酒蔵通りでいちばん高い煙突
福美人酒造恵比寿蔵煙突は、広島県東広島市西条本町にある大正期の煉瓦造煙突で、平成28年(2016年)8月1日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。
恵比寿蔵と呼ばれる敷地の中央に建ち、高さは約24メートル。西条の酒蔵が持つ煙突のなかでも最も高いと地元では言われる。文化庁のデータベースは員数を1基とし、種別を建築物ではなく「その他工作物」に分類している。人が入って使う建物ではなく、塔や塀、橋と同じ扱いということである。
通りを歩いてくると、門にたどり着くよりずっと手前、瓦屋根の上に煙突が姿を現す。真下に立つと、遠目に見るより絞りが強い。見上げるにつれて軸が身体から離れていく感覚がある。
足元は四角、頂部には蛇腹
近くで見て面白いのは二か所ある。
ひとつは地面に接するあたり。基部は円形ではなく角型で、一辺は約2メートル。角型の基部は同時代の日本の産業用煉瓦煙突に多い。積みやすく、隣接する建物と取り合いやすいうえ、炉から出る煙道がもともと矩形断面をとるためでもある。
もうひとつは最上部で、軸が突き出した繰形の帯、すなわち蛇腹で終わっている。この種の装飾は雨水を煉瓦面から切る実用を兼ねるが、同時に仕上げの問題でもある。造り手が煙突を工場設備の一部ではなく、蔵の表向きの顔として扱っていたことがここから読み取れる。
煉瓦はイギリス積で積まれている。長手だけの段と小口だけの段を交互に重ねる積み方で、日本の土木・産業建築では明治期以降の標準となった。強度の面で有利な選択であり、同時に大正期の広島で確保できた職人の技量を反映してもいる。
この規模の煙突が担っていたのは、蔵のボイラーが出す煙の排出である。酒造りで最も熱を使う工程は米を蒸す作業で、石油やガスが普及する以前は石炭や薪を焚いた。煙を屋根の上まで運ぶ高さが要った。
赤煉瓦と白漆喰
登録の基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」だが、この煙突についてはその文言が特によく当てはまる。文化庁の解説文自体が、煉瓦が周囲の赤瓦と呼応し、土蔵の白壁に映えて西条独特の造酒屋の景観をつくっていると述べている。
その取り合わせこそが西条の見た目を決めている。駅の南側、東西およそ1キロメートルの範囲に7つの酒蔵が並び、白壁となまこ壁の上に12本の煉瓦煙突が立つ。西条では煙突に銘柄名を大きく掲げる例が多く、空を見上げれば蔵元の見当がつく。
評価は段階を追って進んだ。平成28年から29年にかけて地区一帯の酒造施設が次々と登録有形文化財となる。そして平成29年(2017年)12月、ユネスコ世界遺産の諮問機関であるイコモスの日本国内委員会が、「西条の酒造施設群」を「日本の20世紀遺産20選」に選んだ。西条は兵庫の灘、京都の伏見と並ぶ三大銘醸地として語られる。
煙突を取り除いてみれば、その主張は成り立ちにくくなる。白壁の土蔵は日本のどこにでも建ちうる。遠くからこの町を見分けさせているのは、垂直に立つ赤い軸のほうである。
どこから見るか
煙突は公道からも恵比寿蔵の敷地内からも見え、撮影に料金も許可も要らない。敷地には直売所の営業時間内であれば自由に入れる。営業は10時から16時、12時から13時は休憩、定休日は不定休で、入場は無料である。
工作物なので内部はなく、登ることもできない。楽しみは見上げる角度と、通りの反対側まで下がって蔵の屋根と一緒に画面に収める構図にある。
光の条件は、ほかの文化財よりも効いてくる。午後遅い斜光では煉瓦が暖かく発色し、正午前後は平板になる。冬場は軸の影が敷地を長く横切る。曇天では赤と白の対比が弱まり、この構図の要が消える。
JR西条駅から徒歩約7分、山陽自動車道西条ICから車で約10分。ただし駐車場は2台分に限られる。直売所では日本酒の試飲ができ、仕込みに使う井戸水も見られる。創成期の広島東洋カープを救った樽募金の酒樽や、歴代内閣総理大臣が揮毫した「国酒」の色紙も展示されている。
ひとつ補足しておきたい。福美人酒造は西条末広町にも「大黒蔵」という敷地を持ち、そこにも大正14年(1925年)の煙突が立つ。ただし大黒蔵は市指定の史跡として保護されており、登録有形文化財ではない。ここで扱っているのは西条本町の敷地に立つ煙突である。
Q&A
- 福美人酒造恵比寿蔵煙突の高さはどれくらいですか。
- 文化庁の記録では高さ約24メートルです。基部は一辺約2メートルの角型で、西条の酒蔵が持つ煙突のなかで最も高いと地元では言われています。
- 福美人酒造恵比寿蔵煙突は撮影できますか。料金はかかりますか。
- 公道からも敷地内からも自由に撮影でき、料金はかかりません。敷地に入れるのは直売所の営業時間内、10時から16時(12時から13時は休憩)です。
- 福美人酒造恵比寿蔵煙突の煉瓦積みには何か特徴がありますか。
- 長手の段と小口の段を交互に重ねるイギリス積で積まれ、最上部は蛇腹と呼ばれる繰形の帯で仕上げられています。円形ではなく角型の基部も、この時期の産業用煙突らしい特徴です。
- 福美人酒造恵比寿蔵煙突へのアクセスを教えてください。
- 所在地は広島県東広島市西条本町691。JR山陽本線西条駅から徒歩約7分、山陽自動車道西条ICから車で約10分です。敷地内の駐車場は2台分のみとなります。
- 福美人酒造恵比寿蔵煙突はなぜ文化財に登録されたのですか。
- 平成28年(2016年)8月1日、「国土の歴史的景観に寄与しているもの」という基準で登録されました。西条の酒蔵地区には12本の煉瓦煙突が立ち、平成29年にはイコモス日本国内委員会が同地区の酒造施設群を「日本の20世紀遺産20選」に選定しています。
基本情報
| 名称 | 福美人酒造恵比寿蔵煙突(ふくびじんしゅぞうえびすぐらえんとつ) |
|---|---|
| 所在地 | 広島県東広島市西条本町691 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号 34-0172 |
| 指定年 | 平成28年(2016年)8月1日登録 |
| 員数 | 1基 |
| 寸法 | 煉瓦造、高さ24メートル(基部は一辺約2メートルの角型、イギリス積、最上部に蛇腹の装飾) |
| 所有者 | 福美人酒造株式会社 |
| 公開状況 | 公道から常時見学可。敷地内へは直売所の営業時間内(10時から16時、12時から13時は休憩、不定休)に入場可、無料 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)— 福美人酒造恵比寿蔵煙突
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00011179
- 文化遺産オンライン — 福美人酒造恵比寿蔵煙突
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/280516
- 東広島おでかけ観光サイト「ヒガシル」— 西条酒蔵通り
- https://higashihiroshima-kanko.jp/saijo-sakaguradori/
- 東広島おでかけ観光サイト「ヒガシル」— 福美人酒造
- https://higashihiroshima-kanko.jp/spot/fukubijin/
- 東広島市観光協会 — 酒蔵通りの町並み
- https://www.hh-kanko.ne.jp/ginjyo/machinami.html
- 東広島市 — 福美人酒造大黒蔵(史跡 西条酒蔵群)
- https://www.city.higashihiroshima.lg.jp/soshiki/kyoikuiinkaishogaigakushu/3/11/bunkazai/town/saijo/sakaguragun/39659.html
最終更新日: 2026.08.08