粟津演舞場 ― 加賀に残る最後の芝居小屋

開湯1300年を超える歴史を誇る北陸最古の温泉地・粟津温泉。その温泉街の中心部に佇む「粟津演舞場」は、昭和初期の華やかな温泉文化を今に伝える貴重な劇場建築です。昭和8年(1933年)に建設され、平成28年(2016年)に国登録有形文化財に登録されたこの木造二階建ての芝居小屋は、加賀地方に唯一現存する伝統的な劇場として、地域の文化遺産の象徴となっています。

歴史的背景

粟津演舞場は、昭和8年(1933年)頃、粟津温泉で開催された全国旅館組合総会の会場として建設されました。当時、粟津温泉は全国から湯治客や観光客が訪れる人気の温泉地であり、このような大規模な全国大会を誘致できるほどの活気と繁栄を誇っていました。

総会の後、演舞場は温泉街の文化的な中心地として機能しました。松竹少女歌劇団や関西歌舞伎の公演、地元芸妓によるお座敷芸の披露に加え、当時最先端の娯楽であった活動写真(映画)の興行も行われ、温泉街の賑わいに大きく貢献しました。

しかし、演舞場として活躍した期間は昭和18年(1943年)頃までのわずか10年間でした。戦時体制の強化に伴い、建物は軍需工場に転用されます。終戦後も芝居小屋として復活することはなく、長く鉄工所として使用されました。

転機が訪れたのは平成21年(2009年)7月のことです。実に67年ぶりとなる復活公演が開催され、大きな注目を集めました。これを契機に保存・活用の機運が高まり、平成26年(2014年)春に全面的な改修を経てリニューアルオープン。あらゆる文化事業を開催できる多目的施設として、温泉街の活性化に新たな役割を果たしています。

文化財としての価値

粟津演舞場は、平成28年(2016年)11月29日に国登録有形文化財(建造物)に登録されました。その登録理由は多岐にわたります。

建築的な観点からは、正面に入母屋造の大屋根妻面を据え、その左右に切妻破風の突出部を配し、中央には起り(むくり)屋根の玄関を設けるという装飾的な外観が高く評価されています。こうした意匠は、劇場建築としての格式と華やかさを演出するために計算されたもので、昭和初期の劇場建築の特徴をよく伝えています。

歴史的・文化的な観点からは、かつての温泉街がいかに活気に満ちた娯楽文化を有していたかを物語る貴重な証拠です。加賀地方に残された唯一の芝居小屋として、温泉地の余暇文化を支えたインフラの実像を今に伝えるかけがえのない存在となっています。

建築の見どころ

粟津演舞場は木造二階建て、瓦葺き、建築面積約319平方メートルの建物です。最大の見どころとなる外観は、中央の入母屋造の大屋根を左右の切妻破風が挟み込むように配置された三連の屋根構成が印象的です。中央の起り屋根を持つ玄関は、訪れる人を迎え入れる格式ある佇まいを生み出しています。

内部には、伝統的な日本の芝居小屋に欠かせない要素が忠実に残されています。舞台から客席を貫いて伸びる花道は、役者が観客のすぐそばを通って登退場する歌舞伎ならではの演出を可能にする装置です。二階には桟敷席が設けられており、かつての上客が特別な位置から舞台を楽しんだ往時の雰囲気が偲ばれます。これらの要素は2014年の改修で丁寧に復元されました。

外観には約90年の歳月を感じさせる風格が漂う一方、内部はきれいに整備され、木の温もりを活かした清潔感のある空間に仕上がっています。収容人数は150名から200名で、現在も落語会や音楽会、演劇などの催しに活用されています。

アクセス・見学情報

粟津演舞場は、石川県小松市井口町の粟津温泉街中心部に位置しています。開館時間は9:00~18:00(催事の場合は延長、受付は18:00まで)ですが、基本的に予約がある時のみの開館となります。施設見学料は200円です。訪問を予定される場合は、事前に電話(090-3296-3417 山本氏)での確認をおすすめします。

交通アクセスは、JR小松駅から車で約20分、JR粟津駅から車で約10分、小松空港から車で約25分です。公共交通機関を利用する場合は、JR小松駅より北鉄加賀バス粟津線に乗車し「粟津温泉北口」バス停で下車、徒歩すぐです。

粟津温泉と周辺の見どころ

粟津演舞場の見学とあわせて、粟津温泉そのものの散策もぜひお楽しみください。粟津温泉は、奈良時代の養老2年(718年)に高僧・泰澄大師によって開かれたと伝えられる北陸最古の温泉です。山代温泉、山中温泉、片山津温泉とともに「加賀温泉郷」を構成し、純度100%の芒硝泉(ぼうしょうせん)は美肌の湯として知られています。温泉街の中心にある「総湯」では日帰り入浴を楽しむことができます。

また、粟津温泉にはかつてギネスブックに「世界最古の宿泊施設」として記載された「法師」があり、創業1300年の歴史を誇る名旅館として知られています。

周辺の観光スポットとしては、国の重要文化財に指定された那谷寺(なたでら)が特に有名です。奇岩と紅葉の名所として四季折々の美しさを見せてくれます。「ゆのくにの森」は江戸・明治時代の茅葺き古民家を移築した伝統工芸村で、九谷焼の絵付けや金箔貼りなど50種類以上の体験が楽しめます。日本自動車博物館ではクラシックカーのコレクションを鑑賞できます。

温泉街には「おっしょべ恋物語」ゆかりの北公園(お末と竹松の像)や瞑想の足湯、大王寺への散策コースなど、ゆったりと歩いて楽しめるスポットも点在しています。

Q&A

Q粟津演舞場とはどのような建物ですか?
A昭和8年(1933年)に粟津温泉で開催された全国旅館組合総会の会場として建設された木造二階建ての劇場建築です。加賀地方に唯一残る伝統的な芝居小屋であり、平成28年(2016年)に国登録有形文化財に登録されています。
Q内部を見学することはできますか?
Aはい、施設見学料200円で見学可能です。ただし、基本的に予約がある時のみの開館となりますので、訪問前に電話(090-3296-3417)で確認されることをおすすめします。
Qどのようなイベントが開催されていますか?
A落語会、音楽演奏会、演劇公演など、様々な文化イベントが定期的に開催されています。粟津温泉の旅館と連携した宿泊パック企画として催されることもあります。
Qアクセス方法を教えてください。
AJR小松駅から車で約20分、JR粟津駅から車で約10分、小松空港から車で約25分です。公共交通機関では、JR小松駅から北鉄加賀バス粟津線に乗車し「粟津温泉北口」下車すぐです。
Q周辺でおすすめの観光スポットはありますか?
A粟津温泉の総湯での日帰り入浴をはじめ、重要文化財の那谷寺、伝統工芸体験ができる「ゆのくにの森」、日本自動車博物館などが近隣にあります。温泉街散策では、おっしょべ北公園や瞑想の足湯も楽しめます。

基本情報

名称 粟津演舞場(あわづえんぶじょう)
文化財指定 国登録有形文化財(建造物)
登録年月日 平成28年(2016年)11月29日
建設年代 昭和8年(1933年)頃 / 昭和18年(1943年)頃改修 / 平成26年(2014年)改修
構造 木造2階建、瓦葺、建築面積319㎡
所有者 一般社団法人粟津演舞場
所在地 石川県小松市井口町ヘ10-1他
開館時間 9:00~18:00(催事の場合は延長)※予約がある時のみ開館
見学料 200円
アクセス JR小松駅から車で約20分 / JR粟津駅から車で約10分 / 小松空港から車で約25分
お問い合わせ 090-3296-3417(山本)

参考文献

粟津演舞場 ― 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/292860
粟津演舞場|スポット・体験|こまつ観光ナビ
https://www.komatsuguide.jp/spot/detail_166.html
粟津演舞場|まるごと・こまつ・旅ナビ
https://www.komatsuguide.jp/index.php/spot/detail/265/1/3/
小松市の文化財|小松市ホームページ
https://www.city.komatsu.lg.jp/soshiki/1016/bunka_rekishi/1/2171.html
粟津温泉|こまつ観光ナビ
https://www.komatsuguide.jp/feature/awazuonsen

最終更新日: 2026.03.28