コウノトリ保護増殖センター第一フライングケージ:「約束のケージ」が紡ぐ野生復帰の物語

兵庫県豊岡市の豊かな自然に囲まれた「コウノトリ保護増殖センター第一フライングケージ」は、日本のコウノトリ(ニホンコウノトリ)を絶滅の危機から救い出すために建てられた、記念すべき飼育施設です。通称「約束のケージ」として親しまれるこの鉄骨造の飛翔ケージは、1965年(昭和40年)に完成し、野生のコウノトリを捕獲して初めて収容した場所として、日本の自然保護史において極めて重要な意味を持ちます。2019年(令和元年)には国登録有形文化財に登録され、半世紀以上にわたるコウノトリ保護増殖事業の原点を後世に伝える存在となっています。

歴史的背景:絶滅危機から人工飼育へ

コウノトリはかつて日本各地の田んぼや湿地に生息し、瑞鳥(めでたい鳥)として人々に親しまれていました。しかし、明治時代以降の乱獲、第二次世界大戦中の営巣木の伐採、戦後の農薬使用による餌生物の激減などにより、生息数は急速に減少しました。1960年代初頭には、野生のコウノトリは豊岡盆地周辺にわずか十数羽を残すのみとなっていました。

1963年(昭和38年)、兵庫県教育委員会は野生個体を捕獲して人工飼育による増殖を図ることを決定しました。翌1964年8月に豊岡市野上地区でコウノトリ飼育場の建設が始まり、1965年1月15日に第一フライングケージが完成。同年2月11日、1つがいの野生コウノトリが捕獲され、このケージに収容されました。これが日本におけるコウノトリ人工飼育の始まりです。

しかし残念ながら、野生のコウノトリの減少は止まらず、1971年(昭和46年)5月25日、豊岡市内で衰弱した野生最後の1羽が保護されましたが死亡。日本の空からコウノトリの姿は完全に消えてしまいました。それでも、このケージに込められた「約束」——いつか必ずコウノトリを空に返すという誓い——は、その後数十年にわたる保護増殖の努力を支え続けました。

文化財登録の理由と価値

2019年(令和元年)12月5日、コウノトリ保護増殖センター第一フライングケージは国登録有形文化財(建造物)として登録されました。この登録は、日本のコウノトリ保護増殖事業の発祥の地としての歴史的意義が認められたものです。

このケージは、1965年の野生個体の捕獲飼育開始から、1985年のロシアからの幼鳥受贈、1989年の兵庫県での初繁殖成功、2002年の飼育個体100羽突破、そして2005年の歴史的な試験放鳥に至るまで、すべての保護活動の原点となった施設です。建設から50年以上を経た建造物として、国土の歴史的景観に寄与する存在として登録基準を満たしています。

建築の特徴

第一フライングケージは、大型鳥類の飼育に適した鉄骨造の飛翔ケージです。1960年代半ばの建設当時の工法と材料で造られており、コウノトリがある程度飛翔できる広さを確保しつつ、安全に繁殖飼育を行えるよう設計されています。

建築的な豪華さではなく、自然保護の歴史を物語る「場」としての価値がこの建物の本質です。鉄骨と金網で囲まれたこの空間の中で、飼育員たちは幾度もの失敗と挫折を乗り越えながら、コウノトリの繁殖に挑み続けました。「約束のケージ」という名は、野生のコウノトリを捕獲した際に人々が交わした暗黙の誓い——種の存続と野生復帰への責任——を象徴しています。

2021年10月には、一時使用されていなかった第一フライングケージでの飼育が再開され、この歴史的な構造物に新たな役割が与えられました。

見どころと訪問のご案内

第一フライングケージは、兵庫県立コウノトリの郷公園の附属飼育施設であるコウノトリ保護増殖センターの敷地内にあります。飼育環境を守るため、通常は非公開となっていますが、毎年11月頃に開催される特別公開イベントでは、飼育員の解説付きガイドウォークでケージの中まで入ることができます。

隣接する豊岡市立コウノトリ文化館は年中無休で入館無料。コウノトリの生態や野生復帰の歴史をパネルやハイビジョンシアターで学ぶことができます。公開ケージでは飼育コウノトリを間近に観察でき、毎時0分と30分に解説員による説明が行われます。15時頃の給餌タイムは特に人気です。

公園周辺の田んぼや湿地では、野生のコウノトリが餌をついばむ姿を日常的に見ることができます。60年以上前にこのケージから始まった保護活動の成果を、自分の目で確かめることができる感動的な体験です。

成功の軌跡:ケージから大空へ

このケージから始まった保護活動は、驚くべき成果を上げています。1985年にロシア・ハバロフスク地方から6羽の幼鳥が贈られ、1989年にはついに兵庫県で初めてヒナの繁殖に成功しました。2002年には飼育個体数が100羽を突破しました。

2005年9月24日、5羽のコウノトリが豊岡の空に放たれました。保護活動の開始から50年、人工繁殖の開始から20年の歳月を経ての歴史的瞬間でした。2007年には野外で43年ぶりにヒナが孵化し、2025年6月には野外のコウノトリが500羽に到達しました。豊岡を超えて全国各地で繁殖が確認されており、この物語はまだ続いています。

周辺の見どころ

豊岡市とその周辺の但馬地方には、自然・文化・温泉など多彩な魅力があります。

  • 城崎温泉 — 7つの外湯めぐりで知られる日本有数の温泉地。柳並木の風情ある街並みも見どころです。
  • 玄武洞公園 — 円山川沿いにそびえる壮大な柱状節理の岩壁。国の天然記念物に指定されています。
  • 出石城下町 — 江戸時代の面影を残す城下町。名物の出石皿そばは必食です。
  • 竹野浜 — 透明度抜群の美しい海岸。夏の海水浴はもちろん、四季を通じて散策を楽しめます。
  • 円山川 — コウノトリの生息環境を支える河川。カヌーやサイクリングも人気です。

Q&A

Q「約束のケージ」とは何ですか?なぜそう呼ばれているのですか?
A「約束のケージ」は、コウノトリ保護増殖センターの第一フライングケージの通称です。1965年に完成し、最後の野生コウノトリのつがいを捕獲して最初に収容したケージです。コウノトリを捕獲した際に、いつか必ず空に返すという「約束」を込めてこの名が付けられました。
Q第一フライングケージの中に入ることはできますか?
A通常は飼育環境保護のため非公開ですが、毎年11月頃に開催される特別公開イベントでは、飼育員の解説付きガイドウォークでケージの中まで入ることができます。詳しい日程は兵庫県立コウノトリの郷公園のウェブサイトでご確認ください。
Qコウノトリの郷公園へのアクセス方法を教えてください。
AJR山陰本線豊岡駅から全但バスで約15分「コウノトリの郷公園」下車。京都丹後鉄道「コウノトリの郷駅」から徒歩約30分。お車の場合は、北近畿豊岡自動車道・豊岡出石ICから国道426号・312号経由でアクセスできます。
Q野生のコウノトリを見ることはできますか?
Aはい。豊岡盆地の田んぼや湿地では、野生のコウノトリを日常的に観察することができます。コウノトリ文化館周辺や公園のビオトープが観察スポットとしておすすめです。観察の際は150メートル以上離れ、静かに見守ってください。餌を与えることは禁止されています。
Q入園料はかかりますか?
A兵庫県立コウノトリの郷公園および豊岡市立コウノトリ文化館は入園・入館無料です。公園は通年開園しています(月曜休園、年末年始休園あり)。公開ケージでの解説も無料で聞くことができます。

基本情報

名称 コウノトリ保護増殖センター第一フライングケージ
通称 約束のケージ
文化財登録 国登録有形文化財(建造物) — 2019年(令和元年)12月5日登録
建設 1964年(昭和39年)8月着工、1965年(昭和40年)1月15日竣工
構造 鉄骨造(飛翔ケージ)
所有者 兵庫県
所在地 兵庫県豊岡市野上1314-1
所属施設 兵庫県立コウノトリの郷公園 附属飼育施設 コウノトリ保護増殖センター
アクセス JR豊岡駅から全但バス約15分「コウノトリの郷公園」下車、または京都丹後鉄道「コウノトリの郷駅」下車徒歩約30分

参考文献

兵庫県立コウノトリの郷公園 — 保護増殖と野生復帰の歴史
https://satokouen.jp/reintroduction/chronol
豊岡市立コウノトリ文化館
https://kounotoribunkakan.com/
但馬情報特急 — コウノトリ保護増殖センター特別公開
https://www.tajima.or.jp/event/150720/
豊岡市観光公式サイト — 世界が注目!コウノトリと暮らす町
https://toyooka-tourism.com/recommend/culture/konotori-2/
JAたじま — 最後の一羽が死んだ「絶滅の場所」から「野生復帰」へ
https://www.ja-tajima.or.jp/charm/2023/12/toyooka-kounotori.html
兵庫県立コウノトリの郷公園 — 保護活動の始まりって?
https://satokouen.jp/study_top/study_11

最終更新日: 2026.04.03