開拓使札幌本庁本庁舎跡および旧北海道庁本庁舎 ― 北の大地、近代日本のはじまりを語る赤れんが

札幌の都心、大通公園のすぐ北側に堂々と建つ煉瓦造りの洋館 ― 「赤れんが庁舎」の愛称で広く親しまれている旧北海道庁本庁舎は、北海道を代表する歴史的建造物のひとつです。しかしこの場所の歴史は、地上に残る建物だけにとどまりません。明治時代に北の大地の開拓を担った国の行政機関「開拓使」の札幌本庁舎が、かつてこの地に置かれていたのです。地下に眠る開拓使本庁舎の遺構と、その実質的な後継者として明治21年(1888年)に建てられた赤れんが庁舎が一体となって、国の史跡「開拓使札幌本庁本庁舎跡および旧北海道庁本庁舎」として指定されています。

令和元年(2019年)から進められてきた大規模改修工事が完了し、令和7年(2025年)7月25日にリニューアルオープン。生まれ変わった内部展示、八角塔の観覧体験、新たな飲食・物販店舗を備え、北海道の歴史・文化・観光の発信拠点として、再び国内外の旅人を迎えています。

歴史的背景 ― 開拓使から北海道庁へ、近代化の象徴として

この史跡の物語は、明治2年(1869年)7月8日、新政府が蝦夷地の開拓を掌るために行政機関「開拓使」を設置したことに始まります。同年、蝦夷地は「北海道」と改称され、未開の北の大地を国家事業として開発する歩みが始まりました。

開拓使札幌本庁本庁舎(明治6年〜12年)

幾多の変遷を経て、明治5年(1872年)9月、開拓使はその庁を「札幌本庁」と改称しました。同年7月から、現在の北海道庁構内を含む西4丁目から西8丁目、北1条から北6条に及ぶ広大な敷地を確保し、本庁舎の新築工事が始まります。明治6年(1873年)10月29日、屋上に八角塔をいただく木造2階建ての本庁舎と付属建物が完成しました。しかし、明治12年(1879年)1月17日に発生した火災により、わずか6年ほどでこの建物は焼失してしまいます。

明治15年(1882年)2月8日に開拓使は廃止され、北海道は札幌・函館・根室の3県と農商務省北海道事業管理局による「3県1局時代」を経て、明治19年(1886年)1月16日、新たに北海道庁が設けられました。

赤れんが庁舎の誕生(明治21年〜現在)

北海道庁は、開拓使札幌本庁の敷地を縮小して継承し、新たな本庁舎の建設に着手します。明治19年7月15日に着工された新庁舎は、明治21年(1888年)12月14日に竣工しました。設計の中心を担ったのは、当時の北海道庁技師であった平井晴二郎です。外壁を覆う煉瓦は、近隣の白石村・豊平村などで焼かれたもので、その数は約250万個に及ぶといわれています。

建物は明治42年(1909年)1月11日に火災に見舞われ、内部と屋根は焼失しましたが、煉瓦造の外壁はそのまま残りました。修復工事を経て明治44年(1911年)11月15日に再び姿を整え、その後昭和43年(1968年)に現在の道庁本庁舎が完成するまで、約80年にわたって北海道行政の中枢を担い続けました。

なぜ史跡に指定されたのか ― 北海道開拓史を物語る価値

昭和42年(1967年)10月、現在の北海道庁本庁舎を新築する工事の最中に、地中から開拓使札幌本庁本庁舎の基礎杭跡と捨土台(すてどだい)の一部が発見されました。火災で失われたはずの明治初期の本庁舎の痕跡が、思いがけず姿を現したのです。

この発見は、明治地方政治史上きわめて重要な確認として高く評価されました。文化財保護委員会は、開拓使札幌本庁本庁舎の跡地と、それを実質的に継承した旧北海道庁本庁舎を併せて、明治年間の北海道開拓の意義を後世に伝える史跡として指定することを決定。昭和42年(1967年)12月15日、「開拓使札幌本庁本庁舎跡および旧北海道庁本庁舎」の名称で国の史跡に指定されました。

さらに昭和44年(1969年)3月12日には、赤れんが庁舎の建物自体も、明治中期における煉瓦造洋風建築としては比較的規模の大きい貴重な遺構として、国の重要文化財に別途指定されています。地下の遺構が「北海道開拓の起点」を物語る一方、地上の建物は「明治期の建築技術と意匠」を伝える ― 二重の文化財価値を備えた稀有な場所なのです。

魅力と見どころ

八角塔と「五稜星」

建物の中央にそびえる八角塔は、赤れんが庁舎を象徴する最大の特徴です。ファサードや切妻部分をよく見ると、もうひとつ印象的な意匠が目に飛び込んできます。それが「五稜星(ごりょうせい)」 ― 北極星をかたどった開拓使のシンボルマークです。独立と進取の気風を表すこの赤い星は、建物の内外随所にあしらわれています。訪れた際にはぜひ星を探してみてください。

アメリカ風ネオ・バロック様式の建築

三連アーチの正面玄関、左右対称の整った構成、重厚な意匠 ― これらは明治の洋風建築としては珍しい「アメリカ風ネオ・バロック様式」によるものです。当時の日本ではイギリスやフランス由来の建築が一般的でしたが、開拓使がアメリカ人顧問ホーレス・ケプロンらを招いて北海道の近代化を進めた歴史と、この建築様式は深く結びついています。

明治の手吹きガラスと玄関ホール

館内に足を踏み入れると、窓ガラスの一部が今もわずかに歪んでいることに気づくかもしれません。これは明治時代に作られた手吹きガラスで、外の景色がやわらかく揺らいで見えるさまは、まるで時を遡ったかのような不思議な感覚を生み出します。赤い絨毯の敷かれた玄関ホールは、記念撮影に人気の場所です。

2025年リニューアル後の新しい展示

令和7年(2025年)7月のリニューアルにより、館内展示は全面的に刷新されました。地下1階は「学びと継承のフロア」、1階は「地域情報とにぎわいのフロア」、2階は「歴史と文化のフロア」として再構成され、見るだけでなく聴いて触れて楽しめる体験型展示が充実しています。「北海道」の名付け親・松浦武四郎が作成した26分割の北海道地図の原寸大レプリカや、明治期の札幌を再現した精緻なジオラマは特に必見です。別料金で「八角塔観覧」(1日4回・各回30分・最大7名)や「プレミアムガイドツアー」(1日4回・各回60分・最大15名)にも参加できます。

前庭と池のたたずまい

建物の前に広がる前庭は、芝生・池・四季の植栽が織りなす札幌市民憩いの場でもあります。池にはマガモやコイが泳ぎ、初夏にはチューリップが咲き、秋には周囲のイチョウ並木が黄金色に染まります。北3条通から建物を望む参道は、札幌でも屈指のフォトジェニックなアプローチとして知られています。

訪問のご案内

赤れんが庁舎は、令和元年(2019年)から続いた大規模改修を経て、令和7年(2025年)7月25日にリニューアルオープンしました。同年4月1日からは指定管理者である「北海道赤れんが未来機構」が管理運営を担っています。

開館時間は8時45分から21時まで(最終入館は20時30分)。前庭は朝7時から夜21時まで散策が可能です。年末年始(12月29日〜1月3日)および設備点検日は休館となります。入館料は一般300円、大学生・高校生200円、中学生以下は無料です。20名以上の団体は割引が適用されます。

有料体験として、「八角塔観覧」は1,200円(小学生以上)、「プレミアムガイドツアー」は大人500円・小学生〜大学生250円で参加できます。1階にはISHIYAの「白い恋人 Akarenga sweets labo」、レストラン「HOUSE.H」、お土産店「赤れんがショップ」が出店し、入館料なしで楽しめる無料ゾーンもあります。営業時間や料金は変更の可能性がありますので、訪問前に公式ホームページで最新情報をご確認ください。

周辺のおすすめスポット

赤れんが庁舎は札幌都心の中心に位置しており、徒歩圏内に魅力的な観光スポットが数多くあります。

  • 札幌市時計台(旧札幌農学校演武場) ― 開拓使時代に建てられた重要文化財。徒歩数分の距離にあります。
  • 大通公園 ― 札幌のシンボル的な都市公園。2月には「さっぽろ雪まつり」のメイン会場となります。
  • JR札幌駅 ― 徒歩10分ほど北に位置し、ショッピング・グルメ・道内各地への玄関口となっています。
  • 札幌市北3条広場「アカプラ」 ― 江別産赤れんが約21万個を敷き詰めた歩行者専用空間。2014年にオープンしました。
  • 北海道大学 ― 札幌農学校の流れを汲む歴史あるキャンパス。クラーク博士「Boys, be ambitious!」の地として有名です。
  • 北菓楼 札幌本館 ― 歴史的建造物を活用した菓子店兼カフェ。スイーツとともに赤れんが庁舎の眺めを楽しめます。

Q&A

Q改修工事後、現在は見学できますか?
Aはい。令和元年から続いた大規模改修を経て、令和7年(2025年)7月25日にリニューアルオープンしました。内部展示・施設も全面的に刷新され、現在は毎日8時45分から21時まで(最終入館20時30分)見学可能です。
Q「跡」と「本庁舎」は何が違うのですか?
A国の史跡指定は、関連する二つの要素を一体として保存対象としています。「跡」とは、明治6年(1873年)に完成し明治12年(1879年)の火災で焼失した開拓使札幌本庁本庁舎の遺構で、昭和42年(1967年)に地中から発見された基礎杭跡や捨土台の一部です。「旧北海道庁本庁舎」とは、明治21年(1888年)に建てられ約80年間道政の中枢を担った赤れんが庁舎を指します。
Q建物に描かれた赤い星には、どのような意味があるのですか?
A「五稜星(ごりょうせい)」と呼ばれる、開拓使のシンボルマークです。北極星をかたどっており、独立と進取の気風、そして北の大地を切り拓く開拓使の指導的役割を象徴しています。建物の外観や内部のあちこちに配されているので、ぜひ探してみてください。
Q札幌駅からのアクセスを教えてください。
AJR札幌駅から南へ徒歩約8〜10分です。札幌市営地下鉄南北線「さっぽろ駅」または「大通駅」からも徒歩5〜10分でアクセスできます。所在地は札幌市中央区北3条西6丁目1番地です。
Q八角塔観覧は別料金ですか?
Aはい、八角塔観覧は通常入館料とは別に1,200円(小学生以上)が必要です。1日4回・各回所要約30分・最大7名の少人数制で、赤れんが庁舎のシンボルである八角塔に登って札幌の街並みを眺めることができる貴重な体験です。建築や歴史に関心のある方には特におすすめで、事前予約が推奨されます。

基本情報

名称 開拓使札幌本庁本庁舎跡および旧北海道庁本庁舎(かいたくしさっぽろほんちょうほんちょうしゃあとおよびきゅうほっかいどうちょうほんちょうしゃ)
指定区分 国指定史跡(昭和42年12月15日指定)。旧北海道庁本庁舎の建物自体は、昭和44年(1969年)3月12日に国の重要文化財として別途指定。
所在地 北海道札幌市中央区北3条西6丁目1番地
設計 平井晴二郎(旧北海道庁本庁舎の設計の中心を担当)
竣工 旧北海道庁本庁舎:明治21年(1888年)12月14日/開拓使札幌本庁本庁舎(焼失):明治6年(1873年)10月29日
構造 煉瓦造、半地下1階・地上2階建て、屋上に八角塔。外壁に約250万個の煉瓦を使用
建築様式 アメリカ風ネオ・バロック様式
開館時間 8:45〜21:00(最終入館20:30)/前庭は7:00〜21:00
入館料 一般300円、大学生・高校生200円、中学生以下無料
休館日 年末年始(12月29日〜1月3日)、設備点検日
アクセス JR札幌駅から徒歩約8〜10分/札幌市営地下鉄「さっぽろ駅」「大通駅」から徒歩約5〜10分

参考文献

文化遺産オンライン「開拓使札幌本庁本庁舎跡および旧北海道庁本庁舎」
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/189962
文化庁 国指定文化財等データベース
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/401/41
北海道庁 史跡「開拓使札幌本庁本庁舎跡および旧北海道庁本庁舎」保存活用計画
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/sm/zsk/fm/akarengarenewal/shisekikatyou.html
北海道庁旧本庁舎(赤れんが庁舎)改修事業ポータルサイト
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/sm/zsk/fm/akarengarenewal/top.html
札幌市公式観光サイト「ようこそさっぽろ」北海道庁旧本庁舎
https://www.sapporo.travel/spot/facility/former_hokkaido_government_office/
北海道公式観光サイト HOKKAIDO LOVE!
https://www.visit-hokkaido.jp/spot/detail_11185.html
Wikipedia「北海道庁旧本庁舎」
https://ja.wikipedia.org/wiki/北海道庁旧本庁舎

最終更新日: 2026.05.14