茶すり山古墳:近畿地方最大の円墳が伝えるヤマト王権の世界

兵庫県北部、但馬の静かな山あいに、まるで緑の冠のように鮮やかな曲線を描く古墳があります。それが、5世紀前葉に築かれた「茶すり山古墳(ちゃすりやまこふん)」です。直径約90メートル、高さ約18メートル。円墳としては近畿地方で最大、全国でも第4位の規模を誇り、2004年(平成16年)に国の史跡に指定されました。豊富な副葬品の出土によって、ここに葬られた人物がヤマト王権と強く結びついた但馬の首長であったことが明らかにされ、古代日本の中央と地方の関係を語る上で欠かせない遺跡となっています。竹田城跡からほど近く、観光地の喧騒を離れて訪れる旅人に、悠久の歴史を体感させてくれる特別な場所です。

茶すり山古墳とはどのような遺跡か

茶すり山古墳は、兵庫県朝来市和田山町筒江に所在する古墳時代中期前葉の大型円墳です。和田山盆地と山東盆地のほぼ中間、両盆地をつなぐ宝珠峠の西側、標高約144メートルの尾根の先端を削り出して築造されました。墳丘の長径は約90メートル、短径は約78メートル、高さは18メートル。二段築成で、墳頂には東西約36メートル、南北約30メートルの楕円形の広い平坦面が設けられています。

墳頂平坦面の周縁とテラス(段築平坦面)には、円筒埴輪と朝顔形埴輪が列状に並べられ、墳頂部からは入母屋造の家形埴輪なども確認されています。斜面には葺石が施されていましたが、その多くは長い年月の中で流出しました。なお、16世紀には墳丘上に城砦が築かれた時期もあり、葺石や埴輪のさらなる失われた要因のひとつとなっています。

高速道路のルートを変更した「奇跡の保存」

茶すり山古墳が現在の姿で残されているのは、ある意味で「歴史的な決断」の産物です。2001年(平成13年)、兵庫県教育委員会は北近畿豊岡自動車道の建設予定地として発掘調査を開始しました。ところが、調査が進むにつれ、想像をはるかに超える規模と内容を持つ古墳であることが判明します。関係機関での協議の結果、道路計画そのものを変更し、古墳を現状のまま保存する方針が選ばれました。

2000年から2002年にかけて行われた発掘調査では、墳頂平坦面に2基の埋葬施設が検出されました。中央南寄りに位置する第1主体部は、東西13.7メートル・南北10.5メートルの墓坑の中央に、長さ8.7メートルの組合式箱形木棺が埋設されていました。棺内は粘土を敷いた棺床の上に小礫を敷き詰めた遺体埋葬部と、粘土敷きのままの副葬品埋納部とに区分されています。第1主体部の北側にある第2主体部では、長さ4.8メートルの木棺痕跡が確認されました。いずれの埋葬施設も未盗掘で、約1,500年の時を超えて副葬品が当時の状態で残っていたことは、古墳研究において極めて稀有な好機となりました。

国史跡に指定された理由と歴史的価値

茶すり山古墳は、墳丘の規模、埋葬施設の良好な遺存状況、副葬品の質と量のいずれにおいても極めて重要な内容を持つことから、2004年(平成16年)2月27日に国の史跡に指定されました。さらに2013年(平成25年)6月19日には、出土品664点が一括して国の重要文化財に指定されています。

2基の主体部から出土した副葬品を合わせると、青銅鏡4面、勾玉や管玉などの玉類2,000点以上、甲冑2組と盾7点、鉄刀・鉄剣・鉄矛など武器類85点、鉄鏃400点、刀子・斧・鎌などの農工具類80点余りに達します。中でも注目されるのは、第1主体部から出土した三角板革綴襟付短甲です。これは畿内地域以外で初めての出土例で、古墳時代の防具研究において画期的な発見となりました。あわせて長方板革綴短甲、三角板革綴衝角付冑、竪矧板鋲留衝角付冑などの甲冑類も出土しており、被葬者の武人的性格を強く示しています。

畿内地域を中心に分布する鉄柄付手斧や、朝鮮半島系の遺物である素環頭大刀の出土は、この地域の首長が中央政権(ヤマト王権)と深く結びつき、さらに東アジアの広域ネットワークの中に位置していたことを物語っています。墳丘の構築方法には但馬地方の地域色が認められる一方、副葬品には畿内的要素が色濃く反映されており、5世紀前葉における中央と地方の複雑な関係を理解するうえで、茶すり山古墳は欠かすことのできない手がかりを提供しているのです。

見どころ:芝生に覆われた美しい墳丘

現在、茶すり山古墳は「史跡 茶すり山古墳公園」として整備され、誰でも自由に訪れることができます。墳丘の西麓から一直線に階段が伸び、登りきると東西36メートル・南北30メートルの広大な墳頂平坦面に立つことができます。整えられた芝生が一面を覆い、築造当時に近い姿に復元された美しい円墳の輪郭は、遠くからでもひときわ目を引きます。

墳頂からは西の和田山盆地を一望でき、晴れた日には遠く「天空の城」として名高い竹田城跡を望むことも可能です。1,500年の時を隔てた古墳と中世山城が同じ視界の中に収まる光景は、この地が但馬の交通と軍事の要衝として長く機能してきたことを実感させてくれます。

古墳の入口には茶すり山古墳学習館が併設されており、無料で入館できます。映像とパネル展示で古墳の概要や発掘の経緯を学ぶことができ、パンフレットも備えられているので、見学前に立ち寄るのがおすすめです。館内にはトイレも設置されています。

周辺観光:但馬の歴史を巡る旅

朝来市は古代から中世、近世にかけての歴史遺産が密集した地域です。和田山盆地・山東盆地一帯には大小1,400基の古墳が築かれており、茶すり山古墳のほかにも、日本海側最大級の前方後円墳である池田古墳(全長約141メートル)、城ノ山古墳、若水A11号墳など、首長墓と目される重要な古墳が連なっています。

茶すり山古墳から約850メートルの位置にある朝来市埋蔵文化財センター「古代あさご館」では、茶すり山古墳から出土した実物の副葬品を間近で見ることができます。三角板革綴衝角付冑をはじめとする甲冑、刀剣、鏡、玉類が展示されており、墳丘見学とあわせて訪れることで、茶すり山古墳の全体像をより深く理解できます。

朝来市を代表する観光地としては、雲海に浮かぶ「天空の城」竹田城跡が世界的に知られています。さらに、平安時代に開坑したと伝わる生野銀山、立雲峡や糸井渓谷などの自然景観、但馬国一宮の粟鹿神社など、歴史と自然をあわせて楽しめる目的地が車で30分圏内に点在しています。

アクセスと見学情報

茶すり山古墳は、北近畿豊岡自動車道に沿った位置にあり、古墳脇には2台ほど駐車できる小さな駐車スペースがあります。多くの来訪者は、近接する道の駅「但馬のまほろば」に駐車し、徒歩で古墳公園を訪れています。道の駅には広い駐車場、トイレ、売店、レストランが整備されており、敷地内には古代あさご館も併設されているため、見学拠点として最適です。

車でのアクセスは、北近畿豊岡自動車道の養父ICまたは和田山ICから約10分。鉄道を利用する場合は、JR山陰本線・播但線の和田山駅または八鹿駅が最寄りとなり、駅からはタクシーまたはレンタカーの利用が便利です。墳丘登坂用の階段がありますので、歩きやすい靴での訪問をおすすめします。

Q&A

Q茶すり山古墳の見学に料金はかかりますか?
Aいいえ。史跡公園、隣接する茶すり山古墳学習館ともに無料で見学できます。
Q見学にどれくらい時間を見ておけばよいですか?
A古墳と学習館だけであれば45分から1時間程度です。出土品の実物を展示している古代あさご館も訪れる場合は、さらに45分から1時間ほどお考えください。
Q埋葬施設や副葬品の実物を現地で見ることはできますか?
A埋葬施設は復元墳丘の下に保護されており、現地での見学はできません。出土した甲冑、刀剣、鏡、玉類などの実物は、近くの古代あさご館で展示されています。
Qいつ頃の訪問がおすすめですか?
A気候の穏やかな春と秋が特におすすめです。早朝の訪問は墳丘の美しさが際立ち、秋には竹田城の雲海と組み合わせた一日プランが人気です。
Qどのような人物が葬られていたのでしょうか?
A被葬者の名前は伝わっていませんが、墳丘の規模と豊富な武器・武具、舶来品などから、但馬地方を治めヤマト王権と強く結びついた有力な首長であったと考えられています。

基本情報

名称 茶すり山古墳(ちゃすりやまこふん)
指定 国指定史跡(2004年〈平成16年〉2月27日指定)/出土品は国指定重要文化財(2013年〈平成25年〉6月19日指定)
所在地 兵庫県朝来市和田山町筒江
時代 古墳時代中期前葉(5世紀前葉)
形状 大型円墳、二段築成
規模 長径約90メートル × 短径約78メートル、高さ約18メートル
埋葬施設 2基(第1主体部:長さ8.7メートルの木棺/第2主体部:長さ4.8メートルの木棺痕跡)
発掘調査 2000年〜2002年(兵庫県教育委員会)
関連施設 史跡 茶すり山古墳公園/茶すり山古墳学習館(入館無料)
関連博物館 朝来市埋蔵文化財センター「古代あさご館」

参考文献

茶すり山古墳 - 文化遺産オンライン(文化庁)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/140224
兵庫県茶すり山古墳出土品 - 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/292449
近畿最大級の円墳 茶すり山古墳 - 朝来市公式ホームページ
https://www.city.asago.hyogo.jp/site/kyoiku/1163.html
茶すり山古墳 - 朝来市観光協会
https://asago-kanko.com/spot/9642
茶すり山古墳 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/茶すり山古墳

最終更新日: 2026.05.06