生糸が建てた会堂

旧日本基督教団沼田教会紀念会堂は、群馬県沼田市上之町にある大正3年(1914年)建築の木造2階建の教会堂で、平成10年(1998年)4月21日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。

建設の背景にあるのは、沼田の商家と生糸貿易です。星野家は生糸の輸出で財を成した一族で、会堂はその援助によって建てられました。沼田市の記録は二人の名前を挙げています。牧師の星野光多と、のちに津田塾大学の学長を務め沼田市名誉市民となった星野あいです。生糸を横浜へ送り出したのと同じ商流にのって、キリスト教は内陸の群馬に届きました。この建物はその結果のひとつです。

建築年は、県内の教会建築の系列のかなり早い位置にあたります。群馬県内に現存するキリスト教会建築で、これより古いのは二棟だけ。明治20年(1887年)の名久田教会(高山村)と、明治30年(1897年)の島村教会(伊勢崎市)です。沼田のこの会堂は三番目になります。

大工の名前も分かっています。設計・施工を担ったのは、埼玉県和戸(現在の宮代町)出身の小菅幸之助。神奈川県のフェリス女学院校舎や横浜海岸教会を手がけた人物で、開港場の教会堂やミッションスクールで西洋の軸組を身につけた大工の系譜に連なります。

登録の理由と価値

登録基準は「造形の規範となっているもの」。文化庁の記載は三つの特徴を挙げています。外壁の下見板、縦長の上下窓、そして急勾配の屋根です。

この三点の組み合わせは、開港場で技術を習得した大工たちが各地に建てた明治・大正期の小規模教会堂に共通するものです。沼田市内には大正期の洋風建築そのものが数えるほどしか残っていません。この会堂の価値は、様式が伝わった経路の証拠であるところにあります。外国で学位を得た建築家ではなく、横浜のミッションスクールの現場を踏んだ大工が、その手法を内陸へ持ち込んだ。

その後の来歴も動きの多いものでした。昭和63年(1988年)、日本基督教団沼田教会は創立100年にあたって新会堂を建てることになり、旧会堂は有志の手で西倉内町663番地から同町634番地へ移築されます。平成18年(2006年)8月までは「関口コオきり絵美術館」として使われました。平成28年6月3日に前所有者から沼田市へ寄贈され、解体と修理を経て、令和2年(2020年)10月に現在地の上之町1159番地1への移築が完了しています。

見どころ

建築面積は112平方メートル。小さな建物です。効いているのは大きさではなく比率のほうで、同じ床面積の日本建築なら選ばない急な勾配の屋根が、遠目に見たときの量感を洋風のものにしています。外壁は横に張った下見板。窓は細長い上下窓で、側面に並ぶその縦の反復が、内部を実際より高く感じさせています。

角に回ってみてください。静かな通りの角地に建っているので、長手の二面が歩道から同時に見渡せます。移築された建物としては珍しい条件で、使わない手はありません。

内部は40人ほどが入るホールと展示室、それに控室が使われています。観覧料は無料。観覧時間は午前9時30分から午後5時まで(入館は午後4時30分まで)で、休館日は水曜日(水曜が祝日の場合は木曜)、祝日法による休日の翌日、12月29日から1月3日まで。ホールと展示室は文化活動や会議のために市民が借りることもでき、事前申請があれば午後9時までの夜間利用も可能です。申請の受付は北隣の生方記念文庫が窓口になります。個人的な撮影に手続きは要りませんが、営利目的や報道・出版のための撮影は事前申請が必要です。

この会堂は無料、隣の旧土岐家住宅洋館は有料(大人110円)なので、先にこちらを見てから移動する順路が組みやすいでしょう。二棟は令和6年(2024年)に完成した「大正ロマンエリア」の構成建物で、ほかに旧沼田貯蓄銀行と旧久米家住宅洋館が並びます。JR上越線沼田駅からは徒歩約20分、バスなら約7分の「上之町」下車すぐです。

Q&A

Q旧日本基督教団沼田教会紀念会堂は見学できますか。入館料はかかりますか?
A見学できます。観覧料は無料です。観覧時間は午前9時30分から午後5時まで(入館は午後4時30分まで)。休館日は水曜日(水曜が祝日の場合は木曜日)、祝日の翌日、12月29日から1月3日までです。
Q旧日本基督教団沼田教会紀念会堂は今も教会として使われていますか?
Aいいえ。沼田教会は昭和63年の創立100年にあたって新会堂を建て、旧会堂は移築されたのち平成18年まできり絵美術館として使われました。平成28年からは沼田市が所有し、ホールと展示室を備えた文化施設として運用されています。
Q旧日本基督教団沼田教会紀念会堂は誰が建てたのですか?
A設計・施工はいずれも小菅幸之助。埼玉県和戸(現在の宮代町)の出身で、神奈川県のフェリス女学院校舎や横浜海岸教会を手がけた大工です。建設資金は沼田で生糸貿易を営んだ星野家の寄附によりました。
Q旧日本基督教団沼田教会紀念会堂を借りて催しを開くことはできますか?
Aできます。貸出対象は40人ほど収容のホールと展示室の2室で、事前申請により午後9時までの夜間利用も可能です。申請は生方記念文庫の窓口で受け付けています。市の行事で使用する必要が生じた場合は、そちらが優先されます。
Q旧日本基督教団沼田教会紀念会堂は群馬県内でどのくらい古い教会建築ですか?
A大正3年(1914年)の建築で、群馬県内に現存するキリスト教会建築としては3番目に古いものです。明治20年(1887年)の名久田教会(高山村)、明治30年(1897年)の島村教会(伊勢崎市)に次ぎます。

基本データ

名称旧日本基督教団沼田教会紀念会堂(きゅうにほんきりすときょうだんぬまたきょうかいきねんかいどう)
所在地群馬県沼田市上之町1159-1
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 10-0026
指定年平成10年(1998年)4月21日登録(告示は同年6月9日)
員数1棟
寸法木造2階建、スレート葺、建築面積112平方メートル(大正3年建築)
所有者沼田市
公開状況公開・観覧無料。午前9時30分から午後5時(入館は午後4時30分まで)。水曜日・祝日の翌日・年末年始休館。ホールと展示室は貸室利用可。

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁) — 旧日本基督教団沼田教会紀念会堂
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000524
文化遺産オンライン — 旧日本基督教団沼田教会紀念会堂
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/113404
沼田市教育委員会 — 旧日本基督教団沼田教会紀念会堂
https://www.city.numata.gunma.jp/kyouiku/bunkazai/ichiran/yukei/1000887.html
沼田市 — 旧日本基督教団沼田教会紀念会堂(観覧案内)
https://www.city.numata.gunma.jp/kanko/bunka/1010473/1010474.html
沼田市観光協会 — 旧日本基督教団沼田教会紀念会堂
https://www.numata-kankou.jp/activity/sight/christ/index.html

最終更新日: 2026.08.08