土蔵の顔をした鉄筋コンクリート

旧堀家住宅蔵は、群馬県桐生市巴町一丁目に建つ昭和4年(1929年)竣工の鉄筋コンクリート造2階建の蔵で、平成27年(2015年)8月4日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。旧堀家住宅主屋の玄関のすぐ北に位置し、主屋とは別件として同じ日に登録されている。

建築面積はわずか19平方メートル。四畳半を少し広げたほどの平面を、瓦葺の屋根の下に2層積み上げている。外から見れば土蔵である。建ちが高く取られたプロポーションも、商家の裏手に立つあの姿そのものだ。ところが、その皮の下にあるのは鉄筋コンクリートである。

この入れ替えこそが、この建物の主題になっている。昭和4年、地方都市の機業家が、手に入る最も新しい構造材料を選び、それに最も古い外観をまとわせた。

なぜコンクリートだったのか

蔵は火のために建てられる建物である。分厚い土壁と重い塗籠の扉は、町が燃えたときに一時間か二時間を稼ぐための工夫だった。織物の街ではその賭け金が大きい。生糸、製品の反物、図案帳、帳簿、どれも燃えるうえに、どれも数か月分の仕事が詰まっている。鉄筋コンクリートは、同じ問いに別の技術で答えたものだった。

登録基準は「再現することが容易でないもの」。文化庁の解説も、昭和初期の鉄筋コンクリート造建築の一例として貴重であると評価している。昭和4年の日本にコンクリート自体は珍しくなかったが、大都市を離れれば、この規模の個人の建築で採用される例はまだ多くない。桐生には他にも初期の鉄筋コンクリート建築が残る。本町通りの金善ビルがそれで、別の織物会社が大正末期に出張所として建て、当初は5階建だった。

面白いのは内部である。造った人たちの頭は、まだ大工の頭だった。柱形や梁は内側に隠されず、そのまま見せられている。小屋にあたる部分では、梁を渡した上に棟束を立て、登梁で屋根を支える。木造軸組そのものの理屈を、その理屈を必要としない材料で組んでいる。コンクリートならもっと部材を減らせたはずだ。それでも架構は、大工が引いたであろう線をなぞっている。

建てた人、堀祐平のもう一つの顔

堀祐平(1877年〜1955年)は明治38年(1905年)に堀祐織物工場を創業し、経糸に本絹、緯糸に人造絹糸を使ったリボン織を東南アジアへ大量に輸出して財をなした。蔵も隣の主屋も、その商いが頂点にあった時期の建築である。敷地には工場のほか寄宿舎、食堂、給水塔まで揃っていた。

あまり語られないのは、その後の彼の顔である。明治33年(1900年)、日本基督教団桐生教会で洗礼を受けた。桐生市の解説は、その博愛の精神が織物会社の経営理念にも反映され、従業員の福利厚生に及んだと記している。教会の長老として、教会堂の建築にあたっては用地と費用を寄進した。その教会堂は令和6年(2024年)に登録有形文化財となっている。

大正14年(1925年)に桐生市会議員となり、通算4期を務めた。昭和3年(1928年)には桐生市体育協会の初代会長に就き、新川運動場の建設を推し進めている。昭和28年(1953年)5月3日、その運動場に頌徳碑が建てられ、これを記念して第1回の堀マラソン大会が開かれた。大会は現在も毎年2月、新川公園を発着点として続いている。桐生で「堀」の名を知る人の多くは、機屋より先にマラソンで知る。

工場そのものは残らなかった。昭和18年(1943年)の企業整備令で織機の供出と施設転用を迫られ、昭和19年(1944年)10月に敷地一切を手放す。工場は後に解体され、土地は分割された。主屋と、この小さなコンクリートの箱だけが、そのすべてを見送った。

見に行くときに

蔵が建つのは、現在レストラン「ショコラ・ノア」となっている旧堀家住宅の敷地内である。主屋は平成20年(2008年)の改修以来この店として使われている。桐生市は、飲食を楽しむ客が対象であり、見学のみの一般公開には通常対応していないとしている。実際に見るには電話(0277-44-5553)でテーブルを予約するのが確実な方法になる。蔵の内部を見られるかどうかは公開情報に記載がない。予約の際に確認しておきたい。

ランチはおよそ11時30分から14時まで、ディナーは18時からラストオーダー20時30分頃。定休日は店の公式サイトが月曜・火曜、第三者の情報サイトは月曜と一部の火曜と、記載が分かれている。電話で確かめてから向かうのが確実である。駐車場は敷地内にある。

JR桐生駅から徒歩約6分。上毛電気鉄道の西桐生駅からは600メートルほどで、昭和3年(1928年)建築のこの駅舎も登録有形文化財である。撮影は他の客への配慮が必要になるので、まず店の人に尋ねてほしい。

初期の鉄筋コンクリート建築に関心があるなら、桐生は歩き甲斐がある。駅の北に金善ビル。近くには大谷石造で3連の鋸屋根をもつ旧堀祐織物工場が平成18年(2006年)の登録で残り、いまは美容室になっている。その先には桐生新町の重要伝統的建造物群保存地区が広がる。

Q&A

Q旧堀家住宅蔵はどんな建物ですか。何が珍しいのですか。
A主屋玄関の北に建つ昭和4年(1929年)の2階建の蔵です。外観は土蔵風ですが構造は鉄筋コンクリート造で、文化庁は昭和初期の鉄筋コンクリート造建築の一例として貴重と評価しています。
Q旧堀家住宅蔵は見学できますか。
A敷地はレストラン「ショコラ・ノア」として使われており、飲食客が対象です。桐生市も見学のみの一般公開には通常対応していないとしています。電話(0277-44-5553)で予約し、蔵の内部を見られるかどうかもその際に確認してください。
Q旧堀家住宅蔵はなぜ土蔵のような外観をしているのですか。
A商家の防火用の蔵といえば土蔵という形が定着しており、材料が土と漆喰から鉄筋コンクリートに替わっても建ちの高い姿が受け継がれました。内部は柱形や梁を見せ、小屋組は棟束と登梁による木造軸組風の架構になっています。
Q旧堀家住宅蔵と主屋はどういう関係ですか。
A一つの住宅を構成する2棟で、いずれも平成27年8月4日に別件として登録されました。主屋は昭和2年の木造平屋建で建築面積278平方メートル、蔵は昭和4年の鉄筋コンクリート造2階建で19平方メートルです。
Q旧堀家住宅蔵のほかに、桐生で昭和初期の鉄筋コンクリート建築を見られますか。
A本町通りの金善ビルが代表例です。金善織物工場が大正末期に出張所として建てたもので、当初は5階建でした。登録有形文化財で、現在はアパレルショップが入っています。

基本データ

名称旧堀家住宅蔵(きゅうほりけじゅうたくくら)
所在地群馬県桐生市巴町一丁目字柿ノ木1117-1
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号10-0324 第81回登録
指定年平成27年(2015年)8月4日登録
員数1棟
寸法鉄筋コンクリート造2階建、瓦葺、建築面積19平方メートル
所有者文化庁データベースに記載なし
公開状況レストラン「ショコラ・ノア」の敷地内。飲食客が対象で、見学のみの一般公開には通常対応していない

参考文献

最終更新日: 2026.08.08