ヤマモトロックマシン(旧山本鉄工所)第一工場―桁行七八メートルの木造工場

桁行七八メートル。広島県北東端、庄原市東城町の市街地に、この長さの木造工場が昭和九年(1934年)から建っている。第一工場である。博物館に転用されたわけではない。現在も稼働する工場で、木のトラスの下で組み立てられたさく岩機が、国内外のトンネル工事現場や採石場へ送り出されている。

所有者のヤマモトロックマシン株式会社は、大正四年(1915年)二月、山本集一の個人経営として東城の地に興った。最初の製品は家庭用の鋳物だった。やがて機械設備を整え、発動機や製材機の修理・製造へと仕事の幅を広げていく。

転機は水にあった。大正末期から昭和初期にかけて、帝釈川発電所ダム工事や成羽川発電所建設工事がこの一帯で進み、多数の外国製さく岩機が持ち込まれる。その修理と部分品の補給を引き受けた東城の鉄工所は、輸入に頼らず自ら造る道を選んだ。社史によれば、ドイツから技師を招き、さく岩機の寿命を左右する熱処理技術を学んだという。昭和十四年(1939年)二月に株式会社山本鐵工所として法人化し、平成八年(1996年)に現社名へ改めている。

第一工場が建ったのは、法人化の少し前。製品が市場を得て、旧来の作業場では手狭になった時期にあたる。

登録の理由と価値

この建物は登録有形文化財(建造物)である。平成二十八年(2016年)二月二十五日、第八十三回登録として国の登録原簿に記載された。登録番号は34-0156。同じ日に、社有地とその周辺の七棟が併せて登録されている。

国宝や重要文化財の「指定」とは制度が異なる。登録制度は平成八年(1996年)の文化財保護法改正で設けられたもので、明治以降を中心とする膨大な近代建造物、つまり工場・学校・橋・商店・住宅といった、従来の指定制度では拾いきれなかった建物を対象とする。大きな改変にあたっては許可申請ではなく届出で足り、所有者は建物を使い続けながら保存にあたる。新しい機械を受け入れ続けなければならない工場にとって、この柔軟さは決定的だった。第一工場が現役の工場であり続けている理由の一つが、ここにある。

適用された登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。文化庁のデータベースは第一工場を「中心となる木造建築」と記し、効率的な作業空間の実現による機能美を評価している。装飾の要素はほとんどない。長い床の上で重量物を動かし、その中央まで自然光を届けるという二つの課題が、そのまま建物の形になっている。

見どころ

まず断面を理解したい。梁間を一気に架け渡すのではなく、三スパンに分割し、中央のスパンだけを両側より高く持ち上げている。屋根の段差にできた立ち上がりに窓を設けることで、側壁からでは届かない床の中央部へ、上から光が落ちる。

持ち上げた中央部の上には、さらに越屋根が載る。棟に沿って走る背の低い小屋根で、側面に開口を持つ。鍛冶や機械加工が生む熱と煙を抜き、採光の帯をもう一段加える装置である。通りから棟筋を見通すと、この越屋根が落とす細長い影の線が最初に目に入る。

登録記録上の構造は木造平屋建、鉄板葺、建築面積1421平方メートル。不定期の見学会で内部に入った来訪者は、トラスを含めて骨組みがすべて木で、柱には堅いクリ材が使われていると案内を受けたと記している。昭和九年竣工とともに記録される昭和十三年の改修が、現在の長さの一部をつくっている。

通りに立って見る第一工場は、暗い壁と明るい屋根が水平に伸びるだけの、素っ気ない建物に見える。その長さに気づくまでは。内部に入る機会を得ると印象は反転する。トラスが奥へ奥へと反復し、持ち上げられた中央部が視線を遠い妻壁へ導く。外から平凡に見えた幾何が、この建物の主題そのものだったとわかる。

敷地は私有地であり、現に人が働く場所である。常設の公開はなく、受付も見学コースもない。保存活用に取り組む有志と会社が、年によっては十一月初旬の東城の祭り「お通り」に合わせて工場や旧自治寮の見学会を開いてきたが、毎年恒例の行事ではない。内部を見たい場合は、当日訪ねるのではなく、庄原市の観光協会や会社へ事前に問い合わせるのが確実である。外観は公道からも眺められる。

Q&A

Q第一工場の中を見学できますか。
A通常はできません。現役の工場で、私有地に建っています。内部の見学は所有者の協力を得た不定期の見学会に限られてきたため、開催予定があるかどうかを庄原市の観光協会などへ事前に確認してください。
Q登録有形文化財と重要文化財は何が違うのですか。
A登録は平成八年に始まった、より緩やかな保護の仕組みです。大きな改変は許可制ではなく届出制で、日常的に使われ続ける近代建造物に適しています。重要文化財の指定は規制が格段に厳しく、より古い建物や希少な建物が中心となります。
Q屋根の中央だけが高いのはなぜですか。
A桁行七八メートルの床の中央まで光を入れるためです。梁間を三スパンに分けて中央を持ち上げると、段差に高窓を設けられます。その上に載る越屋根が、採光に加えて熱や煙の排出も担います。
Qここでは何が造られてきたのですか。
Aさく岩機と、それに関わる空気圧機械です。地元のダム・発電所工事で使われた外国製さく岩機の修理から国産製造へ進み、現在もさく岩機を中核に、製鉄関連機械やインフラ維持管理の機械までを手掛けています。
Q周辺に他の登録建造物はありますか。
A同じ2016年に七棟が登録されています。第二工場、仕上げ工場、便所棟、青年学校、そして自治寮の家族棟・独身棟・食堂娯楽室棟です。通りに面する旧本社事務所兼主屋は2024年12月に登録されました。

基本データ

名称ヤマモトロックマシン(旧山本鉄工所)第一工場
ふりがなやまもとろっくましん(きゅうやまもとてっこうしょ)だいいちこうじょう
所在地広島県庄原市東城町東城字下町6-3他
指定区分登録有形文化財(建造物)/種別 産業2次・建築物
登録年月日平成28年(2016年)2月25日 登録番号34-0156 第83回登録
登録基準国土の歴史的景観に寄与しているもの
年代昭和9年(1934年)/昭和13年(1938年)改修
構造及び形式木造平屋建、鉄板葺、建築面積1421平方メートル
員数1棟
所有者ヤマモトロックマシン株式会社
公開状況非公開(稼働中の工場・私有地)。不定期の見学会のみ、事前確認が必要
交通中国自動車道 東城ICから車で約5分/JR芸備線 東城駅

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「ヤマモトロックマシン(旧山本鉄工所)第一工場」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00010992
文化遺産オンライン「ヤマモトロックマシン(旧山本鉄工所)第一工場」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/273282
庄原市「登録文化財」
https://www.city.shobara.hiroshima.jp/main/education/shogaigakushu/cat02/02/post_192.html
ヤマモトロックマシン株式会社「会社案内・沿革」
https://yrm.co.jp/company-info/

最終更新日: 2026.07.22