間瀬堰堤:東日本最古の農業用重力式コンクリートダム

埼玉県本庄市児玉町小平の静かな山間に佇む間瀬堰堤(まぜえんてい)は、東日本に現存する最古の農業用重力式コンクリートダムとして知られる近代土木遺産です。利根川水系間瀬川の上流域をせき止め、洪水を防ぎ、かんがい用水を確保するために、昭和5年(1930年)から昭和12年(1937年)にかけて8年の歳月を費やして築造されました。平成12年(2000年)には、堰堤本体と下流の管理橋がともに国の登録有形文化財に指定されています。

堰堤によって誕生した間瀬湖は、埼玉県立上武自然公園の区域内に位置し、その美しい景観は昭和32年に「新日本百景」、昭和59年に「ふるさとさいたま百選」、昭和61年に「利根川百景」に選出されています。さらに平成22年(2010年)には農林水産省の「ため池百選」にも選定されました。

歴史と建設の経緯

間瀬堰堤は、児玉用水の中心的施設として計画されました。現在の本庄市、美里町、深谷市の農地にかんがい用水を安定的に供給することを目的とし、大正期から計画が進められ、昭和5年に本格的な建設が開始されました。

設計を手がけたのは技師・高堀育三です。堰堤は重力式コンクリート造で、堤体の高さ27.5メートル、堤頂長126メートル、総貯水量530,000立方メートルの規模を誇ります。堤体上流側には上部・中部・下部の3か所に取水口が設けられ、貯水位に応じた柔軟な取水が可能です。洪水吐は中央越流式の非調整型を採用しています。上流側には木造2階建ての取水塔上屋が附属し、堤体天端には擬木の高欄が用いられるなど、実用的な構造物でありながら意匠にも配慮がなされています。

翌昭和13年(1938年)には、堤体下流に管理橋が設置されました。鉄筋コンクリート造の桁橋で、橋長9.5メートル、幅員2.0メートル。4つの橋脚の下部はアーチ形にくりぬかれ、角落し用の溝を備えています。構造的な機能と美しさを兼ね備えた設計は、昭和初期の土木技術の水準を今に伝えるものです。

文化財に指定された理由

間瀬堰堤が登録有形文化財に指定された背景には、複数の重要な要素があります。まず、東日本に現存する最古の農業用重力式コンクリートダムとして、近代日本のかんがいインフラ整備の歴史を物語る貴重な証人であること。高堀育三による設計は、3段階の取水システムや中央越流式洪水吐など、高度な土木工学の成果を反映しています。

下流の管理橋もまた、昭和初期の鉄筋コンクリート技術を良好に保存しており、アーチ形にくりぬかれた橋脚のデザインは、構造的な合理性と視覚的な美しさを両立させています。堰堤と管理橋は一体の土木遺産として高く評価されており、竣工から約90年を経た現在もなお、当初の目的であるかんがい用水の供給を続けている点も特筆に値します。

土木学会の「日本の近代土木遺産〜現存する重要な土木構造物2000選」にも選定されており、日本の近代土木史における重要性が広く認められています。

魅力・見どころ

堰堤の構造美

下流側から見上げる間瀬堰堤は、高さ27.5メートルのコンクリート壁面が城壁のような迫力を持って迫ります。天端に等間隔で並ぶ開口部が独特のリズムを生み出し、昭和初期の重厚な建築意匠を感じさせます。堤頂を歩けば、上流側に広がる間瀬湖と下流の緑深い谷のパノラマを楽しむことができます。

間瀬湖の四季の景観

堰堤によって形成された間瀬湖は、四季折々の美しさで知られています。春には湖畔の数百本の桜が水面に映り込み、北埼玉有数の花見スポットとなります。秋には紅葉が湖面に鮮やかな彩りを添え、訪れる人々を魅了します。近くの「花桃と水仙の丘」では、春にピンクの花桃と黄色い水仙が見事に咲き誇ります。

釣りの名所

間瀬湖はヘラブナ釣りとワカサギ釣りの名所として、年間を通じて多くの釣り人が訪れます。湖畔には貸しボート店が複数あり、湖上での釣りを楽しむことができます。

自然散策

堰堤周辺は埼玉県立上武自然公園の区域内にあり、豊かな自然の中を散策することができます。東屋(あずまや)や水辺の遊歩道が整備され、四季を通じて穏やかな時間を過ごすことができます。

周辺情報

間瀬堰堤が位置する本庄市児玉町小平地区とその周辺には、魅力的な観光スポットが点在しています。

  • 成身院百体観音堂(さざえ堂) — 天明3年(1783年)の浅間山大噴火の犠牲者を弔うために建立された、日本三大さざえ堂の一つ。外観2層・内部3層の螺旋構造で、百体の観音像を安置しています。拝観料300円。
  • 高窓の里 — 養蚕のための独特の高窓を持つ伝統的民家が立ち並ぶ集落。埼玉の絹産業の歴史を今に伝える貴重な景観です。
  • 日本神社 — 日本全国で唯一「日本」の名を冠する神社。神秘的な石段を上ると森の中に社殿が現れます。
  • 本庄市観光農業センター — 地元産そば粉を使ったそば打ち体験や、レンタサイクル(1日1,000円)の貸出を行っています。周辺散策の拠点として便利です。
  • 塙保己一記念館 — 江戸時代中期の盲目の国学者・塙保己一を顕彰する記念館。「群書類従」をはじめとする資料や遺品を展示しています。
  • 長瀞 — 間瀬湖のそばを通る県道287号(長瀞児玉線)を経由してアクセスできる景勝地。岩畳やライン下りで知られています。

季節のガイド

春(3月下旬〜4月):間瀬湖畔の桜が一斉に咲き誇り、北埼玉を代表する花見の名所となります。本庄市主催のダムマイスターによる里山散策ツアーも開催されます。花桃と水仙の丘も見逃せません。

夏(6月〜8月):緑豊かな森林に囲まれた湖畔は涼やかな散策が楽しめます。アジサイ、ヤマユリ、ヒマワリなどの花が彩りを添えます。

秋(10月〜11月):紅葉が湖面に映り込む絶景を楽しめます。秋の里山散策ツアーも人気です。周辺のそば畑では白い花が風に揺れます。

冬(12月〜2月):最も静かな季節。ロウバイの香りが冬の空気に漂います。ワカサギ釣りのシーズンでもあります。

アクセス

電車・バス:JR八高線児玉駅から「はにぽん号」コミュニティバスで「間瀬湖堰堤」バス停下車(事前予約制:0495-21-7797、平日のみ運行)。または児玉駅からタクシーで約10分。

車:関越自動車道 本庄児玉ICから国道462号、県道287号(長瀞児玉線)を経由して約20分。

駐車場:堰堤下流側および本庄市観光農業センターに無料駐車場あり。

入場料:無料(常時見学可能)

問い合わせ:本庄市観光協会 児玉支部 — 電話:0495-72-1334(平日)、0495-72-1331(土日祝)

Q&A

Q間瀬堰堤はなぜ文化財に指定されているのですか?
A間瀬堰堤は東日本に現存する最古の農業用重力式コンクリートダムであり、昭和初期の近代土木技術を今に伝える貴重な建造物です。高堀育三の設計による3段階取水システムや中央越流式洪水吐など、高度な工学的特徴を備えています。平成12年(2000年)に管理橋とともに国の登録有形文化財に指定されました。土木学会の「重要な土木構造物2000選」にも選定されています。
Q見学に最適な時期はいつですか?
A春(3月下旬〜4月中旬)は桜が湖面に映る絶景が楽しめ、秋(10月下旬〜11月)は紅葉の美しさが格別です。いずれの季節にもそれぞれの趣があり、夏は緑豊かな涼しげな景観、冬はロウバイの香りとワカサギ釣りが楽しめます。
Q公共交通機関でのアクセスは可能ですか?
A可能です。JR八高線児玉駅から「はにぽん号」コミュニティバスで「間瀬湖堰堤」下車となりますが、事前予約が必要です(0495-21-7797、平日のみ)。タクシー利用の場合は児玉駅から約10分です。車では関越自動車道 本庄児玉ICから約20分です。
Q間瀬湖で釣りはできますか?
Aはい、間瀬湖はヘラブナ釣りとワカサギ釣りの名所として知られています。湖畔には田中園(0495-72-2369)、釣舟一力(0495-72-1314)、山水荘(0495-72-2570)などの貸しボート店があり、年間を通じて釣りを楽しむことができます。
Q間瀬堰堤は現在も使われていますか?
Aはい。築造から約90年が経過した現在も、間瀬堰堤は当初の目的であるかんがい用水の供給を続けています。ここで生み出された農業用水は児玉用水路を通じて、本庄市や美里町の農地に利用されています。維持管理は美児沢用水土地改良区が行い、定期的な草刈りや清掃を実施しています。

基本情報

名称 間瀬堰堤(まぜえんてい)※間瀬ダムとも呼ばれる
文化財指定 登録有形文化財(建造物)— 平成12年(2000年)10月18日登録
設計者 高堀育三
建設期間 昭和5年(1930年)〜 昭和12年(1937年)
構造 重力式コンクリート造堰堤、取水塔・護岸堤防付
規模 堤高:27.5m、堤頂長:126m、総貯水量:530,000m³
管理橋 鉄筋コンクリート造桁橋、橋長9.5m、幅員2.0m(昭和13年設置)
所有者 美児沢用水土地改良区
所在地 〒367-0214 埼玉県本庄市児玉町小平地内
アクセス 関越自動車道 本庄児玉ICから車で約20分/JR八高線児玉駅からタクシー約10分
入場料 無料
その他の選定 新日本百景、ふるさとさいたま百選、利根川百景、ため池百選、土木学会選奨土木遺産(重要な土木構造物2000選)

参考文献

間瀬堰堤 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/167212
間瀬堰堤管理橋 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/181813
農林水産省 農業用施設の文化財 — 間瀬堰堤
https://www.maff.go.jp/j/nousin/sekkei/museum/m_bunka/yuukei1/
間瀬湖 — 本庄市観光協会
https://www.honjo-kanko.jp/sightseeing/maze-ko.html
間瀬湖と間瀬堰堤 — 児玉商工会
https://www.syokoukai.or.jp/syokokai/kodama/060/20140408135530.html
間瀬ダム — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%96%93%E7%80%AC%E3%83%80%E3%83%A0
間瀬ダム — ダム便覧
http://damnet.or.jp/cgi-bin/binranA/All.cgi?db4=0633
間瀬ダム・間瀬湖 — たびまぐ
https://tabi-mag.jp/sa0178/
間瀬湖 — ちょこたび埼玉
https://chocotabi-saitama.jp/spot/40826/
埼玉県北部地域振興センター本庄事務所 — 桜の間瀬堰堤
https://www.pref.saitama.lg.jp/b0111/tiikimeguri/kodamasatoyamagenkitaivol3.html

最終更新日: 2026.03.26