明治18年の門が写した、文政8年の門
吉原家住宅表長屋門は、広島県尾道市向島町3854にある明治18年(1885年)建築の長屋門で、平成9年(1997年)7月15日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。木造平屋建、瓦葺、建築面積114平方メートルの1棟である。
吉原家は江戸時代を通じて向島西村の庄屋を勤めた家で、屋敷は島のほぼ中央、小高い敷地に構えられている。周囲は石垣に囲まれ、東側の石垣の上に、この表長屋門が横に長く載る。門をくぐった先には寛永12年(1635年)建築の茅葺主屋が東を向いて建ち、その北には天保11年(1840年)の納屋が続く。主屋と納屋、宅地は平成3年(1991年)5月31日付で重要文化財に指定されている。
つまり表長屋門は、屋敷の主要な建物のなかでもっとも新しい。それでいて、形はおそらくもっとも古い。
手がかりは家相図である。吉原家には家相図5枚が伝わり、これらは主屋の重要文化財指定の附として一括して守られている。うち文政8年(1825年)の1枚に、現在地に建っていた門が描かれている。文化庁の登録記録は、明治18年の再建にあたって、その規模と形式が引き継がれたものと推定している。60年前の紙の上の門が、目の前の門の設計図になったということになる。
なぜ「登録」なのか、なにが評価されたのか
建造物の保護には、指定と登録という二つの制度がある。指定は限られた優品に対して現状変更に強い制限をかける仕組みで、登録は平成8年(1996年)に始まった、より緩やかな仕組みである。登録有形文化財は大幅な改変の前に届出を要するだけで、所有者は建物を使い続けられる。現に住まわれ、現に働いている建物を守るための制度と考えてよい。
表長屋門は第4回の登録で、登録番号は34-0009、告示は平成9年7月30日付である。登録基準は「再現することが容易でないもの」が適用された。理由は二つ読み取れる。ひとつは規模で、文化庁の解説は向島では類例が少ない長大な表門と記す。もうひとつは記録で、明治18年の普請に関する文書が家に残る。建物そのものより、建物の来歴を裏づける紙のほうが失われやすい。それが揃っている点が効いている。
ひとつの屋敷のなかに、指定と登録が同居している。背後の主屋は、建築年代が文書で確定できる民家として全国でも屈指の古さをもつために指定され、前面の門は明治の再建として登録された。制度の階層が違うだけで、どちらも同じ家の歴史の一部である。
見どころと、訪ねる前に知っておきたいこと
まず道を登りきったところで足を止めてほしい。門は地面に立っているのではなく、東面の石垣の天端に載っている。下から見上げると、瓦の大棟が出入口の左右へずいぶん先まで伸びていることがわかる。この横の長さが、長屋門という形式の本質にあたる。
屋根の材を見比べるのも面白い。門は瓦葺、奥の主屋は寄棟造の茅葺である。西日本の農家では、門に耐久性の高い瓦を用い、主屋を茅で葺く組み合わせが珍しくなかった。門は村に対して家の格を示す顔だったからで、そこに費用をかける理由があった。
屋敷内部の公開は日曜日と祝日で、入場料は300円。地元の保存会の方が主屋を案内してくださる。ただし公開は確約されたものではない。現に個人の住宅であり、家庭の事情や修理で閉じられることもある。遠方から向かう場合は、尾道市文化振興課文化財係(0848-20-7425)に事前に確認しておくと確実である。閉まっている日でも門は公道から見上げられ、規模を実感するにはむしろそのほうが良い。
撮影は、公道からの外観については制限がない。屋敷内では、住居として使われている部分があるため、案内の方に一声かけてから撮るのが望ましい。
行き方は短い船旅を含む。尾道の岸から向島へは渡船が頻繁に出ており、所要は5分ほど。車ならしまなみ海道の向島インターチェンジから10分程度である。駐車場はあるが狭く、最後の農道は大型車には向かない。しまなみ海道のサイクリングコースから数キロの位置にあるので、標高283メートルの高見山の展望台と合わせて半日で回る組み立てがしやすい。
Q&A
- 吉原家住宅表長屋門は見学できますか。公開日と入場料は。
- 屋敷内部の公開は日曜日と祝日で、入場料は300円です。門そのものは公道からいつでも見ることができます。個人の住宅であるため公開が休止されることもあり、遠方からお越しの場合は尾道市文化振興課文化財係(0848-20-7425)へ事前確認をおすすめします。
- 吉原家住宅表長屋門は重要文化財ではなく登録有形文化財なのですか。
- 表長屋門は平成9年(1997年)登録の登録有形文化財です。同じ屋敷の主屋・納屋・宅地は平成3年(1991年)5月31日付で重要文化財に指定されています。登録は平成8年に始まった緩やかな保護制度で、使い続けられている建物を対象とします。
- 吉原家住宅表長屋門はいつ建てられたものですか。
- 明治18年(1885年)の建築です。ただし形式はそれより古いと考えられており、吉原家に伝わる文政8年(1825年)の家相図に、同じ位置に建っていた門が描かれています。文化庁の記録は、その規模と形式を継承したものと推定しています。
- 吉原家住宅へは尾道駅からどう行きますか。
- 尾道の岸から向島へ渡船で約5分、そこからバス・タクシー・自転車で向かいます。車の場合はしまなみ海道の向島インターチェンジから約10分です。屋敷前の農道は狭く、駐車スペースも限られます。
- 吉原家住宅表長屋門は撮影できますか。
- 公道からの外観撮影に制限はありません。屋敷内は居住部分があるため、案内の方に確認してから撮影してください。
基本情報
| 名称 | 吉原家住宅表長屋門(よしはらけじゅうたくおもてながやもん) |
|---|---|
| 所在地 | 広島県尾道市向島町3854 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号 34-0009 |
| 指定年 | 平成9年(1997年)7月15日登録/同年7月30日告示 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造平屋建、瓦葺、建築面積114平方メートル |
| 所有者 | 個人(吉原家) |
| 公開状況 | 屋敷内部は日曜・祝日公開、入場料300円。門は公道から常時見学可。事前確認推奨 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁) — 吉原家住宅表長屋門
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000265
- 文化遺産オンライン — 吉原家住宅表長屋門
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/146875
- 文化遺産オンライン — 吉原家住宅 主屋
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/124197
- 文化遺産オンライン — 吉原家住宅 納屋
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/146888
- 広島県 — ひろしまたてものがたり 吉原家住宅
- https://www.pref.hiroshima.lg.jp/soshiki_file/tatemonogatari/page076.html
- 尾道市 — 尾道市の指定・登録文化財
- https://www.city.onomichi.hiroshima.jp/soshiki/7/4023.html
- Dive! Hiroshima — 吉原家住宅主屋・納屋
- https://dive-hiroshima.com/explore/2185/
最終更新日: 2026.08.09