元禄15年に上棟された禅宗の仏殿

大乗寺に残る棟札には、仏殿の上棟が元禄15年(1702年)であったと記されている。この仏殿は、金沢市街の南、野田山の山腹に広がる曹洞宗の専門僧堂の中心に建つ。境内の建物のうち国の指定を受けているのはこの一棟だけで、総門・山門・法堂は県や市の指定有形文化財である。

大乗寺は日本でも古い曹洞宗寺院の一つで、観光のための寺というより修行の場であり続けてきた。今も雲水が起居し、坐禅に励んでいる。仏殿は桁行三間・梁間三間、入母屋造の屋根に裳階(もこし)をめぐらせ、遠目には二階建てのように見える。見どころは細部にあり、そこで三つの建築様式が一つの建物の上で交わっている。

真言の寺から修行の規範へ

この寺の歩みは、現在地から遠く離れた野々市に始まる。寺伝によれば弘長年間(1261〜1263年)ごろ、加賀の有力者であった富樫氏が真言僧の澄海を招いて一宇を開いたのが起こりとされる。寺の性格を決定づけたのはその数十年後、永平寺第三世・徹通義介(1219〜1309)を住持に迎えたときだった。義介は寺を曹洞宗に改め、開山となる。その年は正応2年(1289年)とも正応4年(1291年)とも伝わる。

義介の法をついだのが瑩山紹瑾で、のちに總持寺を開き、曹洞宗を広めた太祖と仰がれた。この師資の縁により、大乗寺は永平寺の四門首の一に数えられる。由緒は重く、それだけに寺には範を示す役割が期待された。

その後は戦乱と火災、たびたびの移転が続き、寺は金沢の周辺を転々とした。再興がかたちをとるのは十七世紀後半、月舟宗胡と卍山道白の代である。両者は寺の清規を立て直し、その成果は「規矩大乗」と呼ばれた。元禄10年(1697年)、加賀藩から与えられた長坂の地に寺はようやく落ち着く。新たな仏殿が上棟したのは、その五年後のことだった。

一棟に交わる三つの様式

文化庁がこの仏殿を取り上げた理由は、その木組みに刻まれている。構造と意匠の基調は禅宗様である。禅宗様は十三世紀に禅院のために中国から移入された様式で、花頭窓や密に並ぶ垂木などにその特徴が表れる。ただしその土台には、より古い和様の要素が混じり、さらに十七世紀半ばに黄檗宗とともに日本へ入った新しい中国風、黄檗様の形式も認められる。

元禄15年の大工が三つの様式をあえて取り合わせたのは、意図のある選択だった。この仏殿は今日、江戸中期の仏殿のなかでも斬新な建築の一つと評価されている。古い決まりをどこまで緩められるかを試した建物といえる。重要文化財への指定は昭和58年(1983年)6月2日。指定の対象は仏殿一棟で、建立年を裏づける棟札が附(つけたり)として加えられている。

見どころ

仏殿は単独で建っているのではない。法堂、庫裏、僧堂と回廊でつながり、中心の諸堂が禅宗寺院の七堂伽藍を構成している。境内を歩くと、堂がどう結ばれ、修行僧の一日がなぜ外へ出ずに流れていくのかが見てとれる。

堂の内部は、外観が思わせるよりも簡素である。床は板張りではなく漆喰で叩き固めた土間、柱は丸柱ではなく角柱、建物は低い基壇の上に据えられている。簡略化ではあるが古式の趣を残し、禅寺の中心がどうあるべきかという考えを今に示している。裳階とその下の組物を見上げれば、中国風の細部がどこに集まっているかがわかる。

ここは現役の修行道場のため、金沢の賑わう寺々よりも静かだ。毎週日曜の午後には誰でも参加できる無料の坐禅会があり、早朝の坐禅も行われている。

行き方と周辺

寺は市の南の縁、城下町や茶屋街から離れた丘陵の中腹にある。金沢駅からは路線バスでおよそ30分、長坂台のバス停で降り、そこから坂を15分ほど登る。車なら約25分。境内の拝観は無料である。

寺の隣には野田山墓地が広がり、加賀を治めた前田家歴代の墓がある。藩祖・前田利家もここに眠る。あたりは樹々に囲まれて静かで、二か所を合わせて訪れる人が多い。金沢の中心をひととおり見た旅行者にとって、大乗寺まで足を延ばすことは、修行の場としての街の別の表情にふれる機会になるだろう。

Q&A

Q仏殿の中に入れますか。
A境内は無料で開放されており、仏殿は七堂伽藍の一部として見ることができます。現役の専門僧堂のため、各建物の内部は立ち入りが限られる場合があります。現地の案内表示に従ってご見学ください。
Q金沢駅からの行き方を教えてください。
A北鉄バスで約30分、「長坂台」で下車し、坂を15分ほど登ります。車では金沢駅または金沢西インターチェンジから約25分です。
Q拝観料はかかりますか。
Aいいえ。境内の拝観は無料です。寺の維持のための志納はいつでも歓迎されています。
Q坐禅を体験できますか。
Aはい。日曜の午後に、初心者も参加できる無料の坐禅会があり、指導も受けられます。日程は変わることがあるため、事前に確認してから訪れてください。
Q建築のどこが評価されているのですか。
A禅宗様・和様・黄檗様という三つの様式を一棟に取り合わせた、元禄15年(1702年)の建物である点です。江戸中期の禅宗仏殿で、大工がどのように工夫を凝らしたかを示す例として注目されています。

基本データ

名称大乗寺仏殿(だいじょうじぶつでん)
所在地石川県金沢市長坂町
所有者大乗寺
指定区分重要文化財(建造物)/昭和58年(1983年)6月2日指定
年代元禄15年(1702年)/棟札による
構造及び形式桁行三間、梁間三間、一重もこし付、入母屋造、こけら葺
員数1棟(附 棟札1枚)
様式禅宗様を基調とし、和様・黄檗様の形式を含む
拝観無料
アクセス金沢駅からバス約30分「長坂台」下車、徒歩約15分/車で約25分

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁):大乗寺仏殿
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/770
金沢市観光協会:大乗寺
https://www.kanazawa-kankoukyoukai.or.jp/spot/detail_10170.html
ほっと石川旅ねっと(石川県公式観光サイト):大乗寺
https://www.hot-ishikawa.jp/spot/5782
曹洞宗ネット(曹洞宗石川県宗務所):東香山 大乘寺
https://www.sotozen-net.jp/temple/32

最終更新日: 2026.06.04