日本最東端の市街地に建つ大正14年の本堂
清隆寺本堂は、北海道根室市松本町にある真言宗寺院の本堂で、大正14年(1925年)に建てられ、令和6年(2024年)8月15日に国の登録有形文化財に登録された。
根室は北海道の東端に位置し、札幌より国後島のほうが近い。清隆寺は観光地の中心にあるわけではなく、根室駅から歩いて10分ほどの住宅地の一角に建つ。長い参道も石畳の階段もない。かわりに現れるのが、木造平屋建、鉄板葺、建築面積258平方メートルの本堂である。
正面は北を向いている。オホーツク海からの季節風が吹きつける土地で、日当たりではなく道路の側に入口を取ったということだ。屋根は入母屋造。全体の姿は高く伸びるというより、低く地面を押さえるような構えになっている。
寺は明治25年(1892年)の開創と伝わり、真言宗智山派に属し、本尊は不動明王とされる。北海道三十三観音霊場の22番札所にも数えられる。ただしこれらは二次資料に拠るもので、文化庁の登録記録が扱っているのはあくまで建造物としての本堂である。
気仙大工が北へ運んだ技
文化庁は本堂を「造形の規範となっているもの」として登録し、その解説文に施工者の名を記している。気仙大工の花輪喜久蔵、本堂はその道内作の一つとされる。
気仙大工とは、現在の岩手県沿岸南部、気仙地方を出自とする大工集団を指す。社寺建築の仕口と装飾彫刻に長じ、地元の仕事が細るたびに東北から北海道へと出稼ぎに出た。大正期の根室に気仙で腕を仕込まれた大工が本堂を建てているという事実は、漁業と入植の経済に沿って技術が北上した当時の姿を示す小さな証拠になる。
登録は建物の生涯のかなり後半にやってきた。登録番号は01-0170、第107回登録。材が刻まれてから百年近くを経てのことである。昭和50年代には改修の手が入っており、この点も建設年とあわせて国のデータベースに記載されている。
一点だけ注意が要る。本堂の建立を明治45年(1912年)とする記述がインターネット上の複数の紹介記事に見られる。文化庁のデータベースと北海道教育庁の文化財年報はいずれも大正14年としており、本稿はこれに従った。
現地で目を留めたい細部
まず北面の向拝の下に立ってほしい。軒には軒唐破風が据えられ、その上の屋根面には千鳥破風が付く。この規模の建物に破風を二種類重ねるというのは、なかなか思い切った意匠である。
そこから、頭上の木組みに目を移す。
向拝の虹梁、梁端に突き出した木鼻、破風の頂点から吊り下がる懸魚。これらの部材に彫刻が入る。獅子、龍、鳳凰。国の記録はこの彫刻を本堂の白眉として挙げており、登録に値すると判断された理由もそこにある。
内部は前後で性格が分かれる。前方が参詣間で、参拝者はここに座る。後方に内陣と脇内陣が置かれ、本尊を安置する内陣は結界の線に揃えず前方へ張り出している。この張り出しによって、前列に座った人と本尊との距離が縮まる。
多くの人は桜を目当てに訪れる。境内にはチシマザクラの群があり、根室市の記録によれば、原木は明治2年(1869年)に国後島から市内へ移され、明治36年(1903年)に清隆寺境内へ移植された。現在、境内には約40本の桜が育つ。桜前線が最後に到達する土地であるため、ここの花は日本で最も遅く開くものの一つとなる。見頃は例年5月中旬前後だが、年によって一週間以上前後する。最古の一本は北海道百年記念の銘木に指定されている。
実用的な情報も記しておく。境内は開放されており拝観料はかからない。駐車場も境内にある。ただし本堂は現役の信仰の場であり、内部に入れるかどうかはその日の状況次第となる。堂内へ立ち入りたい場合は寺務所に声をかけるのが確実である。外観と桜の撮影に制限はないが、堂内や法要中の撮影は事前に許可を得たい。
Q&A
- 清隆寺本堂は拝観できますか。拝観料はかかりますか。
- 境内は開放されており、拝観料は不要です。境内に無料の駐車場もあります。本堂は現役の宗教施設ですので、内部に入れるかどうかは当日の状況によります。寺務所にお尋ねください。
- 清隆寺本堂へは根室駅からどう行きますか。
- 徒歩でおよそ10分です。根室市街の松本町、駅から少し内陸へ入った位置にあり、道はほぼ平坦です。根室へはJR釧路方面から、または札幌・釧路からの都市間バスで到着できます。
- 清隆寺の桜はいつ咲きますか。
- 例年5月中旬前後で、国内で最も遅い部類に入ります。開花日は年によって一週間以上ずれるため、根室市や根室市観光協会が発表する開花宣言を確認してから出かけると確実です。
- 清隆寺本堂はなぜ登録有形文化財になったのですか。
- 令和6年(2024年)に「造形の規範となっているもの」として登録されました。向拝虹梁・木鼻・懸魚に施された獅子、龍、鳳凰の彫刻が評価されており、気仙大工の花輪喜久蔵による道内作の一つとして位置づけられています。
- 清隆寺本堂で写真を撮ってもよいですか。
- 外観と境内の桜については制限はありません。堂内や法要中の撮影は、事前に許可を得てください。桜の時期は参道から外れないようご配慮ください。古木は枝が低く、傷みやすいためです。
- 清隆寺とあわせて回れる根室市内の見どころはありますか。
- 近くの明治公園には昭和初期のレンガ造サイロ3基があり、これも国の登録有形文化財です。半島東端の納沙布岬までは市街から車でおよそ40分です。
基本データ
| 名称 | 清隆寺本堂(せいりゅうじほんどう) |
|---|---|
| 所在地 | 北海道根室市松本町二丁目1-1他 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号 01-0170 |
| 指定年 | 令和6年(2024年)8月15日登録・同日告示 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造平屋建、鉄板葺、建築面積258平方メートル |
| 所有者 | 清隆寺 |
| 公開状況 | 境内は常時開放・拝観料なし。堂内は寺の判断による |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)/清隆寺本堂
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00014991
- 文化遺産オンライン/清隆寺本堂
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/619279
- 根室市/根室の千島桜
- https://www.city.nemuro.hokkaido.jp/lifeinfo/kakuka/suisankeizaibu/shoukoukankou/3/1060.html
- 根室市観光協会/日本一遅咲きの桜
- https://nemuro-kankou.com/special/special439/
最終更新日: 2026.08.27