仕事のための部屋

小田垣商店作業場は、兵庫県丹波篠山市立町にある明治初期の作業建築で、平成19年(2007年)10月2日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。店舗棟の東方、店舗土間の背後に東西棟として建つ。

数字だけを見れば小ぶりである。桁行約9.7メートル、梁間約8.8メートル、建築面積およそ122平方メートル、切妻造の桟瓦葺。ただし数字に表れないものがひとつある。高さだ。文化庁の解説文は架構を「たちの高い」と記す。この一語が室内の印象のほとんどを説明している。この規模の平屋であれば普通は低く納まるところを、梁を頭上はるか上に架け、西側の一部にだけ二階を設けて、残りは小屋組まで一続きに開いている。

屋根の南面には屋根窓がのる。南面の西端からは南へ突出部が延びる。どちらも装飾ではない。ここで行われた仕事が上からの光と抜ける空気を必要としたからであり、乾物を扱う商家に暗く淀んだ部屋は許されなかったからである。

作業場は店舗の背後にそのまま開いているため、二棟というより一続きの空間として体感される。登録番号28-0284が指すのはこの一棟だけだが、前に建つものと切り離して味わうことはできない。

酒から種物へ ― 建物が記録している転換

小田垣家の創業は享保十九年(1734年)。明治の初めに種物商へ転じた。作業場はその転換に属する建物である。文化庁は年代を明治初期、西暦でいえば1868年から1911年の間に置く。敷地の生産機能を担う三棟のうち最も新しく、前に建つ店舗も東に続く旧酒蔵も、ともに江戸後期の建築である。

この前後関係を頭に入れて小屋組を見上げると、見え方が変わる。酒を造っていた家が、豆を買い、乾かし、選り分け、等級をつける家になった。古い建物は用途を変えて使われ、その傍らに新しい仕事のための一室が建てられた。たちの高い架構も屋根窓も、旧業ではなく新業の刻印である。

選別という工程は、写真には残りにくく、建築にはよく残る。丹波黒大豆が今日の大粒に育ったのは、生産者と商人による幾多の選抜の積み重ねによる。良否を分ける作業は、長い台に豆を広げ、目と手で行われた。同社が最上位の等級に「手より」の語を用いるのはその名残だろう。南の屋根から落ちる光は影が薄く均一で、皮の割れや種皮の変色を見分けるにはこうした光が要る。

国土の歴史的景観に寄与しているという登録基準は、敷地全体としての価値に重心を置く。作業場は通りすがりの目に留まる建物ではない。敷地がなぜこの形をしているのかを説明する建物である。

いま訪ねると

令和3年(2021年)4月、敷地は改修を経てリニューアルオープンした。設計は新素材研究所。現代美術作家の杉本博司氏と建築家の榊田倫之氏が主宰する事務所である。登録10棟のうち5棟を第1期として手がけ、以降の工事で全棟に及ぶ計画とされる。方針として掲げられたのは、近代化や道具としての使用のなかで取り付けられた雑物を取り除き、空間の構成と仕上げを大正期の姿へ巻き戻していくこと。同時に、公開に耐える耐震性を目立たない形で確保している。

訪問者にとっての実際的な意味は、内部に入れるということだ。拝観券も拝観料もない。1階が物販売り場として営業しており、9時30分から17時30分、定休は年末年始のみである。併設のカフェ小田垣豆堂は11時から17時(ラストオーダー16時)、木曜定休で、木曜が祝日の場合は翌平日が休みとなる。

中に入ったら、奥へ進んで見上げてほしい。古い建物を店舗に転用するとき、真っ先に失われるのが作業建築の小屋組である。平天井を張って隠してしまうからだ。ここでは架構が読める。梁の通りを追い、西端で二階が途切れる位置を確かめ、南の屋根面にある屋根窓を、開口そのものではなく落ちてくる光のほうから探し当てる。

行き方。JR福知山線篠山口駅から神姫グリーンバス篠山営業所行きで約20分、上立町下車すぐ。車なら舞鶴若狭自動車道の丹南篠山口インターチェンジから10分ほどで、向かいに駐車場がある。撮影の可否は明文化されていない。営業中の空間であるから、屋内で撮る前にスタッフへ一声かけるのが妥当だろう。

Q&A

Q小田垣商店作業場は、もともと何に使われていた建物ですか。
A豆の商いの作業工程、すなわち荷受け、乾燥、選別、等級づけのための建物です。明治初期の建築で、小田垣家が種物商へ転じたのちに建てられました。たちの高い架構と南面の屋根窓は、その仕事に必要な光と通風を得るための造りです。
Q小田垣商店作業場の内部に入ることはできますか。
A入れます。店舗棟の背後にそのまま開いており、売り場の一部として使われています。営業は9時30分から17時30分、拝観料はかかりません。定休は年末年始のみです。
Q小田垣商店作業場は、同じ敷地の他の建物と比べてどれくらい古いのですか。
A生産機能を担う三棟のなかでは最も新しい建物です。文化庁は作業場を明治初期(1868〜1911年)とし、前に建つ店舗と東に続く旧酒蔵はいずれも江戸後期(およそ1751〜1829年)としています。
Q小田垣商店作業場では何を見ればよいですか。
A小屋組です。平屋でありながら異例に高く架構を組み、二階は西側の一部にとどめているため、頭上に木組みがそのまま現れます。南の屋根面にのる屋根窓と、そこから落ちる光にも注目してください。
Q小田垣商店作業場は店舗とは別の登録なのですか。
A別の登録です。作業場は登録番号28-0284、店舗は28-0283。いずれも平成19年(2007年)10月2日に、同じ敷地の他8棟とあわせて計10棟が登録されています。

基本情報

名称小田垣商店作業場(おだがきしょうてんさぎょうば)
所在地兵庫県丹波篠山市立町19-5他(文化庁データベースの記載は「篠山市」。平成31年/2019年に市名変更)
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 28-0284
指定年平成19年(2007年)10月2日登録(第56回)
員数1棟
寸法桁行約9.7m、梁間約8.8m、建築面積約122㎡/木造平屋一部2階建、瓦葺
所有者文化庁データベースに記載なし。敷地は株式会社小田垣商店が使用
公開状況売り場の一部として公開(9:30〜17:30、年末年始休)

参考文献

国指定文化財等データベース ― 小田垣商店作業場
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00006350
文化遺産オンライン ― 小田垣商店作業場
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/186253
小田垣商店 公式サイト ― 店舗のご案内
https://www.odagaki.co.jp/store/
新素材研究所 ― 小田垣商店
https://shinsoken.jp/works/odagaki-shoten/
ぐるり!丹波篠山(丹波篠山市公式観光サイト)― 小田垣商店
https://tourism.sasayama.jp/odagaki/

最終更新日: 2026.08.05