大正8年12月14日に上棟した煉瓦の織物工場
旧株式会社金芳織物工場鋸屋根工場は、群馬県桐生市東久方町にある大正8年(1919年)建築の織物工場で、平成10年(1998年)12月11日に登録有形文化財となった建物である。
文化庁の国指定文化財等データベースには、この種の建物としては珍しく上棟の日付まで記録が残る。大正8年12月14日、施工は高崎市の島田組。発注したのは金谷芳次郎で、明治初期に機業を興し、姓の一字と名の一字を組み合わせて金芳という屋号を立てた人物である。
外周の壁は煉瓦、屋根は木造。当時の群馬の工場建築ではよく採られた組み合わせで、桐生市の資料が構造を木骨煉瓦造と記すのはこのためだ。
煉瓦は埼玉県深谷市の日本煉瓦製造株式会社製で、イギリス積みと呼ばれる積み方が用いられている。壁に近づけば、長辺の並ぶ段と小口の並ぶ段が交互に重なっていく様子がそのまま読み取れる。
約260棟のうち、煉瓦の壁を持つのはここだけ
桐生市文化財保護課によれば、市内には鋸屋根の織物工場が今も約260棟残る。明治22年(1889年)の日本織物株式会社を皮切りに建てられはじめ、昭和44年(1969年)頃まで建設が続いた。そのうち煉瓦壁を持つ工場は、金芳の一棟のみとなっている。
登録の理由もそこにある。登録番号は10-0034。登録有形文化財の基準は三つあり、この建物は「再現することが容易でないもの」という基準で登録された。登録は「指定」の制度とは別の枠組みで、平成8年(1996年)に、現役で使われ続けている産業建築のような対象を想定して設けられたものだ。
同じ平成10年(1998年)12月11日には、西側に接続する事務所も登録されている。17年後の平成27年(2015年)には、事務所の背面の染色場と金谷家の住宅2棟が加わった。桐生市は近年、この鋸屋根工場と事務所を市の歴史的風致形成建造物の第15号として位置づけている。
もとは6連、いまは4連
この建物の要は屋根である。断面が三角形の単位を横に連ね、北を向く短い斜面にガラスを入れ、南へ長い斜面を下ろす。棟の線が鋸の歯のように見えるのはそのためだ。
北向きのガラス面は意匠ではなく必要から来ている。北からの採光は一日を通して明るさが変わらず、直射日光も入らない。織機に向かって絹糸の色を何時間も見分ける作業には、その安定した光が要った。桐生は目の肥えた市場に紋織物を出してきた産地で、色の見極めは仕事のうちだった。
桐生市の説明では、当初の屋根は6連だった。北側に鉄骨造の新工場を建てた際に一番北の一棟を撤去し、現在の4連となっている。登録上の建築面積は298平方メートル、屋根は鉄板葺である。
内部は塗り込められていない。煉瓦の肌がそのまま見え、木の小屋組が室内の上に架かったままで、北面の窓は建設当時と同じ役目を果たしている。大正期の工場の屋根を、車窓からではなく真下から見上げられる場所は多くない。
見学の方法とアクセス
旧株式会社金芳織物工場鋸屋根工場は、平成20年(2008年)からベーカリーカフェとして営業している。群馬県の登録有形文化財のなかでは、内部に入りやすい部類に属する。拝観料の設定はなく、客として扉を開ければよい。
運営者が公表する営業時間は午前8時から午後5時、ラストオーダーは午後3時30分。12月29日から1月2日を除いて通年で営業している。席数は80席、駐車場は31台分あり、建物裏手の大駐車場から直接入れる出入口が設けられている。大型バスでの来訪は事前の問い合わせが必要とされている。
JR両毛線桐生駅からは徒歩約18分、車なら約8分。東武伊勢崎線新桐生駅からは車で約13分、北関東自動車道太田桐生インターチェンジからは車で約20分である。桐生が岡遊園地・動物園からは徒歩約10分の距離にある。
撮影の可否について、桐生市も運営者も制限を掲げていない。ただし店内は営業中のカフェで他の客もいるため、写真を撮る前に店の人へ一声かけたい。西隣には事務所、その背面には染色場が建つ。いずれも敷地内から外観を見ることはできるが、内部の公開は行われていない。
Q&A
- 旧株式会社金芳織物工場鋸屋根工場の内部は見学できますか?
- できます。平成20年(2008年)からベーカリーカフェが入っており、客として利用すれば内部に入れます。営業時間は午前8時から午後5時、ラストオーダーは午後3時30分、12月29日から1月2日のみ休業です。拝観料はかかりません。
- 旧株式会社金芳織物工場鋸屋根工場へのアクセス方法は?
- JR両毛線桐生駅から徒歩約18分、車で約8分です。東武伊勢崎線新桐生駅からは車で約13分、北関東自動車道太田桐生インターチェンジからは車で約20分。敷地内に31台分の駐車場があります。
- 旧株式会社金芳織物工場鋸屋根工場は桐生の他の工場と何が違うのですか?
- 桐生市内には鋸屋根の織物工場が約260棟残りますが、煉瓦の壁を持つのはこの一棟だけです。煉瓦は埼玉県深谷市の日本煉瓦製造株式会社製で、イギリス積みで積まれています。
- 旧株式会社金芳織物工場鋸屋根工場はいつ建てられ、いつ登録されましたか?
- 上棟は大正8年(1919年)12月14日、施工は高崎市の島田組です。登録有形文化財となったのは平成10年(1998年)12月11日で、隣接する事務所と同じ日に登録されました。
- 旧株式会社金芳織物工場鋸屋根工場の屋根はなぜぎざぎざなのですか?
- 各単位の北向きの斜面にガラスを入れ、織機へ届く光を一日中一定に保つためです。直射日光が入らないので、絹糸の色を見分ける作業に適していました。当初は6連、現在は北端の一棟を撤去して4連です。
基本情報
| 名称 | 旧株式会社金芳織物工場鋸屋根工場(Former Kanayoshi Textile Mill Company Sawtooth Roof Factory) |
|---|---|
| 所在地 | 群馬県桐生市東久方町1-1-55 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 指定年 | 平成10年(1998年)12月11日登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 建築面積298平方メートル、木骨煉瓦造平屋建、鉄板葺 |
| 所有者 | 有限会社ルパン(文化庁データベースの所有者欄は空欄) |
| 公開状況 | ベーカリーカフェとして営業。午前8時から午後5時、ラストオーダー午後3時30分、拝観料なし |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「旧株式会社金芳織物工場鋸屋根工場」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000950
- 桐生市「旧株式会社金芳織物工場」
- https://www.city.kiryu.lg.jp/kankou/bunkazai/1010700/kunitouroku/1001996.html
- 桐生市「旧金谷家住宅 旧株式会社金芳織物工場」
- https://www.city.kiryu.lg.jp/kankou/bunkazai/1010700/kunitouroku/1013382.html
- 桐生市「歴史的風致形成建造物」
- https://www.city.kiryu.lg.jp/shisei/machi/1018368/1012377/1018437.html
- ベーカリーカフェ レンガ(運営者)店舗情報
- https://www.kiryu-renga.jp/
最終更新日: 2026.09.09