分福酒造店舗 ― 館林城下に息づく江戸時代の酒造商家

群馬県館林市の仲町に佇む分福酒造店舗は、江戸時代末期から続く酒造業の歴史を今に伝える貴重な町屋建築です。平成10年(1998年)に国の登録有形文化財(建造物)に登録され、現在は「毛塚記念館」として保存・活用が図られています。

文政8年(1825年)に初代毛塚友吉が館林城下南西部の本紺屋(現在の仲町)で創業して以来、約200年にわたり酒造りの伝統を守り続けてきた分福酒造。その店舗建築は、かつて城下町の商業地区を彩った本格的な町屋の姿を、優れた保存状態で現在に伝えています。

分福酒造の歴史

分福酒造の歴史は、文政8年(1825年)、初代毛塚友吉が館林城下南西部の本紺屋に酒造業を開いたことに始まります。屋号は「丸木屋本店」。当初の銘柄は「龍水」と名付けられました。館林は地下水が豊富で湧き水が多く出る土地柄であり、その良質な水にちなんだ命名でした。

大正時代に入ると、銘柄名は「分福」に改められました。「福を分ける」という縁起の良さと、館林にゆかりの深い民話「分福茶釜」にちなんだ命名です。昭和29年(1954年)には会社組織に改組し、「分福酒造株式会社」として新たなスタートを切りました。

昭和50年(1975年)には酒蔵を市内野辺町に移転しましたが、創業の地である母屋・店舗はそのまま残されました。そして平成10年(1998年)、店舗部分が館林旧城下に現存する数少ない本格的な町屋であり、往時の雰囲気を今に伝えているとして、国の登録有形文化財に登録。「毛塚記念館」として新たな役割を担うこととなりました。

文化財としての価値

分福酒造店舗は、平成10年(1998年)2月12日に登録有形文化財(建造物)として登録されました。その登録理由には、建築としての質の高さと、地域の歴史的景観を伝える貴重な存在であることが挙げられています。

建物は木造2階建、瓦葺切妻屋根で、建築面積は約61平方メートルです。1階を開放的な店構えとし、2階には繊細な格子窓を配するなど、伝統的な町屋の特徴をよく備えています。

館林城下にかつて多く存在した町屋は、近代化の波の中でそのほとんどが姿を消しました。分福酒造店舗は、そうした中で現存する数少ない本格的な町屋のひとつであり、使用されている木材の質が高いこと、保存状況が良好であることから、城下町の商業建築の姿を知る上で極めて重要な建造物とされています。

建築の魅力と見どころ

分福酒造店舗の最大の見どころは、江戸時代の町屋建築の特徴を色濃く残すその佇まいです。1階の開放的な店構えは、かつて酒を商う店先として機能していた空間であり、通りから店内が見渡せる造りは、商家ならではの実用的な美しさを感じさせます。

2階の格子窓は、光と風を取り入れながら居住空間のプライバシーを守るという機能美に加え、通りから見上げた際に独特のリズム感を生み出す意匠としても優れています。こうした格子は日本の伝統的な町並みを象徴する要素のひとつです。

建物の脇には「龍水の井戸」と呼ばれる井戸が残されています。かつてこの井戸から汲み上げた良質な地下水で清酒「龍水」が醸造・販売されていました。赤城山系の伏流水に恵まれた館林の豊かな水資源を物語る存在であり、この土地で酒造業が発展した理由を実感することができます。

現在は毛塚記念館として、毛塚家と分福酒造の歴史を紹介する場として活用されており、建物の空間的な特徴を感じながら、酒造りの歩みに触れることができます。

分福酒造の酒造り

歴史的な店舗建築が記念館として保存される一方、分福酒造の酒造りは市内野辺町の蔵で今も続いています。現在は7代目蔵元のもと、米洗いからすべて手造りという昔ながらの製法にこだわり、赤城山系の自然水と契約栽培の自然栽培米を原料に、ゆっくりじっくりと酒を醸しています。

近年は地元館林での酒米「舞風」や「山田錦」の栽培にも取り組んでおり、地域に根ざした酒造りへの姿勢を一層深めています。搾り後すぐに無濾過で提供する生酒・生原酒、瓶燗火入れ後に冷蔵庫でじっくり調熟させた定番酒、そして長期低温貯蔵の熟成酒など、多彩な商品を通じて分福の味わいに出会うことができます。

分福茶釜の伝説と館林

「分福」という名には、館林の文化を語る上で欠かせない深い意味が込められています。日本の代表的な昔話「分福茶釜」は、茂林寺の僧・守鶴が持ってきた不思議な茶釜の物語です。汲んでも汲んでも湯が尽きないその茶釜で淹れた茶を飲むと、さまざまな福徳が得られたと伝えられています。守鶴は実は狸の化身であったとも語り継がれ、明治時代に巌谷小波の童話として広く知られるようになりました。

物語の舞台である茂林寺は応永33年(1426年)に開山された曹洞宗の古刹で、分福酒造店舗からも車で約10分の距離にあります。参道には24体の愛嬌ある狸の像が季節ごとに衣装を変えて参拝者を出迎え、本堂内には伝説の茶釜が安置されています。

周辺情報・近隣の観光スポット

館林は分福酒造店舗を起点に、さまざまな文化・自然スポットを巡ることができる街です。

  • 茂林寺:分福茶釜の伝説で知られる曹洞宗の古刹。参道に並ぶ24体の狸像は海外からの観光客にも人気があります。宝物館の拝観料は大人300円。東武伊勢崎線茂林寺前駅から徒歩約8分。
  • つつじが岡公園:推定樹齢800年を超えるつつじの古木群が見られる、日本屈指のつつじの名所。毎年4月上旬から5月上旬の「つつじまつり」には数十万人が訪れます。夏にはハスの花も見事です。
  • 館林城跡:徳川四天王のひとり榊原康政が城主を務めた城の跡地。三の丸土橋門などが残り、城下町の歴史を感じることができます。分福酒造店舗からは徒歩圏内です。
  • 群馬県立館林美術館:国内外の美術作品を収蔵・展示する県立美術館。館林駅からタクシーで約10分。
  • 向井千秋記念子ども科学館:館林市出身の宇宙飛行士・向井千秋氏の活躍を紹介するとともに、県内最大の直径23メートルのプラネタリウムを備えた科学館です。

Q&A

Q分福酒造店舗(毛塚記念館)は見学できますか?
A毛塚記念館として保存・活用されており、外観は自由に見学できます。内部の見学については、事前に分福酒造(電話:0276-72-0017)へお問い合わせのうえ、公開状況をご確認ください。
Q分福のお酒は購入できますか?
A分福酒造の日本酒は購入可能です。純米酒、純米吟醸、季節限定の生原酒など多彩なラインナップがあります。在庫状況や販売場所については、酒蔵に直接お問い合わせください。
Q東京からのアクセスは?
A浅草駅または北千住駅から東武伊勢崎線の特急「りょうもう」または「リバティりょうもう」で館林駅まで約60分です。館林駅からは仲町方面へ徒歩約10分で到着します。車の場合は東北自動車道・館林ICから約10分です。
Qおすすめの訪問時期は?
A春(4〜5月)はつつじが岡公園のつつじまつりと合わせて訪れるのがおすすめです。秋は気候も穏やかで城下町の散策に最適です。館林は夏の猛暑で知られているため、7〜8月に訪れる場合は暑さ対策をお忘れなく。

基本情報

名称 分福酒造店舗(毛塚記念館)
文化財区分 登録有形文化財(建造物) — 平成10年(1998年)2月12日登録
建築年代 江戸時代末期(創業:文政8年 / 1825年)
構造 木造2階建、瓦葺切妻屋根、建築面積約61㎡
所有者 分福酒造株式会社
所在地 〒374-0023 群馬県館林市仲町2626-1
電話 0276-72-0017(分福酒造株式会社)
アクセス 東武伊勢崎線 館林駅より徒歩約10分。浅草駅から特急「りょうもう」で約60分。東北自動車道 館林ICから車で約10分。
駐車場 詳細は酒蔵にお問い合わせください。

参考文献

分福酒造店舗 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/136198
分福酒造店舗[毛塚記念館] — 日本遺産ポータルサイト
https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/culturalproperties/result/4186/
分福酒造株式会社 — 公式サイト
http://www.bunbuku.net/kuramoto/introduction.html
分福酒造 — 水のふるさとぐんまの地酒(群馬県ホームページ)
https://www.pref.gunma.jp/site/sake/500072.html
分福酒造株式会社 — 群馬SAKE TSUGU
https://www.gunma-saketsugu.jp/kura/020/
館林市観光協会
https://www.utyututuji.jp/kankou-sisetu.html

最終更新日: 2026.03.24