客のためだけに建てられた25平方メートルの湯殿

旧来住家住宅客湯殿(きゅうきしけじゅうたくきゃくゆどの)は、兵庫県西脇市西脇394-1に建つ木造平屋建の浴室棟で、大正7年(1918年)に建てられ、平成14年(2002年)2月14日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。登録番号は28-0094、建築面積は25平方メートル、瓦葺。所有者は西脇市である。

25平方メートル。ワンルームマンションより小さいこの建物が、主屋や離れとは別に、単独で国の登録有形文化財になっている。

理由は用途にある。銀行家・来住梅吉は自邸に風呂をもう一つ足したのではない。客専用の浴室棟を独立して建てた。位置は主屋の西北方、離れの北方。渡廊下によって主屋と離れの双方につながっており、離れに泊まった客は外へ出ることも家族の生活空間を横切ることもなく湯殿へ往復できた。

南から四室、そして仕上げの材料

棟は南北方向、入母屋造の桟瓦葺。文化庁の解説は南側から順に、化粧室、湯殿、便所及び手洗と室の並びを記す。四つの機能が一列に並ぶ、十歩ほどで端まで歩ける細長い建物である。

つくりは数寄屋風。茶の湯の建築が育てた、細い部材と抑制を旨とする流儀である。その抑制に対して、十六世紀の茶人が手にしたことのない材料が組み合わされている。湯殿の腰と床にはタイル。洗面台の台板は大理石。手洗は人造石仕上げ。人造石はセメント系の材料を研ぎ出して磨いたもので、水がかりの床や流しに明治以降広く使われるようになった。

この混成が本件の核心だといってよい。大正7年、資力のある施主なら浴室を全面的に洋風にすることもできたし、実際そうした例は多い。来住家は木の軸組と数寄屋の寸法感覚を保ったまま、水が木を傷める箇所にだけ工業化時代の材料を差し込んだ。折衷というより、両方の作法を承知した上での選択である。

西脇市の紹介には、探して見たい細部が二つ記されている。湯船は高野槙(こうやまき)。樹脂分に富んで腐りにくく、湯を張ると清らかな香りが立つことから、日本では最上の風呂材とされてきた材である。もう一つは天井で、折り上げ格天井が架かる。中央の格間を周囲より一段高く持ち上げるこの形式は、本来は仏堂や格式ある座敷のものだ。それを浴室の上に架けるという判断に、この家が客をどう遇そうとしたかが表れている。

迎えられた客と、いま訪ねる人へ

西脇市の解説には、この邸に朝香宮殿下や犬養毅が滞在したと記されている。文化庁のデータベースには記載がなく、市の資料に基づく伝えである。ただし、自邸の完成に先んじて客用の座敷と湯殿を整えた家であることを思えば、不自然な話ではない。

公開は無料。開館は午前10時から午後6時まで、10月から3月は午後5時までとなる。休館日は月曜日(月曜が祝日の場合は翌日)と、12月29日から1月3日まで。受付のボランティアスタッフが無料で案内してくれる。客湯殿は見どころが仕上げの材料そのものであり、目立つ仕掛けがあるわけではないので、案内を頼んでおくと理解が深まる。

ただし、客湯殿の内部が主屋と同じ条件で公開されているのか、撮影が可能かどうかは公表されていない。到着時に受付で尋ねるか、事前に電話(0795-22-5549)で確認するのが確実である。

交通はJR加古川線・西脇市駅から約1.5キロ、徒歩でおよそ20分。路線バス・コミュニティバスなら10分足らずで着く。駐車場はあり、大型バスは事前相談が必要。敷地内には播州織製品を扱う「西脇情報未来館21」、蔵と主屋の一部を使ったギャラリー、日替わりシェフ制のコミュニティレストランがある。

Q&A

Q旧来住家住宅客湯殿とはどのような建物ですか。
A大正7年(1918年)に来住家が客のために建てた独立の浴室棟です。建築面積25平方メートルで、南から化粧室・湯殿・便所・手洗が一列に並びます。渡廊下で主屋と離れの両方につながっています。
Q旧来住家住宅客湯殿はなぜ文化財に登録されたのですか。
A平成14年(2002年)に「再現することが容易でないもの」という基準で登録されました。数寄屋風の造りに、タイル張りの腰と床、大理石の洗面台板、人造石仕上げの手洗といった近代の材料を組み合わせた点が特徴です。
Q旧来住家住宅客湯殿の湯船は何の材でできていますか。
A西脇市の紹介では高野槙とされています。腐りにくく、湯を張ると香りが立つため、古くから最上の風呂材として扱われてきました。天井には折り上げ格天井が架かります。
Q旧来住家住宅客湯殿の内部は見学できますか。撮影はできますか。
A敷地の入館は無料で、ボランティアによる案内もあります。ただし客湯殿内部の公開範囲や撮影の可否は公表されていないため、受付または電話0795-22-5549で確認してください。
Q旧来住家住宅にはどのような人物が滞在したのですか。
A西脇市の解説では、朝香宮殿下や犬養毅が滞在したと記されています。文化庁のデータベースには記載がなく、市の資料に基づく伝えです。

基本情報

名称旧来住家住宅客湯殿(きゅうきしけじゅうたくきゃくゆどの)
所在地兵庫県西脇市西脇394-1
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 28-0094
指定年登録年月日 平成14年(2002年)2月14日/登録告示 同年3月12日
員数1棟
寸法木造平屋建、瓦葺、建築面積25平方メートル。大正7年(1918年)建築
所有者西脇市
公開状況午前10時~午後6時(10月~3月は午後5時まで)/月曜・年末年始休館/入館無料。客湯殿内部の公開範囲は現地で要確認

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁) 旧来住家住宅客湯殿
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00002675
文化遺産オンライン 旧来住家住宅客湯殿
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/149285
西脇市 旧来住家住宅(観光資源・観光施設)
https://www.city.nishiwaki.lg.jp/kankotokusan/nishiwakikitaharimanokanko/kankou_shigen/1359418680509.html
西脇市 旧来住家住宅(きゅうきしけじゅうたく)
https://www.city.nishiwaki.lg.jp/kakukanogoannai/kyouikuiinkai/kyouikukanribu/syougaigakusyuka/syougaigakusyuu/kishi/1356660051070.html
西脇市観光物産協会 旧来住家住宅
https://www.nishiwaki-kanko.jp/guide/sightseeing/kyukishikejutaku.html

最終更新日: 2026.08.26