機屋が通りに向けた顔

旧株式会社金芳織物工場事務所は、群馬県桐生市東久方町に建つ昭和初期(1926年以降)の木造2階建の事務所建築で、平成10年(1998年)12月11日に登録有形文化財に登録された。

建築面積は71平方メートルと小さく、機械を据えるための建物ではない。織りの作業は背後で行われた。ここは注文を受け、帳簿をつけ、買い手を迎える場所であり、それにふさわしい装いが与えられている。

この会社を興したのは金谷芳次郎である。明治初期に機業を始め、姓と名から一字ずつ取って金芳という屋号とした。事務所が建った頃には、同じ敷地に煉瓦造の織物工場が動いており、表向きの建物を新しい意匠で構えるだけの余力があった。

スクラッチタイル、丸い角、水平の線

外壁を覆うのはスクラッチタイルである。表面に細い縦筋を入れた陶製の外装材で、昭和初期の日本の建築に広く用いられた。文化庁は、この材料の使用が建築年代を示すと記す。隣接する煉瓦造の工場は大正8年(1919年)の建物で、その時点ではまだこの材料は使われていなかったためだ。

桐生ではスクラッチタイルがよく用いられた。桐生市は、同じ好況期に完成した桐生織物会館旧館について、この外装が流行し、周囲に同じ仕上げの事務所や住宅が現れたと説明している。金芳の事務所も、その時期の建築群に連なる一棟である。

近づいて確かめたい点が二つある。建物の角が直角ではなく丸みを帯びていること、そして壁面に円形の窓が開けられていることだ。文化庁の解説は、水平線を強調した造りをライト式建築の特徴として挙げている。

登録の際に適用された基準は「造形の規範となっているもの」だった。登録有形文化財の三つの基準のうち、希少性でも景観でもなく、かたちそのものを問う基準である。

二つの時代が肩を並べる

旧株式会社金芳織物工場事務所は、一方で大正8年の織物工場に、もう一方で昭和6年(1931年)の金谷家住宅主屋に接続している。この建物の役割は、三者の接するあたりに立つとよくわかる。

片側にはイギリス積みの煉瓦壁と鉄板葺の屋根、装飾を持たない工場の外皮がある。反対側には瓦屋根の和風住宅が建つ。その間に、陶製タイルをまとった小さな洋風事務所が挟まる。大正と昭和、仕事場と客間が、数歩の距離に収まっている。

事務所と工場は平成10年(1998年)12月11日に同時に登録され、主屋と蔵は平成27年(2015年)に加わった。桐生市は近年、事務所と工場をまとめて市の歴史的風致形成建造物の第15号としている。

年代については一点、注意がいる。桐生市が敷地全体を紹介するページの本文には、大正8年に工場・事務所・染色場などを建てたという記述がある。しかし同じページの登録データ、および文化庁の記録は、事務所を昭和初期とする。登録データのほうが確度が高く、スクラッチタイルの使用もそれを裏づける。

見学の方法

旧株式会社金芳織物工場事務所が建つ敷地では、隣の織物工場を転用したベーカリーカフェが営業している。事務所そのものは公開されていないが、すぐ近くまで歩いて外観を見ることはできる。見どころは外側にあるので、それで十分だ。

敷地に入れるのはカフェの営業中で、午前8時から午後5時まで。年末年始は休みとなる。建物の裏手に31台分の駐車場がある。外観を見るだけなら費用はかからない。

JR両毛線桐生駅からは徒歩で約18分、タクシーなら約8分の道のりである。車で北関東自動車道太田桐生インターチェンジから来る場合は約20分、東武伊勢崎線新桐生駅からは約13分を見ておきたい。

敷地内からの外観撮影について、桐生市も運営者も制限を示していない。円窓は午後の西側から見るとよく映る。南西に少し歩けば桐生新町重要伝統的建造物群保存地区に入るので、旧町を歩く行程の始点か終点に据えるとまとまりがよい。

Q&A

Q旧株式会社金芳織物工場事務所の内部は見学できますか?
A内部は公開されていません。桐生市も敷地の運営者も内部公開の案内を出していません。外観は敷地内から間近に見ることができ、隣の工場に入るカフェの営業中であれば無料で近づけます。
Q旧株式会社金芳織物工場事務所はいつ建てられましたか?
A登録記録では昭和初期、すなわち1926年以降です。隣の煉瓦造工場が大正8年(1919年)で、その時期にはまだ使われていなかったスクラッチタイルが張られていることも、この年代を裏づけます。登録有形文化財となったのは平成10年(1998年)12月11日です。
Q旧株式会社金芳織物工場事務所で注目すべき点はどこですか?
A丸みを帯びた建物の角、壁に開けられた円形の窓、そして水平方向に走る意匠の線です。文化庁はこの水平線の強調をライト式建築の特徴として説明しています。
Q旧株式会社金芳織物工場事務所へのアクセスは?
AJR両毛線桐生駅から徒歩約18分、タクシーで約8分です。車の場合は北関東自動車道太田桐生インターチェンジから約20分。敷地には31台分の駐車場があります。
Q旧株式会社金芳織物工場事務所と隣の織物工場はどう違いますか?
A工場は大正8年(1919年)の煉瓦造で鋸屋根を架け、織機を据えた建物です。事務所はそれより後の木造で、スクラッチタイルを張り、事務作業のために昭和初期に建てられました。両者は平成10年(1998年)に同じ日に登録されています。

基本情報

名称旧株式会社金芳織物工場事務所(Former Kanayoshi Textile Mill Company Office)
所在地群馬県桐生市東久方町1-1-55
指定区分登録有形文化財(建造物)
指定年平成10年(1998年)12月11日登録
員数1棟
寸法建築面積71平方メートル、木造2階建
所有者有限会社ルパン(文化庁データベースの所有者欄は空欄)
公開状況外観のみ見学可、内部は非公開。敷地には隣の工場に入るカフェの営業中に入れる(午前8時から午後5時)。無料

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「旧株式会社金芳織物工場事務所」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000949
桐生市「旧株式会社金芳織物工場」
https://www.city.kiryu.lg.jp/kankou/bunkazai/1010700/kunitouroku/1001996.html
桐生市「旧金谷家住宅 旧株式会社金芳織物工場」
https://www.city.kiryu.lg.jp/kankou/bunkazai/1010700/kunitouroku/1013382.html
桐生市「桐生織物会館旧館」
https://www.city.kiryu.lg.jp/kankou/bunkazai/1010700/kunitouroku/1001995.html
桐生市「歴史的風致形成建造物」
https://www.city.kiryu.lg.jp/shisei/machi/1018368/1012377/1018437.html
ベーカリーカフェ レンガ(運営者)店舗情報
https://www.kiryu-renga.jp/

最終更新日: 2026.09.09