群馬県綿貫観音山古墳出土品:未盗掘の石室が残した東国の至宝
群馬県高崎市の南部、綿貫町に築かれた綿貫観音山古墳は、墳丘の全長が約97メートルにおよぶ前方後円墳である。築造は古墳時代後期の6世紀後半とされ、墳丘の周囲には二重の堀がめぐっていた。後円部に設けられた横穴式石室は、長い年月を経てもなお盗掘を受けておらず、昭和42年(1967年)以降、五次にわたって行われた発掘調査で、副葬品が出土時に近い状態のまま見つかった。
この石室から出た品々と、墳丘の上に立て並べられていた埴輪をあわせて一括で指定したものが「群馬県綿貫観音山古墳出土品」である。昭和57年(1982年)に重要文化財、令和2年(2020年)に国宝へと指定が進んだ。所有は国(文化庁)で、古墳からほど近い群馬県立歴史博物館で公開されている。
国宝に指定された理由
この時代の大型古墳の多くは早い段階で盗掘を受けており、石室がそのまま残っていること自体が珍しい。綿貫観音山古墳の場合は、出土品の内容がさらに注目される。大陸や朝鮮半島でつくられた品、あるいはその影響のもとで製作された品が数多く含まれ、東国の豪族が海外の諸地域と深く結びついていたことがうかがえるからである。
その代表が、霊獣を帯状に半肉彫りした銅鏡、いわゆる獣帯鏡である。同じ鋳型から作られたとみられる鏡が、現在の韓国・公州にある百済の武寧王陵から出土している。武寧王陵は中国南朝・梁の文化を強く受けた墓として知られ、この獣帯鏡もまた、中国から百済を経て上毛野へとつながる交流のなかに位置づけられる。
方向性を同じくする品はほかにもある。一つは佐波理(さはり)と呼ばれる錫を多く含む銅合金製の水瓶で、国内では最も古い例の一つとされ、中国・北斉に類似品が知られる。もう一つは、頂部に小さな突起をもつ鉄製の冑である。当時の倭で一般的だったのは突起のない衝角付冑であり、突起付冑という形からは朝鮮半島南部の系譜がうかがえる。
数量からも内容の豊かさが読み取れる。石室からは金銅製品が232点出土し、その多くは雲珠(うず)・辻金具・杏葉(ぎょうよう)といった馬具である。これに金製品9点、銀製品7点、刀剣類38点、玉類84点などが加わる。刀剣・甲冑・装身具・馬具がそろって出土する例は、国内でもほとんど類を見ない。
見どころ
墳丘に立てられていた埴輪は、ひとつずつ眺める価値がある。よく知られるのは、三人の少女が並んで座る姿を一つにまとめた「三人童女」で、同種のものは国内に例がない。その周囲には、胡座をかいて手を合わせる男子、正座して祭具を捧げる女子、皮袋を捧げ持つ女子など、しぐさの異なる人物埴輪が並ぶ。武人や馬、家、盾、鶏もそろい、かつて墳丘のテラスを飾っていた群像の姿がしのばれる。
石室の規模そのものも、被葬者の地位を示している。羨道と玄室をあわせた全長は約12.5メートル、玄室は幅約4メートル、高さ約2.5メートルにおよぶ。その床面積は、奈良県橿原市にあって欽明天皇陵とする説のある五条野(見瀬)丸山古墳の玄室に匹敵し、高さはおよそ半分という。天井石のうち最も大きなものは、約22トンにのぼると伝わる。
博物館では、これらの品が複製ではなく実物として、国宝専用の展示室に並べられている。鏡や冑、埴輪を一室で見渡せることで、この地方の豪族が結んでいた交流の広がりが実感しやすい。
周辺の見どころとアクセス
古墳と博物館は、高崎市南部で数キロメートルほど離れて位置する。古墳は史跡公園として整備されており、群馬県内では最初の例として昭和56年(1981年)に開園した。復元された横穴式石室は現地で見学できる。博物館があるのは「群馬の森」と呼ばれる緑地で、群馬県立近代美術館も同じ園内にあるため、半日でまとめて回りやすい。
JR高崎駅東口からは、市内循環バス「ぐるりん」で博物館までおよそ30分。車の場合は約480台分の無料駐車場があり、いくつかの高速道路インターチェンジから車で10〜15分ほどである。常設展示はおおむね1時間あれば見て回れ、企画展が開かれているときは、もう少し時間に余裕をもつとよい。
Q&A
- 出土品はどこで見られますか。
- 国(文化庁)が所有し、高崎市の群馬県立歴史博物館にある国宝専用の展示室で公開されています。展示されているのはすべて実物です。
- 古墳の石室には入れますか。
- 古墳は史跡公園として整備され、復元された横穴式石室を現地で見学できます。副葬品そのものは博物館に展示されています。
- なぜ国宝に指定されたのですか。
- 石室が盗掘を受けず副葬品がまとまって残っていたうえ、百済・武寧王陵出土鏡と同じ鋳型から作られた鏡をはじめ、中国や朝鮮半島との直接的な交流を示す品が多いためです。令和2年(2020年)に国宝となりました。
- 特に有名な出土品は何ですか。
- 評価は分かれますが、三人の少女を表した「三人童女」の埴輪は国内に例がなく、海外との結びつきという点では獣帯鏡がよく取り上げられます。
- 見学の所要時間と料金の目安は。
- 常設展示はおよそ1時間です。常設展示の観覧料は一般300円、大学・高校生150円、中学生以下は無料です。開館時間や休館日は変わることがあるため、訪問前に確認してください。
基本情報
| 名称 | 群馬県綿貫観音山古墳出土品 |
|---|---|
| 所在地 | 群馬県高崎市綿貫町992-1(群馬県立歴史博物館で保管・公開) |
| 種別 | 考古資料 |
| 時代 | 古墳時代後期・6世紀 |
| 指定区分 | 重要文化財(昭和57年6月5日)/国宝(令和2年9月30日)/附の追加指定(平成15年5月29日) |
| 員数 | 一括。銅鏡2面、金製品9点、銀製品7点、金銅製品232点、青銅製品6点、刀剣類38点、玉類84点、鉄製品、須恵器・土師器、墳丘出土の埴輪18点ほか |
| 所有者 | 国(文化庁) |
| アクセス | JR高崎駅東口から市内循環バス「ぐるりん」で約30分。無料駐車場約480台 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/201/10004
- 群馬県立歴史博物館
- https://grekisi.pref.gunma.jp/
最終更新日: 2026.06.09