神戸旧居留地に残る唯一の西洋商館:旧神戸居留地十五番館

神戸の都心部に建ち並ぶ近代的なオフィスビルの中に、ひときわ異彩を放つ白壁の洋館があります。旧神戸居留地十五番館は、1880年頃に建てられた木骨煉瓦造の二階建て建築で、かつて126区画もの西洋建築が軒を連ねた神戸旧居留地において、居留地時代(1868年〜1899年)から現存する唯一の建造物です。コロニアル様式の優美なベランダと柱頭飾りのある列柱が印象的なこの建物は、1989年に国の重要文化財に指定され、日本が世界に門戸を開いた激動の時代を今に伝えています。

歴史的背景:居留地の誕生から文化財指定まで

旧神戸居留地十五番館の歴史は、神戸港開港の歴史と深く結びついています。慶応3年(1867年)に兵庫(神戸)居留地の設立が決定され、造成工事が始まりました。翌明治元年(1868年)に行われた第一回の競売で、「十五番」の土地はフランス人が落札し、ホテルが建てられました。

現在の建物が建てられたのは明治13年(1880年)頃と推定されています。明治14年(1881年)からおよそ10年間はアメリカ合衆国領事館として使用され、その後はいくつかの企業が入れ替わりました。昭和41年(1966年)に建材メーカーの株式会社ノザワが江商(後の兼松江商)から土地と建物を譲り受け、本社事務所として大切に使用してきました。当時の社長がこの建物をたいへん気に入り、建築研究者からも重要性が指摘されていたこの建物を、企業として責任を持って保存してきたのです。

平成元年(1989年)5月19日、旧神戸居留地に現存する唯一の商館遺構としての歴史的価値が認められ、国の重要文化財に指定されました。翌年から保存修理工事が開始され、完了後は文化財の活用を目的としてレストランとして開業しました。

阪神・淡路大震災からの復活

平成7年(1995年)1月17日、阪神・淡路大震災が神戸を襲い、十五番館は全壊しました。居留地時代から残された唯一の洋風建築の倒壊は、神戸の歴史的景観の崩壊を象徴するものとして、各種メディアで大きく報道されました。

しかし、この物語はここで終わりませんでした。国・県・市からの補助を受けて復旧工事が開始され、倒壊前の部材の約70%が回収・再利用されました。さらに、日本の文化財としても木造建築としても初めてとなる免震工法が採用されました。建物の下に設置された鉛プラグ入り積層ゴム(LRB)により、地震エネルギーが約3分の1に低減される仕組みです。

また、元々煉瓦積みだった2本の煙突は鉄骨鉄筋コンクリート造に変更して柱として機能させ、天井裏で木造軸部と鉄骨で結ぶなど、伝統的な外観を守りながら最新の耐震技術を融合させた復旧が実現しました。平成10年(1998年)3月に復旧工事が完了し、建設当初の姿に蘇りました。震災後の復旧では、かつて室内に取り込まれていた2階のベランダも、本来の開放的な姿に復元されています。

重要文化財に指定された理由

旧神戸居留地十五番館が重要文化財に指定された最大の理由は、神戸旧居留地に現存する唯一の商館遺構であるという点にあります。かつて126区画の西洋建築が並んでいた居留地において、居留地時代の建物として残っているのはこの一棟だけです。日本の近代化の原点ともいえる開港場の姿を伝える、かけがえのない歴史的証人なのです。

建築的にも、全般的に保存状況が良好で、ベランダ、中廊下や階段廻りの細部意匠に優れた見どころがあると評価されています。コロニアル様式の特徴を備えた本建築は、幕末・明治初期の東アジアにおける外国人居留地建築の典型例としても貴重です。

また、建物西側には隣接する「居留地十六番」との境界を示す煉瓦塀と境界石柱(「16・15」と刻まれている)が残っており、重要文化財の附(つけたり)として合わせて指定されています。

建築の見どころ

十五番館は木骨煉瓦造(もっこつれんがづくり)の二階建てで、屋根は寄棟造・桟瓦葺、建築面積は約175.4平方メートルです。

外観はコロニアル様式で、かつて海に面していた南面の2階には開放的なベランダが設けられ、柱頭飾りのある列柱が並びます。屋根上の左右両端には三角形のペディメント(破風)が配され、建物に格式ある正面性を与えています。外壁は柱の間に煉瓦を積んだ下地にモルタルを塗り、縦横に目地をつけて石造風の意匠としています。この手法により、木骨煉瓦造でありながら重厚な石造建築の風格を醸し出しているのが特徴です。

内部では、1階の廊下にイオニア式の円柱とアーチを組み合わせたセルリアーナ(Serliana)のモチーフが見られます。東側にはアーチ形の入口があり、階段廻りの装飾にも当時の職人の技が光ります。

建物東側の歩道には、日本最古の近代下水道である「旧神戸居留地煉瓦造下水道」(工事期間1868年~1872年)の遺構が展示されており、こちらは国の登録有形文化財に指定されています。神戸付近で焼かれた煉瓦を用いたアーチ型の構造は、開港当時のインフラ整備を物語る貴重な遺産です。

訪問情報

現在、十五番館の建物内では「Salon 15 TOOTH TOOTH 旧神戸居留地十五番館」が2024年6月にリニューアルオープンし、パティスリー&ティーブティックとして営業しています。紅茶と洋菓子のマリアージュやアフタヌーンティー、ガストロノミーなパスタやメインディッシュなどの神戸キュイジーヌを、明治期の洋館の趣ある空間で楽しむことができます。2階のバルコニーでは居留地の街並みを眺めながらの食事も可能です。

建物は日没から23時までライトアップされ、夜の旧居留地散策でもその美しい姿を楽しめます。外観の見学は自由にできますので、建築ファンの方はぜひ周囲をゆっくりと歩いてその意匠を堪能してください。

周辺情報

十五番館は神戸旧居留地の中心に位置しており、周辺には見応えのある近代建築が数多く残っています。向かいの神戸市立博物館は旧横浜正金銀行神戸支店の建物を活用した国登録有形文化財で、1階の常設展示室(観覧無料)では居留地の歴史をジオラマで学ぶことができます。

旧居留地38番館はヴォーリズ建築事務所の設計によるアメリカン・ルネサンス様式の建物で、現在は大丸神戸店の店舗として利用されています。チャータードビル、神戸商船三井ビル、神港ビルなども見逃せない近代建築です。西へ足を延ばせば南京町(神戸中華街)があり、南へ向かえばメリケンパークや神戸ポートタワーも徒歩圏内です。

三宮駅の北側の山手には北野異人館街があり、十数棟の西洋館が一般公開されています。旧居留地と北野異人館街を合わせて巡れば、港町神戸の国際的な歴史を存分に感じることができるでしょう。

Q&A

Q旧神戸居留地十五番館はなぜ重要なのですか?
A1880年頃に建てられ、約10年間アメリカ合衆国領事館として使用された建物で、神戸旧居留地に唯一現存する居留地時代の建築物です。1989年に国の重要文化財に指定されており、神戸市内に残る最も古い異人館でもあります。
Q阪神・淡路大震災の被害はどうだったのですか?
A1995年の震災で全壊しましたが、倒壊前の部材の約70%を回収して再利用し、日本の文化財として初めての免震工法を採用して1998年に復旧しました。地震エネルギーを約3分の1に低減する免震装置が建物を守っています。
Q建物の内部は見学できますか?
Aはい。現在は「Salon 15 TOOTH TOOTH 旧神戸居留地十五番館」として営業しており、パティスリーやアフタヌーンティー、レストランとして利用できます。明治期の洋館の雰囲気を楽しみながらお食事やお茶をいただけます。外観は自由に見学できます。
Q最寄り駅からのアクセスは?
AJR三ノ宮駅・阪急神戸三宮駅から徒歩約12分、神戸市営地下鉄海岸線「旧居留地・大丸前駅」から徒歩約5〜7分、JR・阪神元町駅から徒歩約7分です。神戸市立博物館のすぐ隣に位置しています。
Q建築的な見どころは何ですか?
A木骨煉瓦造の二階建てで、南面2階の開放的なベランダと柱頭飾りのある列柱、屋根上の2つのペディメント(破風)が特徴的なコロニアル様式です。内部にはイオニア式円柱とアーチによるセルリアーナのモチーフがあり、細部の装飾にも見応えがあります。東側歩道には日本最古の近代下水道の遺構(国登録有形文化財)も展示されています。

基本情報

名称 旧神戸居留地十五番館
指定 国指定重要文化財(1989年5月19日指定)
建築年 明治13年(1880年)頃
構造 木骨煉瓦造、二階建、寄棟造、桟瓦葺
建築面積 175.4 m²
附指定 境界煉瓦塀および石柱(煉瓦塀長さ 36.39m)
所有者 株式会社ノザワ
所在地 兵庫県神戸市中央区浪花町15番地
アクセス JR三ノ宮駅から徒歩約12分、地下鉄海岸線「旧居留地・大丸前駅」から徒歩約5〜7分
現在の利用 Salon 15 TOOTH TOOTH 旧神戸居留地十五番館(パティスリー&ティーブティック・レストラン)
ライトアップ 日没〜23:00

参考文献

旧神戸居留地十五番館 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/123257
旧神戸居留地十五番館 — 株式会社ノザワ
https://www.nozawa-kobe.co.jp/other/15ban.html
旧居留地十五番館 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/旧居留地十五番館
Salon 15 TOOTH TOOTH 旧神戸居留地十五番館 — TOOTH TOOTH
https://toothtooth.com/restaurant/maison-15th
フォトジェニックなレトロ建築がずらり!「神戸旧居留地」の近代建築をめぐる街歩きコース — Feel KOBE 神戸公式観光サイト
https://www.feel-kobe.jp/model_course/modelcourse_04/
大震災[震災と博物館] — 神戸市立博物館
https://www.kobecitymuseum.jp/about/950117/30

最終更新日: 2026.04.02