根室車石 ― 直径6メートルの「石の車輪」が並ぶ花咲の海岸

花咲灯台が立つ崖の真下、波打ち際の岩場に、中心から放射状に割れ目が走る黒い玄武岩がある。差し渡しはおよそ6メートル。上から見ると、巨大な石の車輪が海岸に埋め込まれているように見える。地元では古くから「車石」と呼ばれ、この一帯の地名にもなった。文化庁の国指定文化財等データベースには「根室車石」として登録され、昭和14年に国の天然記念物に指定されている。

彫刻のように見えるこの形は、地質現象が生んだものだ。放射状の割れ目は「節理」と呼ばれ、溶岩が冷えて縮むときにできる。車輪に見える円は、いまはもう存在しない海底で固まった枕状溶岩、その一つの塊の断面である。

海底でできた車輪

ここの岩は、アルカリ分に富む方沸石玄武岩で、水中で噴出した。溶岩が海水に触れると、遠くまでは流れない。表面は数秒で冷えて殻をつくり、内側のどろどろした部分がその殻を破って押し出される。こうして溶岩は、丸みを帯びた塊をいくつも積み重ねながら前へ進む。横から見た塊が枕に似ているため、これを枕状溶岩という。

一つひとつの塊は、固まりながら外側の殻から内側の熱い芯に向かって割れていく。その収縮の割れ目を断面から見ると、荷車の車輪の輻のように外へ広がる。根室車石が見せているのは、この断面である。最大のものは直径約6メートル。数十センチから1、2メートルほどの小ぶりなものも、同じ海岸に点在している。

固まった時期について、文化庁はおよそ6000万年前、恐竜が姿を消した頃と説明している。地元の解説には白亜紀までさかのぼる記述もあり、根室地域の岩石はその時代の境にまたがるため、年代には相応の幅をもたせて記される。確かなのは、ここがかつて火山活動のあった海底であり、のちに隆起して、いまは太平洋の波を受ける岩場として姿を現していることだ。

なぜ守られているのか

枕状溶岩そのものは珍しくない。珍しいのは、車輪と読み取れるほど大きく、輻の模様がくっきりした放射状節理だ。昭和14年9月7日の指定では、その岩石の組織が評価された。方沸石玄武岩が枕状の構造をつくり、その横断面が車輪のように放射状をなす ― 火山岩の構造としてきわめて稀なものとされている。塊の大きさ、輻の模様の明瞭さ、そして一続きの海岸にいくつも見られる点が、根室車石を他と分けている。

指定区分は天然記念物。重要な地質構造や貴重な動植物を対象とする保護の枠組みである。ここでの価値は構造的、そして教育的なものだ。ふつうは地下深くや沖合に残されるはずの現象の証拠を、原寸大で、屋外で目にできる場所なのである。

見どころ

大きな車石

6メートルの車石は、やはり最初に目が行く。輻はくっきりと刻まれ、外縁は丸みを帯びる。波が一度かぶると黒い玄武岩はいっそう深い黒に光り、放射状の線が鮮明に浮かび上がる。一方向から眺めて済ませず、ゆっくり回り込んで見たい。光と濡れ具合で模様の見え方が変わる。

小さな車石

大きな岩から視線を落とすと、海岸は仲間たちで埋まっている。車輪の面を空に向けて立つものもあれば、横倒しになって枕の形を見せるものもある。岩場を歩けば、少しずつ違う割れ方をした石が次々と見つかる。灯台の右奥、崖際にある木炭の断面のような小ぶりな車石のほうが、見ごたえでは大きな車輪に譲っても、学術的にはむしろ興味深いと話す人も多い。

周囲の眺め

崖の上に白い灯台、波打ち際に黒い岩、その先に深い青の太平洋が広がる。途中までは木道が整い、灯台からは短い階段を下りれば岩の前まで近づける。潮の香りを含んだ風が吹き抜け、うねりが低く重い音を立てて岩に当たる。北海道の東のはずれ、開けた海岸そのものの場所だ。

花咲のまわり

花咲港は花咲ガニの産地として知られる。タラバガニに近い、棘の多い硬い殻のカニで、夏から初秋にかけて根室の各所で味わえる。車石は市街地から車で近く、半島のほかの岬と組み合わせて回りやすい。

同じ半島の先端には、車で行ける日本本土最東端の納沙布岬があり、北方領土を望む位置に高い展望塔が立つ。市街へ戻る道筋には、渡り鳥の中継地として国際的に重要な風蓮湖と春国岱の砂州があり、落石岬もまた荒々しい海岸線を見せる。一日あれば、車石をふくめて無理なくつなげられる。

Q&A

Q車石へはどう行けばよいですか。
AJR根室駅から花咲灯台まで車で約10分です。灯台には30台ほど停められる無料駐車場があります。バスの場合は根室交通の花咲港方面行きに乗り、下車後20〜30分ほど歩きます。中標津空港からは車で約100分です。
Q入場料や開館時間はありますか。
Aありません。開けた海岸の見学地で、入場は無料、門もありません。木道や灯台からの階段はいつでも使えますが、明るい時間帯と穏やかな天候のほうが安全です。
Q岩のすぐそばまで近づけますか。
A近づけます。木道と短い階段で最大の車石の近くまで行けます。岩は濡れて滑りやすく、足場も不ぞろいなので注意してください。波が高いときは水際から十分に離れてください。
Qいつ訪ねるのがよいですか。
A晩春から秋にかけてが、気候も足場も穏やかです。放射状の模様は岩が濡れているときに最もよく見えるので、波がかかった直後や小雨のあとは見ごたえがあります。根室は夏の海霧で知られますが、景色を損なうというより柔らかく包んでくれることも多いです。
Q近くの見どころは。
A半島先端の納沙布岬、野鳥観察の風蓮湖と春国岱、そして花咲港の海の幸です。旬の時期には花咲ガニも味わえます。

基本データ

名称根室車石(ねむろくるまいし)
所在地北海道根室市花咲港 〒087-0032
指定区分国指定天然記念物
指定年月日昭和14年(1939年)9月7日
指定基準(七)岩石の組織
岩石放射状節理をもつ方沸石玄武岩の枕状溶岩
規模最大の車石は直径約6メートル
アクセスJR根室駅から車で約10分/中標津空港から車で約100分
駐車場無料、約30台
料金無料(開けた海岸の見学地、見学時間の定めなし)
問い合わせ根室市観光協会 電話 0153-24-3104

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「根室車石」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/401/29
HOKKAIDO LOVE!(北海道観光機構)「花咲灯台車石」
https://www.visit-hokkaido.jp/spot/detail_10281.html
根室市観光協会 花咲エリアスポットマップ
https://www.nemuro-kankou.com/access/spotmap-hanasaki/

最終更新日: 2026.05.29