpaku.com/museum/27/
最終更新日: 2026.05.11