変形敷地に合わせて曲げられた銀行建築
旧石川銀行橋場支店は、石川県金沢市尾張町1-7-10にある昭和4年(1929年)竣工の鉄筋コンクリート造4階建の建物で、平成16年(2004年)11月8日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。
敷地が難しい。浅野川大橋の南、橋場交差点に面した不整形の土地で、複数の道が斜めに交わる。直方体の建物では収まらない。設計施工にあたった清水組、のちの清水建設は、平面を曲げることでこれを解いた。角部は丸みを帯び、立面は道路と争わずにそれに沿う。
この曲面が、人々がこの建物を覚えている理由である。浅野川沿いに歩いて近づくと、正面は連続的に向きを変えていく。写真に収めるべき平らな一面がなく、構図が定まる地点も見つからない。
建設したのは北陸銀行の前身にあたる高岡銀行で、その橋場支店として建てられた。石川銀行の名を冠するのは後年のことで、文化財の登録名称はこちらによる。石川銀行は平成12年(2000年)に経営破綻した。建物は金沢市が取得し、平成17年(2005年)11月から金沢文芸館として使われている。
立面の読みかた
鉄筋コンクリート造4階建、建築面積101平方メートル。外観はネオルネサンス式を基調とする。設計上の要点は、壁面を上下ほぼ1対2に分割する水平の胴蛇腹にある。
この分割の効果は、立ち止まって確かめる価値がある。あの位置に胴蛇腹を通したことで、4階建の建物が3階建に見える。プロポーションが落ち着く。低層の街並みを圧しかねない商業建築が、かえって収まりよく立つ。訪れた人がまず3階建だと思い、階段で中2階に気づく、という順序をたどるのはそのためである。
出入口の両脇にはイオニア式の片蓋柱が配される。渦巻状の柱頭をもつギリシャ建築の様式で、戦間期の銀行建築が預金者に堅実さを示すために好んで用いたものだった。文化庁の登録解説は、曲面で構成される変化のある立面と、ランドマークとしての目立ちを挙げている。
登録有形文化財は、日本の歴史的建造物に対する二つの制度のうち緩やかなほうにあたる。平成8年(1996年)創設、許可制ではなく届出制で運用される。この建物の登録番号は17-0116、第44回の登録で、基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。あわせて金沢市指定保存建造物にもなっている。こちらは昭和57年(1982年)に市が独自に創設した制度で、規制の対象を外観のみとする。
いずれも重要文化財の指定とは制度が異なる。重要文化財ははるかに厳選され、規制も強い。金沢を扱う旅行記事ではこの区別が曖昧なまま書かれることが多く、実際に指定を受けた金沢城の建物が近くにあるだけに、混同が生じやすい。
銀行の内部に入った文学館
建物は現在、三つのフロアで金沢の文学を扱う施設として使われている。金沢は泉鏡花、徳田秋聲、室生犀星を輩出し、地元では三文豪と呼ぶ。金沢文芸館は展示施設であると同時に、市民の創作・交流の拠点として設けられた。
1階は交流サロン。金沢ゆかりの作家の作品や、金沢を舞台とした映像を扱う。2階は常設の「金沢五木寛之文庫」で、作家五木寛之の著作、直筆原稿、愛用品、記念品などを収蔵展示する。3階は文芸フロアで、泉鏡花文学賞と泉鏡花記念金沢市民文学賞の全受賞作品を閲覧できる。泉鏡花文学賞は昭和48年(1973年)に金沢市が創設した、自治体による文学賞としては全国初のものである。
金庫の跡はミニギャラリーに転用されている。見学者があとで話題にするのは、たいていこの部分である。
開館時間は10時から18時、入館は17時30分まで。休館日は火曜日(祝日の場合は翌平日)と年末年始の12月29日から1月3日まで。観覧料は一般100円、65歳以上および障害者手帳をお持ちの方とその介護人が100円で祝日は無料、高校生以下は無料。年間パスポートは一般1,040円。市内17文化施設で使える金沢市文化施設共通観覧券も利用できる。
撮影は1階と3階では可能。2階の五木寛之文庫は撮影禁止となっている。所要時間はおよそ30分。
金沢駅からバスで「橋場町」または「尾張町」下車、徒歩約3分。城下まち金沢周遊バスなら「橋場町金城楼前」下車で徒歩約1分。駐車場はない。泉鏡花記念館は徒歩1分ほど、ひがし茶屋街と主計町茶屋街もいずれも徒歩圏にある。徒歩5分ほどの尾張町町民文化館は、明治40年(1907年)建築の黒漆喰塗籠土蔵造で内部を洋風とした銀行建築で、金沢の銀行が二世代のあいだに自らをどう見せようとしたか、比較して考える材料になる。
Q&A
- 旧石川銀行橋場支店の内部は見学できますか。
- 見学できます。現在は金沢文芸館として公開されており、開館時間は10時から18時(入館は17時30分まで)。休館日は火曜日と12月29日から1月3日まで。観覧料は一般100円、高校生以下は無料です。
- 金沢文芸館の館内は撮影できますか。
- 1階と3階は撮影できます。2階の金沢五木寛之文庫は撮影禁止です。建物外観を公道から撮影することに制限はありません。
- 旧石川銀行橋場支店はもともとどの銀行が建てたのですか。
- 昭和4年(1929年)、北陸銀行の前身にあたる高岡銀行の橋場支店として、清水組の設計施工で建てられました。のちに石川銀行の支店となり、文化財の登録名称はこの名によります。石川銀行は平成12年(2000年)に破綻し、その後金沢市が建物を取得しました。
- 旧石川銀行橋場支店が3階建に見えるのはなぜですか。
- 壁面を上下ほぼ1対2に分割する胴蛇腹の位置によるものです。この分割によって4階建の建物が3階建のように見えます。橋場交差点の不整形な敷地に合わせた曲面の平面も、同じ柔らかい印象に働いています。
- 旧石川銀行橋場支店へは金沢駅からどう行きますか。
- バスで「橋場町」または「尾張町」下車、徒歩約3分です。城下まち金沢周遊バスの「橋場町金城楼前」からは徒歩約1分。駐車場はありません。泉鏡花記念館やひがし茶屋街も徒歩圏内にあります。
基本情報
| 名称 | 旧石川銀行橋場支店(現・金沢文芸館) |
|---|---|
| 所在地 | 石川県金沢市尾張町1-7-10 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号 17-0116 |
| 指定年 | 平成16年(2004年)11月8日登録(同年11月29日告示) |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 鉄筋コンクリート造4階建、建築面積101平方メートル |
| 所有者 | 金沢市 |
| 公開状況 | 金沢文芸館として公開。10時~18時(入館17時30分まで)。火曜・年末年始休館。一般100円。 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース 旧石川銀行橋場支店
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004350
- 文化遺産オンライン 旧石川銀行橋場支店
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/189080
- 金沢文芸館 利用案内
- https://www.kanazawa-museum.jp/bungei/info/index.html
- 金沢市観光協会 金沢文芸館
- https://www.kanazawa-kankoukyoukai.or.jp/spot/detail_10071.html
- 金沢市 金沢市指定保存建造物一覧
- https://www4.city.kanazawa.lg.jp/soshikikarasagasu/bunkazaihogoka/gyomuannai/3/1/1/4287.html
最終更新日: 2026.08.13