江埼灯台 ― 明石海峡に立ち続ける日本最古級の洋式灯台

淡路島の最北端、明石海峡を見下ろす海抜44.5メートルの高台に、どっしりとした石造りの灯台が立っています。江埼灯台(えさきとうだい)は、明治4年(1871年)に点灯した、日本でも最初期の洋式灯台のひとつです。現存する洋式灯台としては国内で3番目に古く、150年以上にわたって明石海峡を行き交う船舶を見守り続けてきました。平成7年の阪神・淡路大震災ではほぼ直下が震源地となりながらも倒壊を免れ、震災の痕跡を残しながら今も現役で光を発しています。令和4年(2022年)には国の重要文化財に指定され、近代日本の幕開けと、自然の猛威を伝える貴重な建造物として注目されています。

国際条約から生まれた灯台

江埼灯台の物語は、幕末の国際交渉の場から始まります。慶応3年(1867年)、兵庫(現在の神戸)開港を目前に控えた徳川幕府は、イギリス公使との間で「大坂約定(大坂条約)」を締結し、外国船の安全航行を確保するため、江埼・六連島・部埼・友ヶ島・和田岬の5か所に洋式灯台を建設することを約束しました。江埼灯台は、そのうち最初に完成した一基です。

当時の日本には洋式灯台を建設する技術者がいなかったため、明治政府はイギリス人技師リチャード・ヘンリー・ブラントンを招きました。ブラントンは在任7年6か月の間に全国で26基の灯台を設計・指導し、のちに「日本の灯台の父」と呼ばれるようになります。江埼灯台は、国内で建設された洋式灯台としては8番目にあたり、明治4年4月27日に初点灯を迎えました。以来、一度も光を絶やすことなく、現役の航路標識として稼働を続けています。

なぜ重要文化財に指定されたのか

江埼灯台は、令和4年2月9日付の官報告示によって、国の重要文化財(建造物)に指定されました。指定にあたっては、他に代えがたい複数の歴史的価値が評価されました。

第一に、国内に現存する洋式灯台のなかで3番目に古い建造物であるという点です。明治3年竣工の樫野埼灯台、明治4年2月竣工の神子元島灯台に続いて建てられた江埼灯台は、明治初期に日本が海路の近代化へ邁進した歩みを、今に伝える貴重な証人といえます。

第二に、工学史上の価値です。光学機器と関連設備の設計は、イギリスの著名な灯台技術者一族が経営するスティブンソン社が手がけました。同社は、地震の多い日本の灯台のために、当時としては先駆的な免震装置を考案しており、江埼灯台はその装置の貴重な現存例として評価されています。

また、淡路市にとっては、昭和15年に美術工芸品として指定された東山寺の木造薬師如来立像および木造十二神将立像以来、81年ぶり3件目の重要文化財指定であり、建造物としては淡路島内で初めての指定となりました。附として、灯台構内に置かれた旧日時計も指定対象に含まれています。

見どころ

背の低い独特のフォルム

江埼灯台の姿は、多くの人が想像する細長い灯台とは大きく異なります。塔の高さはおよそ8メートルと低く、ずんぐりとした独特のフォルムが特徴です。これは、灯台が標高44.5メートルの高台に立っているためで、海面から灯火までの高さ(灯火標高)は約48.5メートル。光はおよそ34キロメートル沖合まで届きます。塔体には、瀬戸内海に浮かぶ家島産(現在の姫路市)の御影石が用いられ、150年以上の風雨にも揺るがぬ重厚な佇まいを見せています。

明石海峡大橋を望む絶景

灯台前から眺める明石海峡の景色は、訪れる人を飽きさせません。1日に約1,400隻もの船舶が通過する海の大動脈を、間近に一望できます。東には全長3,911メートルを誇る世界最長級の吊橋・明石海峡大橋が優美な姿を見せ、西には播磨灘に浮かぶ家島諸島や小豆島が水平線上に霞みます。さらに江埼灯台は、年間を通して播磨灘に沈む夕陽を楽しめる、知る人ぞ知るサンセットスポットでもあります。

阪神・淡路大震災の痕跡

平成7年(1995年)1月17日、江埼灯台のほぼ直下で野島断層が動き、阪神・淡路大震災が発生しました。この地震により、灯塔付属舎の石積みはズレ、灯台構内の地盤には地割れや陥没、スベリ(水平移動)が生じました。それでも本体の灯塔は倒壊せず、建設当初の姿をほぼ留めたまま残りました。

修復にあたっては、震災の記憶を後世に伝えるため、ズレた石積みをそのまま残し、目地モルタルを詰め替えて補強するという方針が採られました。また、灯台へと続く石段に走る野島断層の地割れは、カラーコンクリート(ピンク色)で舗装して、出現した位置と形をできる限り残しています。建築遺産と震災遺産がひとつの場所で重なり合う、全国的にも珍しい現場です。

旧日時計と灯台守のくらし

重要文化財の指定には、灯台構内に残る旧日時計も「件附(くだんつき)」として含まれました。建設当初、江埼灯台ではイギリス人技師が灯台守を務めたとされ、構内には彼らの暮らしを支える宿舎や設備が整えられていました。日時計は、そうした初期の灯台運用を偲ばせる小さな証人です。当時の灯台守の宿舎「旧退息所」は、現在、香川県高松市の野外博物館「四国村(四国民家博物館)」に移築保存され、国の登録有形文化財となっています。

見学情報

江埼灯台へは、淡路島北部の県道沿いにある「緑の道しるべ 江崎公園」から、石造りの階段を上ってアクセスします。公園には無料駐車場とベンチ、トイレが整備されており、サイクリストやドライバーの休憩スポットとして親しまれています。

現役の灯台として海上保安庁が管理しているため、内部は通常公開されていません。見学は灯台外側のみとなります。例年11月1日の「灯台記念日」に合わせて内部の一般公開が行われていた時期もありましたが、近年は実施状況が変動しているため、訪問前に最新情報をご確認ください。

公園から灯台へ続く階段の一部は震災の痕跡を残した状態で保存されており、段差が一定でない箇所もあります。足元にお気をつけて上り下りください。

周辺のみどころ

江埼灯台とあわせて訪れたい周辺スポットも、この地の歴史と自然を深く知る手がかりとなります。

灯台から南へ約10キロ、北淡震災記念公園では、野島断層の一部(約140メートル)が地表に現れたままの姿で保存公開されています。国の天然記念物に指定された断層そのものに加え、被災したメモリアルハウスや地震体験装置もあり、江埼で見た震災の痕跡の意味をより深く理解できます。

東へ少し車を走らせれば、本州と淡路を結ぶ玄関口・岩屋港があり、新鮮な海の幸と明石海峡大橋の眺望を楽しめます。淡路島西海岸には、洗練されたカフェやレストラン、リゾート施設「淡路島西海岸」エリアが広がり、一日かけて島を巡る拠点として最適です。また、江埼灯台の旧退息所が移築されている香川県高松市の「四国村(四国民家博物館)」も、建築遺産ファンには見逃せないスポットです。

Q&A

Q江埼灯台の中に入って見学できますか?
A海上保安庁が管理する現役の灯台のため、内部は通常公開されておらず、見学は外側からのみとなります。例年11月1日の「灯台記念日」に合わせた内部一般公開が行われる年もありますが、実施状況は年によって異なりますので、訪問前に最新情報をご確認ください。
Q車や公共交通でどのようにアクセスできますか?
Aお車の場合は、神戸淡路鳴門自動車道の明石海峡大橋を渡り、淡路ICから海岸沿いを約15分走行して「緑の道しるべ 江崎公園」にお越しください。駐車場は無料です。公共交通機関は路線が限られているため、レンタカーの利用や、淡路島内を巡るバスツアーなどもおすすめです。
Q入場料はかかりますか?
A公園や灯台周辺の外側からの見学は無料で、いつでも自由に訪れることができます。
Qどうしてこんなに背の低い灯台なのですか?
A塔の高さは約8メートルと、有名な灯台のなかでもかなり低い部類に入ります。これは、灯台が標高44.5メートルの高台に立っているためで、低い塔でも十分に遠くまで光を届けることができるからです。この独特のフォルムは、江埼灯台の親しみやすい個性にもなっています。
Q灯台へと続く階段に何か特徴はありますか?
A石造りの階段の下には、阪神・淡路大震災の震源断層である野島断層が走っており、震災で生じた地割れがそのまま保存されています。ピンク色のカラーコンクリートで断層の位置と形が分かるように舗装されており、歩きながら地震の凄まじさを実感できる、全国的にも珍しい場所です。

基本情報

名称 江埼灯台(えさきとうだい)
所在地 兵庫県淡路市野島江崎字小磯17番
設計 リチャード・ヘンリー・ブラントン(光学機器:英国スティブンソン社)
竣工・初点灯 明治4年(1871年)4月27日
構造 金属製・石造/建築面積 69.31㎡/塔高 約8m/灯火標高 約48.5m
材料 家島産(兵庫県姫路市)の御影石
文化財指定 国指定重要文化財(令和4年2月9日指定)/Aランク保存灯台/近代化産業遺産
所有者 国(海上保安庁)
アクセス 神戸淡路鳴門自動車道「淡路IC」より車で約15分
見学料 無料(外部からの見学のみ/内部は通常非公開)

参考文献

江埼灯台 ― 文化庁 近代の文化遺産の保存と活用
https://www.bunka.go.jp/kindai/todai/011/index.html
江埼灯台 ― 文化遺産オンライン(文化庁)
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/547861
江埼灯台が国の重要文化財(建造物)に指定されました! ― 淡路市ホームページ
https://www.city.awaji.lg.jp/soshiki/shakai/35998.html
江埼灯台 ― 公益社団法人 燈光会
https://www.tokokai.org/history/history02/
江埼灯台のまち兵庫県淡路市 ― 海と灯台プロジェクト
https://toudai.uminohi.jp/toudai/esaki/
明石海峡大橋の絶景も!淡路島の最北端近くに立つ歴史的灯台/江埼灯台 ― 瀬戸内Finder
https://setouchifinder.com/ja/detail/27074
北淡震災記念公園 ― 淡路島西海岸(PASONA)
https://awajishima-resort.com/learn/shinsaikinekouen/

最終更新日: 2026.04.22