大谷石で組まれた三連の鋸屋根

旧堀祐織物工場(美容室アッシュキリュウ)は、群馬県桐生市巴町にある昭和10年(1935年)頃の石造平屋建の織物工場で、平成18年(2006年)3月2日に国の登録有形文化財に登録された。

通りから見上げると、三角形の屋根が三つ、前後に並んでいる。鋸屋根である。急勾配の面を北に向けて明かり取りを設けると、一日を通して光の量が変わりにくく、影も出にくい。経糸の色を目で判断する織物工場にとって、これは設備というより前提条件に近かった。

桐生にはこの形の工場が今も230棟ほど残るとされ、国内では群を抜いた数である。旧堀祐織物工場はそのなかでは小ぶりな部類に入るが、状態のよさでは上位に来る。

壁は大谷石。栃木県宇都宮市大谷で採れる淡い色の凝灰岩を、長さ3尺(約91センチ)、高さ1尺(約31センチ)の切石にして長手方向に積んでいる。文化庁の記載では「切石整層積」。近づくと水平の目地が驚くほど正確に通っていて、光の当たり方で表情が変わる石肌が続く。

堀祐平とリボン織

この工場を建てた堀祐平は、明治38年(1905年)に現在地へ工場を構えた人物である。緯糸に人造絹糸、経糸に絹を用いた独自のリボン織を完成させ、これが商いの柱になった。奈良時代にさかのぼる産地としての蓄積があり、「西の西陣、東の桐生」と並び称された土地で、堀は屈指の機業家に数えられるまでになる。最盛期には134人の女工が働いていたという。

ただし現存するのは往時の一部にすぎない。建物はもともと東西にもっと長く、西側の一部が取り壊されて今の三連棟になった。桐生市の調査によれば、東西(桁行)11.83メートル、南北(梁間)18.00メートル。文化庁登録上の建築面積は207平方メートルである。

小屋組の受け方に注目したい。組積造の外壁の上へ横架材を直接乗せ、そこからトラスを立ち上げている。内部では桁行のほぼ中央に2本の独立柱が並び、トラスの中間を支える。凝った仕掛けは何もないが、この割り切りのおかげで床面には織機を置くための空間がまとまって残る。

登録の理由と、失われたもの

登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。文化庁の解説文は末尾を「建物転用の好事例である」と結んでいる。構造と寸法を淡々と記す文体のなかで、これはかなり踏み込んだ評価と言っていい。

転用工事は平成11年(1999年)に行われた。内装、戸口、屋根が手を入れられ、美容室として再出発している。南面には当初の戸口が残された。窓も当初のままで、まぐさを載せた縦長矩形の開口に、両開きの鉄扉が吊り込まれている。火と盗難に神経を使った時代の建具である。内壁は漆喰塗り。

失われたものもある。屋根を桟瓦葺に葺き替えた際、鋸屋根の面にあった天窓が撤去された。輪郭は残り、その輪郭を成立させていた光は残らなかった。この建物を読むときは、その両方を同時に頭に置いておきたい。

令和4年(2022年)2月8日、桐生市は本建物を歴史的風致形成建造物第9号に指定している。所有者は宗教法人浄運寺で、美容室はその借り手にあたる。

訪ねるときに

ここは営業中の店舗であって、公開施設ではない。内部に入れるのは予約を取った美容室の客だけで、見学専用の入口も受付もない。文化財として見に行くなら、公道から外観を眺めるのが正しい距離の取り方になる。

桐生市は指定建造物について、敷地に無断で立ち入らないこと、見学や撮影の際は許可を得ること、事業の支障にならないよう配慮することを求めている。歩道からの外観撮影であれば問題はない。

アクセスはJR両毛線・桐生駅南口から徒歩5分ほど。上毛電気鉄道の終点である西桐生駅も近く、こちらの駅舎自体が登録有形文化財である。

桐生は一日かけて歩く価値のある町だ。駅の北側には桐生新町重要伝統的建造物群保存地区が広がり、鋸屋根工場を転用した施設もいくつか一般に開かれている。旧金谷レース工業の工場を使ったベーカリーカフェはその代表格で、桐生織物記念館や絹撚記念館では、これらの建物を生んだ産業そのものを見ることができる。

Q&A

Q旧堀祐織物工場(美容室アッシュキリュウ)の内部は見学できますか?
A見学のための一般公開は行っていません。建物は美容室として営業しており、内部に入れるのは予約をした施術客に限られます。文化財として訪ねる場合は、公道から外観を見てください。
Q旧堀祐織物工場(美容室アッシュキリュウ)へのアクセスは?
A所在地は群馬県桐生市巴町1-1126。JR両毛線・桐生駅南口から徒歩5分ほどです。上毛電気鉄道の西桐生駅からも同程度の距離にあります。
Q旧堀祐織物工場(美容室アッシュキリュウ)は撮影できますか?
A公道からの外観撮影は差し支えありません。桐生市は指定建造物への無断立入を避け、近距離での見学・撮影には許可を得るよう呼びかけています。営業中の店舗であることに配慮してください。
Q旧堀祐織物工場(美容室アッシュキリュウ)の見どころはどこですか?
A三連の鋸屋根の輪郭、長さ約91センチ・高さ約31センチの大谷石を積んだ切石整層積の外壁、まぐさ付きの縦長窓に吊られた両開き鉄扉、そして転用工事を経て南面に残された当初の戸口です。
Q旧堀祐織物工場(美容室アッシュキリュウ)の周辺には何がありますか?
A桐生市内には鋸屋根工場が230棟ほど残るとされ、国内最多と言われます。桐生新町重要伝統的建造物群保存地区、桐生織物記念館、転用公開されている鋸屋根工場などが徒歩や自転車で回れる範囲にあります。

基本情報

名称旧堀祐織物工場(美容室アッシュキリュウ)
所在地群馬県桐生市巴町1-1126
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 10-0151(第49回登録)
指定年登録 平成18年(2006年)3月2日/告示 同年3月23日
員数1棟
寸法石造平屋建、瓦葺、建築面積207平方メートル。桐生市調査では東西11.83メートル×南北18.00メートル
所有者宗教法人浄運寺
公開状況美容室として使用中。外観は公道から見学可、内部は施術予約者のみ

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁) — 旧堀祐織物工場(美容室アッシュキリュウ)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00005247
文化遺産オンライン — 旧堀祐織物工場(美容室アッシュキリュウ)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/151855
桐生市 — 旧堀祐織物工場(美容室アッシュ)
https://www.city.kiryu.lg.jp/kankou/bunkazai/1010700/kunitouroku/1007515.html
桐生市 — 歴史的風致形成建造物
https://www.city.kiryu.lg.jp/shisei/machi/1018368/1012377/1018437.html
桐生市 — 国登録文化財
https://www.city.kiryu.lg.jp/kankou/bunkazai/1010700/kunitouroku/index.html

最終更新日: 2026.08.08