落石覆に包まれて、坑門はほとんど見えない

わたらせ渓谷鐵道名越トンネルは、群馬県みどり市東町沢入にある大正元年(1912年)竣工の鉄道隧道で、平成21年(2009年)に登録有形文化財となった。読みは「なごし」。延長32メートルの単線仕様で、坑道は緩やかに湾曲する。側壁は石を積み、アーチ部は煉瓦で巻く。坑門はアーチの部分まで含めて全体が石積である。

断面に特徴がある。文化庁データベースは、この隧道の断面を、当時の官設鉄道の標準設計よりも円形に近い馬蹄形と記す。上からの土圧を受ける形として馬蹄形は理にかなうが、標準どおりでない形が選ばれた背景には、この場所の地質か施工の事情があったと考えられる。

ただし今日、列車から坑門そのものを見るのは難しい。両側の入口には落石から線路と隧道を守る落石覆が架けられ、大正の石積は覆いの奥に隠れている。落石覆のうち最も古いものは昭和11年(1936年)、さらに昭和54年(1979年)にも増築された。覆いの支柱の一部には、使い古された古レールが転用されている。

沢入から足尾へ、山が険しくなる区間

わたらせ渓谷鐵道名越トンネルが穿たれたのは、沢入から北、渓谷が細く深くなっていく区間である。足尾鉄道は大正元年(1912年)11月に神土と沢入の間を開き、同年12月には沢入から足尾までを開通させた。名越トンネルはこの延伸の途上に掘られた一基で、南西へ約1,050メートル下れば沢入駅、北へ約1,400メートル進めば吉ノ沢架樋に出る。

路線の鉄道施設が登録有形文化財となったのは平成21年(2009年)11月2日で、告示は同月19日。桐生から間藤までの38施設が一括で登録され、2県にまたがる全線の登録は全国初となった。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。平成28年(2016年)には施設群が土木学会選奨土木遺産にも認定された。落石覆という後年の手当てを受けながら、大正の坑道が今も列車を通していること自体が、この登録の趣旨に沿っている。

短い暗がりと、その前後の山肌

32メートルは、列車ならまばたきほどの時間である。わたらせ渓谷鐵道名越トンネルを味わうなら、暗がりそのものより、その手前と直後に注意を向けたい。落石覆の格子の間から光が細かく切れ込み、抜けた先には切り立った斜面が近い。落石覆が二度にわたって増築されたという事実が、この場所の斜面がどれほど動いてきたかを示している。

沢入駅から間藤方面へ向かう下り列車で約2分、原向駅から桐生方面へ向かう上り列車では約6分半で見えはじめる。運行会社のパンフレットは沢入駅側の落石覆に古レールが使われているとし、みどり市は足尾側と記す。どちらの坑口にせよ、覆いの柱をよく見れば断面がレールの形をしているものが見つかる。

見学方法

わたらせ渓谷鐵道名越トンネルは現役の軌道上にあり、立ち入りも徒歩通行もできない。見学は沢入駅と原向駅の間を走る列車の車窓からとなる。沢入駅は大正元年(1912年)のプラットホームと昭和初期の待合所を残す無人駅で、7月にはふれあいパークのアジサイが見ごろを迎える。この駅を起点に往復すれば、名越トンネルと吉ノ沢架樋、さらに笠松トンネルまでを続けて見られる。

トロッコ列車を使う場合は、乗車券のほかトロッコ整理券(2026年9月1日から大人700円、小児350円)が必要で、繁忙期は満席になる。一日フリーきっぷは大人1,880円、小児940円。車内からの撮影は自由だが、無人航空機による軌道敷や列車の空撮は全面的に禁止されている。運行日と時刻は公式サイトを確認したい(料金は2026年9月13日時点)。

Q&A

Qわたらせ渓谷鐵道名越トンネルはなんと読みますか。
A「なごしトンネル」と読みます。文化庁の国指定文化財等データベースのふりがな欄も「わたらせけいこくてつどうなごしとんねる」としています。
Qわたらせ渓谷鐵道名越トンネルの長さと構造は。
A延長32メートルの単線仕様で、緩やかに湾曲します。側壁は石積、アーチ部は煉瓦積、坑門は全体が石積です。
Qわたらせ渓谷鐵道名越トンネルの坑門は列車から見えますか。
Aほとんど見えません。両側の入口に落石覆が架かっているためです。落石覆は昭和11年(1936年)と昭和54年(1979年)に築かれました。
Qわたらせ渓谷鐵道名越トンネルはどの駅の間にありますか。
A沢入駅と原向駅の間です。沢入駅から間藤方面の列車で約2分、原向駅から桐生方面の列車では約6分半で見えはじめます。
Qわたらせ渓谷鐵道名越トンネルの断面は何が珍しいのですか。
A当時の官設鉄道の標準設計よりも円形に近い馬蹄形とされる点です。土圧を受ける形として選ばれたと考えられます。

基本情報

名称わたらせ渓谷鐵道名越トンネル
所在地群馬県みどり市東町沢入
指定区分登録有形文化財(建造物)
指定年平成21年(2009年)登録
員数1基
寸法延長32メートル
所有者文化庁データベースに記載なし。路線はわたらせ渓谷鐵道株式会社が運行
公開状況非公開。立ち入り不可、車窓から見学可

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)/わたらせ渓谷鐵道名越トンネル
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00007852
みどり市/名越トンネル
https://www.city.midori.gunma.jp/kosodate/1001647/1001800/1002430/1002478.html
わたらせ渓谷鐵道株式会社/登録有形文化財パンフレット「車窓の旅 鉄道文化財めぐり」
https://www.watetsu.com/assets/pdf/sightseeing/culture_yukei_des05.pdf
わたらせ渓谷鐵道株式会社/トロッコわたらせ渓谷号
https://www.watetsu.com/train/torokei.php

最終更新日: 2026.09.13