格子の奥に九つの座敷

旧森家住宅(浜坂先人記念館以命亭)主屋は、兵庫県美方郡新温泉町浜坂にある明治21年(1888年)建築の町家で、平成20年(2008年)に国の登録有形文化財となった。

建物は西を向いている。通りに面した前庭をはさんで玄関を開く構えで、木造2階建、切妻造桟瓦葺。北半部の棟は南側より一段低く据えられており、この段差は道の向かい側に立った瞬間に目に入る。正面は上下階とも格子。町家の表構えに独特の陰影を与える、あの縦の連なりである。

内部は商家の理屈で組まれている。南寄りに通り土間が奥まで貫き、人と荷はこの土間を通って動いた。土間の北側には座敷が3列3行、つまり九室が格子状に並び、その三方を縁がめぐる。文化庁の解説は「細部に繊細な意匠をみせる」と書く。実際、外観の質実さに対して、座敷まわりの造作は明らかに手が込んでいる。

明治40年(1907年)に増築の手が入った。登録上の建築面積は279平方メートルである。

七釜屋森家と「以命」の二字

森家は浜坂で屋号を「七釜屋」といった。庄屋を務め、村でいち早く質屋を営み、のちに造り酒屋にもなった。本町のこの屋敷は、その複数の顔が建築のかたちをとったものだと考えればよい。

「以命亭」という名は、もともと別の建物のものである。二代当主・森興右衛門が長子に家督を譲り、屋敷の裏、東側に隠居所を建てて、そこを以命亭と名づけた。新温泉町の説明によれば、この二字は『礼記』の「君子は易に居りて以て命を俟つ」から採られている。森家を継いだ当主たちは、それぞれが身につけた学問の側から「以命」を読み解いたと伝わる。同じ二字が、代ごとに違う意味を持ったということだろう。

町が屋敷を買い取って記念館に改めたとき、この名前も一緒に引き継がれた。改修工事は平成3年12月27日から平成4年6月30日まで、開館は平成4年(1992年)7月12日。敷地は約1,466平方メートルで、母屋のほかに土蔵2棟と酒蔵1棟が建つ。

登録が評価しているもの

登録は指定とは違う。重要文化財の指定は、国として最高水準の価値をもつと判断された少数の建物に限られ、現状変更に厳しい規制がかかる。一方の登録は平成8年(1996年)に始まった緩やかな制度で、おおむね築50年以上、その土地の歴史的な性格をかたちづくってきた建造物を対象とし、所有者が使い続ける余地を大きく残す。森家住宅の場合、この違いは決定的である。保存された抜け殻ではなく、現役の博物館として日々使われているからこそ、登録という枠組みが合っている。

主屋の登録は平成20年7月8日、告示は同月23日、登録番号は28-0368。屋敷内の乾蔵、北ノ蔵、酒蔵、石垣もそれぞれ別件として登録されている。建物群は平成17年度に、兵庫県の景観形成重要建造物の第1次指定をすでに受けていた。

登録の理由は、街路と並べて見ると納得がいく。浜坂は古い地割りをよく残している。屋敷の裏手を流れる味原川沿いには石垣と古い町並みが続き、森家の屋敷はその一角を留める錨のような位置にある。

記念館を訪ねる

この建物は町立の博物館として公開されており、登録有形文化財としては珍しく予約なしで入れる。開館は午前9時から午後5時まで、入館は午後4時30分まで。休館日は毎週木曜日で、木曜が祝祭日にあたる場合は翌日に振り替わる。年末年始は12月29日から1月3日まで閉まる。入館料は大人200円、小人100円。10名以上の団体は大人150円、小人70円となり、年間券は大人500円、小人300円である。

建物だけを見るなら30分ほど。展示に足を止めるならもう少しかかる。吹き抜けの酒蔵を転用した以命亭ホールでは各種の展示会が入れ替わりで開かれ、館内には郷土の先人を紹介するコーナーがある。登山家の加藤文太郎、歌人の前田純孝といった名前がそこに並ぶ。庭に目をやれば、梅の木のそばに俳人・森藍尾の句碑が立っているのが縁側から見える。

JR山陰本線の浜坂駅から徒歩約10分、距離にして500メートルほど。近くには加藤文太郎記念図書館がある。屋敷の裏から続く「あじわら小径」を抜けると味原川に出るので、見学を終えたらそちら側から帰るのがいい。館内撮影の可否は施設の判断によるため、受付で確認してから構えること。

Q&A

Q旧森家住宅(浜坂先人記念館以命亭)主屋は内部を見学できますか。開館時間は。
A見学できます。新温泉町立の「浜坂先人記念館以命亭」として公開されており、予約は不要です。開館は午前9時から午後5時まで(入館は午後4時30分まで)、休館日は毎週木曜日(祝祭日の場合は翌日)と12月29日から1月3日までです。
Q旧森家住宅(浜坂先人記念館以命亭)の入館料はいくらですか。
A大人200円、小人100円です。10名以上の団体は大人150円、小人70円になります。年間券もあり、大人500円、小人300円です。
Q旧森家住宅に付く「以命亭」という名前の由来は何ですか。
A森家二代当主・興右衛門が屋敷の東側に建てた隠居所の名です。新温泉町の説明では、『礼記』の「君子は易に居りて以て命を俟つ」から二字を採ったとされます。平成4年(1992年)の記念館開館にあたって、この名称が施設名に引き継がれました。
Q旧森家住宅(浜坂先人記念館以命亭)主屋へは浜坂駅からどう行きますか。
AJR山陰本線の浜坂駅から徒歩約10分、500メートルほどです。旧市街を抜ける道筋で、途中に加藤文太郎記念図書館があります。
Q旧森家住宅のうち、登録有形文化財になっているのはどの部分ですか。
A主屋、乾蔵、北ノ蔵、酒蔵、石垣の5件がそれぞれ登録されています。主屋の登録は平成20年(2008年)7月8日、登録番号は28-0368です。

基本データ

名称旧森家住宅(浜坂先人記念館以命亭)主屋
所在地兵庫県美方郡新温泉町浜坂字本町1208
指定区分登録有形文化財(建造物)/住宅・建築物/登録番号 28-0368
指定年平成20年(2008年)7月8日登録、同年7月23日告示
員数1棟
寸法木造2階建、瓦葺、建築面積279平方メートル。明治21年(1888年)建築、明治40年(1907年)増築
所有者新温泉町
公開状況博物館として公開。午前9時~午後5時(入館は午後4時30分まで)。休館は毎週木曜日(祝祭日の場合は翌日)と12月29日~1月3日。入館料は大人200円、小人100円。予約不要

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「旧森家住宅(浜坂先人記念館以命亭)主屋」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00007279
文化遺産オンライン「旧森家住宅(浜坂先人記念館以命亭)主屋」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/144541
新温泉町「浜坂先人記念館『以命亭』」
https://www.town.shinonsen.hyogo.jp/page/index.php?mode=detail&page_id=d3aee2a331855b8dbcedeaab423e22f5
新温泉町 文化財資料「旧森家住宅(浜坂先人記念館以命亭)」
https://www.town.shinonsen.hyogo.jp/page/b7363eaa80e4778a042bcb2b5e4542e5.html
浜坂観光協会「浜坂先人記念館 以命亭」
https://www.hamasaka.com/?page_id=1971

最終更新日: 2026.08.26