上磯の通りに面して建つ江戸末期の町家

熊谷家住宅主屋は、北海道北斗市中央2-5-33にある江戸時代末期の町家建築で、平成18年(2006年)3月27日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。文化庁は年代を江戸末期、西暦でおよそ1830年から1867年の間としている。

この年代こそが注目すべき点である。北海道の建物は圧倒的に明治以降のものだ。本格的な開拓が明治2年以降の話だから当然ではある。明治維新より前に遡る建築が残るのは、松前藩のもとで和人の集落が何世紀も続いてきた函館周辺、すなわち道南に限られる。熊谷家住宅主屋はその古い層に属している。

所在地は平成18年2月まで上磯町だった。同月に大野町と合併して北斗市が発足し、登録はその2か月後に告示されている。つまりこの建物は、最初から北斗市の文化財として登録簿に載った。

熊谷家は農林業で身を立てた家である。上磯一帯の農林業の基礎を築いた人物として熊谷宇兵衛の名が地元に伝わっており、この建物は彼の店舗兼住宅として使われた。

間取りの読み方

建物は通りに北面する。桁行7間、梁行6間。メートルに直せばおよそ13メートル×11メートルになる。登録上の構造は木造2階建、鉄板葺、建築面積262平方メートル。屋根は素直な切妻造である。

内部は長手方向で二分される。東側は土間で、前から奥まで通る。西側は床上部で、田字形四間取。間仕切りの配置が「田」の字に見えることからこう呼ぶ。前面のミセ、つまり店の間の上には2階が設けられ、土間の南側には平屋建の角屋が延びる。

ひとつだけ、保存ではなく復原された要素がある。1階前面の出格子の裏側、1間通りの土間だ。文化庁の解説文はここをわざわざ挙げている。この帯がなければ建物はただの古い家に見えるだろう。あることで町家としての商いの構造が読めるようになる。客が立ったのはそこだからだ。

北国の建物であることを最もはっきり示すのは屋根である。本州でこの格の町家なら瓦を葺くところだが、北海道では瓦は不利だ。含んだ水が凍って割れる。代わりに鉄板が載った。登録基準は「造形の規範となっているもの」で、解説文は本建物を、道南の伝統的な町家形式を今に伝えるものと位置づけている。

見学について

出かける前にはっきりさせておきたい。熊谷家住宅主屋は個人所有の建物であり、一般公開されていない。内部見学はできず、受付も公開時間もない。できるのは道路から外観を眺めることで、これは自由かつ無料である。建物の前には説明板が立っている。

歩道から見ると構成はよく分かる。1階には出格子が横に走り、その上、2階の壁は漆喰で白く塗られている。2階の窓の一つはどこかの時点でアルミサッシに交換されており、この改変を見つけるのは案外いい練習になる。登録有形文化財は生きて使われている建物で、制度もそれを織り込んでいる。

公道からの外観撮影は問題ない。内部に向けてレンズを向けること、敷地に立ち入ることは避けてほしい。ここは人の住まいである。

アクセスは分かりやすい。道南いさりび鉄道の清川口駅から徒歩6分ほど。函館の五稜郭駅と木古内駅を結ぶ路線で、旧JR江差線を引き継いでいる。函館からの日帰りに組み込みやすい。ただし列車は1時間に1〜2本程度と少ないので、出発前に時刻表を確認しておきたい。

同じ行程に入れやすい場所が北斗市内に二つある。ひとつは松前藩戸切地陣屋跡。安政2年(1855年)築の稜堡式土塁で国指定史跡、春の桜並木でも知られる。もうひとつは北斗市郷土資料館で、市内の国指定・道指定・市指定・登録文化財を地図とあわせて総覧できる展示がある。建物の中に入れない分、こちらで背景を補うと理解が深まる。

Q&A

Q熊谷家住宅主屋の内部は見学できますか。
Aできません。熊谷家住宅主屋は個人の住宅であり、一般公開されていません。拝観料も内部見学の制度もありません。外観は公道からいつでも自由に見ることができ、建物前には説明板が設置されています。
Q熊谷家住宅主屋はいつ建てられたのですか。
A文化庁は江戸末期、西暦でおよそ1830年から1867年の間としています。明治維新以前にさかのぼる建築は北海道では稀で、松前藩のもとで和人集落が長く続いた道南地方にほぼ限られます。
Q熊谷家住宅主屋の屋根はなぜ瓦ではなく鉄板葺なのですか。
A瓦は北海道の冬に弱いためです。瓦が吸った水分が凍結して割れる恐れがあり、雪を落としやすく凍結融解に耐える鉄板葺が道内では一般的になりました。登録上の構造も鉄板葺と記録されています。
Q熊谷家はどのような家だったのですか。
A地元の記録によれば、熊谷宇兵衛が上磯地域の農林業の基礎を築いたと伝わります。この建物は彼の店舗兼住宅として使われました。商いの場と暮らしの場を一棟に収めるのは、この時代の町家の標準的なあり方です。
Q熊谷家住宅主屋へのアクセスを教えてください。
A道南いさりび鉄道の清川口駅から徒歩約6分です。同線は函館の五稜郭駅と木古内駅を結びます。運行本数が少ないため、事前に時刻表の確認をおすすめします。所在地は北斗市中央2-5-33です。

基本データ

名称熊谷家住宅主屋(くまがいけじゅうたくしゅおく)
所在地北海道北斗市中央2-5-33
指定区分国登録有形文化財(建造物) 登録番号01-0069
指定年平成18年(2006年)3月27日登録、4月12日告示 第50回
員数1棟
寸法木造2階建、鉄板葺、桁行7間・梁行6間、建築面積262平方メートル
所有者個人(国のデータベースに所有者名の記載なし)
公開状況非公開。外観のみ公道から見学可。現地に説明板あり。

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁) 熊谷家住宅主屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00005399
文化遺産オンライン 熊谷家住宅主屋
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/118477
北斗市 北斗市郷土資料館 施設のご案内
https://www.city.hokuto.hokkaido.jp/docs/8007.html
北斗市観光協会 歴史のある建造物のご紹介
https://hokutoinfo.com/hokutoblog/2016/07/30/3066/

最終更新日: 2026.08.27