砂防堰堤が文化財になるということ

五助堰堤(ごすけえんてい、通称・五助ダム)は、兵庫県神戸市東灘区の住吉川上流に築かれた重力式コンクリート造の砂防堰堤で、平成26年(2014年)10月7日に国の登録有形文化財に登録された。住吉川本流に右岸から五助谷が合わさる、谷の狭まった地点に据えられている。

本堰堤は堤高30.0メートル、堤長78.0メートル、天端幅3.1メートル。翌昭和33年(1958年)3月に完成した副堰堤が堤高10.0メートル、堤長32.5メートルで下流側に控える。この二基を合わせて、六甲山系の砂防施設では最大規模になる。

登録は都賀川の杣谷堰堤と同時だった。近畿地方の国直轄砂防堰堤としては初めての有形文化財である。この組み合わせには意味がある。杣谷堰堤は昭和31年3月竣工の堤高16メートル、日本で最初のスリット型砂防堰堤で、平時の水と土砂は流し、土石流だけを受け止める構造をとる。五助堰堤はその反対、すべてを溜めきる不透過型の代表格にあたる。

昭和13年7月5日から始まった

その日、六甲山地に降った雨は各谷に土石流を起こし、麓の市街地を一挙に埋めた。阪神大水害である。神戸、芦屋、西宮の街路は泥と巨石の下に沈んだ。当時の惨状は谷崎潤一郎の『細雪』にも書き込まれ、住吉川沿いには流失した転石を用いた水害記念碑が今も立っている。

被害がここまで拡大した背景には地質がある。六甲山地は風化の進んだ花崗岩を主体とし、崩れやすい。しかも標高931メートルの山頂から海岸線までわずか7キロメートルほどしかない。水は一気に集まり、多くのものを連れて下る。

六甲山系の直轄砂防事業はこの水害を契機に始まった。住吉川流域だけでも、その後数十年のあいだに数十基の堰堤が築かれている。

五助堰堤の竣工は昭和32年(1957年)3月。ところが完成後の10年間、目立った土砂は貯まらなかった。地元では、来ない災害に備えた無用の構造物と見られていた時期がある。

昭和42年(1967年)7月の豪雨が、その見方を一夜で覆した。発生した土石流によって堰堤は一気に満砂となり、およそ12万立方メートルの土砂をここで止めた。同じ豪雨で神戸市は92人の死者・行方不明者を出している。堰堤が受け止めた分は、その数に加わらなかった。

石積みを見る

「再現することが容易でないもの」という登録基準が適用された理由は、規模ではなく表面にある。六甲砂防事務所はこの堰堤の構造を練石積構造と記し、法面部と天端部の外面が石積みタイプであるとする。用いられているのは間知石で、積み方は谷積、それも矢羽小谷積みと呼ばれる形式である。文化庁のデータベースは石材を花崗岩または安山岩と記載している。

同事務所は、この化粧積石の美観について六甲山地の砂防堰堤のなかでも最も優れたものの一つと評価している。現在、同じ造り方はしない。同規模の砂防堰堤をいま建設するならコンクリートを打ち、労力は何分の一かで済み、そして見た目は打ちっぱなしのままになる。

ただし、その石積みを見るには少し粘る必要がある。堰堤は昭和42年以来ずっと満砂の状態で、堆砂地には樹木が育った。登録された年の新聞記事は、完成当時は化粧石を積んだ外観が美しかったものの、現在は周囲に樹木が生い茂り堰堤が風景に溶け込んでいると伝えている。それでも水通し付近には石積みが残り、天端からは今も水が落ちている。

むしろ目を引くのは堆砂地そのものかもしれない。急峻な谷に平坦地はめったにない。ここでは土砂が埋めた面に林が広がり、その縁には静かな池のようになった場所もある。

歩いて行く

五助堰堤は住吉道の途中にある。住吉川をさかのぼる古い道筋で、現在は六甲山地の神戸側で最もよく歩かれる登山道の一つになっている。門も入場券も開門時間もなく、日中であれば通年で歩ける。

六甲砂防事務所はアクセスマップを公開しており、JR住吉駅から住吉台くるくるバスに乗って「エクセル東」で下車し、北北東へ歩く経路を示している。バスの所要はおよそ13分。同事務所の資料では、登山口から堰堤までの徒歩は約25分とされる。堆砂地では簡易な橋で川を2か所横断するが、過去には出水で橋が流されたり流路が変わったりしたことがあるため、大雨のあとは状況を確かめてから入るほうがよい。

堰堤本体には柵が設けられており、立ち入ることはできない。登山道や堆砂地からの撮影に制限はなく、下流側から見上げると30メートルの落差がいちばんよくわかる。住吉道はこの先で石切道との分岐を経て六甲山上へ続いていくため、堰堤を素通りしていく歩行者も多い。立ち止まる価値はある。

Q&A

Q五助堰堤は見学できますか。料金や予約は必要ですか。
A五助堰堤は住吉川上流の登山道沿いにあり、日中であれば料金も予約もなしに自由に見学できます。ただし堰堤本体には柵があり、立ち入ることはできません。現地に売店やトイレなどの施設はありませんので、水や装備を用意し、天候を確認したうえで向かってください。
Q五助堰堤へは神戸市街からどう行けばよいですか。
A六甲砂防事務所が示す経路は、JR住吉駅から住吉台くるくるバスに乗り「エクセル東」下車、そこから北北東へ歩くというものです。バスの所要は約13分。登山口から堰堤までは徒歩でおよそ25分です。途中、堆砂地で簡易な橋を使って川を2か所渡ります。過去に出水で橋が流された例があります。
Q五助堰堤はなぜ登録有形文化財になったのですか。
A平成26年(2014年)10月7日、「再現することが容易でないもの」という登録基準で登録されました。評価の中心は間知石を用いた谷積(矢羽小谷積み)の化粧積石にあります。花崗岩や安山岩を精緻に積み上げるこの手法は、この規模の堰堤では現在ほとんど用いられません。都賀川の杣谷堰堤と同時登録で、近畿地方の国直轄砂防堰堤としては初の有形文化財です。
Q五助堰堤の規模と建設年はどのくらいですか。
A本堰堤は堤高30.0メートル、堤長78.0メートル、天端幅3.1メートルで、昭和32年(1957年)3月に竣工しました。副堰堤は堤高10.0メートル、堤長32.5メートルで昭和33年3月の完成です。六甲山系の砂防堰堤では最大規模にあたります。貯砂部は昭和42年7月の土石流以降、満砂の状態が続いています。
Q五助堰堤は撮影できますか。どのあたりから撮るとよいですか。
A登山道からの撮影に制限はありません。下流側から見上げる位置だと堤高30メートルの全面が入り、水通し付近に残る石積みも捉えられます。満砂後に育った樹木が堰堤を覆っているため、葉の落ちる冬から早春のほうが石積みは見えやすくなります。

基本データ

名称五助堰堤(ごすけえんてい)
所在地兵庫県神戸市東灘区本山町岡本字六甲山1314-31他(敷地は灘区側にもまたがる)
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 28-0593/登録基準「再現することが容易でないもの」
指定年登録・登録告示ともに平成26年(2014年)10月7日
員数1所
寸法本堰堤 堤高30.0m・堤長78.0m・天端幅3.1m(昭和32年3月竣工)/副堰堤 堤高10.0m・堤長32.5m・天端幅3.0m(昭和33年3月竣工)。練石積構造、重力式砂防堰堤
所有者国(国土交通省)/管理は近畿地方整備局六甲砂防事務所
公開状況登山道沿いにあり日中は自由に見学可、料金なし。堰堤本体は柵により立入不可。JR住吉駅から住吉台くるくるバス「エクセル東」下車、登山口から徒歩約25分

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「五助堰堤」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00010214
文化遺産オンライン「五助堰堤」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/210137
国土交通省近畿地方整備局 六甲砂防事務所「六甲を知る・遊ぶ」
https://www.kkr.mlit.go.jp/rokko/rokko/index.php
六甲砂防事務所「六甲山地の歴史的な砂防施設(五助堰堤、杣谷堰堤)が登録有形文化財になりました」(PDF)
https://www.kkr.mlit.go.jp/rokko/rokko/pdf/bunkazai2014.pdf
六甲砂防事務所「住吉川物語」
https://www.kkr.mlit.go.jp/rokko/rokko/study/sumiyoshi.php

最終更新日: 2026.08.26