看板より先に、色が目を引く町家
金沢市の中心部、近江町市場から歩いてほどない十間町の一角に、木部を弁柄で赤く塗り、壁を黒漆喰で仕上げた二階建ての町家が建つ。瓦葺の大屋根には採光のための小さな越屋根が載り、看板を読むより先に、その色の対比が通行人の目を引く。古美術と骨董を扱う石黒商店の店舗兼主屋である。
建物が建てられたのは昭和11年(1936年)頃。二代目の石黒久次郎が、美術商の店舗兼用住宅として構えた。間口に対して奥へ細長く、商いの場と住まいを一つ屋根の下にまとめる町家の形式をとる。建築面積はおよそ135平方メートルと大きくはないが、通りに面した一階を高く立ち上げ、見せることを意識した造りになっている。
「指定」ではなく「登録」の文化財
平成27年(2015年)8月4日、この建物は国の登録有形文化財(建造物)に登録された。登録の制度は平成8年(1996年)に始まったもので、国宝や重要文化財を守る指定の制度とは性格が異なる。近代以降に数多く建てられ、町並みの景観を形づくってきた建造物を幅広く守るために設けられた、より緩やかな仕組みである。石黒商店が満たした基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」であった。
その評価の中心にあるのが、正面の意匠だ。建ちの高い一階の立面は層を重ねて整えられ、瓦葺の庇の下に銅板葺の小庇を設ける。軒はせがい造で、出桁を持ち出して軒先を前へ張り出させている。大屋根の上には採光用の越屋根が据えられ、その窓から光を内部へ採り込む。いずれも装飾のための装飾ではなく、それぞれが役目を持ち、全体として華やかな表構えをかたちづくっている。
見どころと、中に入れる理由
通りの向かいに立つと、まず色が働きかけてくる。弁柄は古い金沢でよく用いられた木部の保護塗料だが、ここでは黒漆喰の壁と対にすることで、柱や梁といった骨組みと壁面とが別々に読み取れるよう仕組まれている。見上げれば銅板の庇は時とともに緑青を帯び、光の加減で表情を変える。屋根上の越屋根は目印としてわかりやすく、地元ではこの明かり窓で店の場所が説明されることもある。
この建物は、ガラスの向こうに収められた展示品ではない。石黒商店は今も四代目のもとで商いを続け、茶道具や花器、酒器のほか、金沢にゆかりのある現代作家の作品も古美術と並べて扱う。近年の改修は伝統的な工法と仕上げを尊重して行われ、内部も表構えと同じ気配を保っている。建物は地元でも評価され、第38回金沢都市美文化賞を受けている。実際に店に入って品を眺めることが、現役の町家の構えを知る自然な道筋になる。
周辺の歩き方
店は、金沢でも商家の町並みがよく残る一帯にある。北へ少し歩けば食を扱う近江町市場があり、地元の海の幸で食事をとるのに向く。尾張町の方へ進めば古い商家の並ぶ通りに出て、さらに暗がり坂と呼ばれる石段の坂を下ると主計町の茶屋街に至る。尾崎神社や金沢城公園も徒歩圏内にある。
Q&A
- 建物の中に入ることはできますか。
- できます。石黒商店は現役の古美術・骨董店で、おおむね10時から17時まで営業しています。休業日は不定のため、目的の来店であれば事前に公式サイトで確認するとよいでしょう。登録されているのは建物そのもので、品を見ながら内部の様子に触れられます。
- どのように行けばよいですか。
- 店は十間町にあり、武蔵ヶ辻・近江町市場のバス停から徒歩約3分です。金沢駅からはバスで約5分、徒歩なら約15分の距離にあります。
- 駐車場はありますか。
- 専用の駐車場はありません。近隣にコインパーキングがいくつかあり、金沢の中心部は徒歩や周遊バスでまわれるほどのまとまった広さです。
- 「登録」と「指定」の文化財はどう違うのですか。
- 指定は国宝など特に重要なものに与えられる、古くからの強い保護です。登録は平成8年に始まった比較的緩やかな制度で、おもに近代以降の、町並みを形づくる建造物を対象とします。石黒商店は指定ではなく登録の文化財です。
- いつ建てられた建物ですか。
- 昭和11年(1936年)頃の建築で、昭和41年(1966年)の改修が記録されているほか、近年にも伝統的な工法にならった改修が行われています。国の登録は平成27年(2015年)です。
基本情報
| 名称 | 石黒商店店舗兼主屋(いしぐろしょうてんてんぽけんしゅおく) |
|---|---|
| 所在地 | 石川県金沢市十間町53他 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号 17-0249 |
| 登録年月日 | 平成27年(2015年)8月4日 |
| 登録基準 | 国土の歴史的景観に寄与しているもの |
| 年代 | 昭和11年(1936年)頃/昭和41年(1966年)改修 |
| 構造及び形式 | 木造2階建、瓦葺、建築面積約135㎡ |
| 員数 | 1棟 |
| 公開・営業 | 現役の店舗(おおむね10:00〜17:00、不定休/公式サイトで要確認) |
参考文献
最終更新日: 2026.06.20