綾川のほとりの酒造場

綾菊酒造は、香川県綾歌郡綾川町山田下にある酒造場で、寛政2年(1790年)の創業と伝え、敷地に建つ仲酒蔵・東酒蔵・西酒蔵・離れ座敷の4棟が平成18年(2006年)に国の登録有形文化財となった。所在地は山田下字桜本3393番地1、所有者は綾菊酒造株式会社である。

蔵は綾川のすぐそばにある。蔵の前を通る東西の道は川筋と平行に走り、酒蔵はこの道に妻面を向けて南北に長く並ぶ。川と道と蔵の向きがそろっていることが、この敷地を読むときの最初の手がかりになる。

一帯は旧山田村にあたる。綾菊酒造の説明によれば、この山田地区は大正天皇の即位に際して大嘗祭に供える新穀を育てる主基斎田に選ばれた米どころで、仕込み水には香川・徳島の県境をなす阿讃山脈から流れ出る伏流水を使う。酒蔵がこの位置にある理由は、米と水の両方が手の届く場所にあったことに尽きる。

「旧泉谷酒造場」という名前

4棟の登録名を並べると、書き方が揃っていないことに気づく。仲酒蔵・東酒蔵・離れ座敷の3棟は「綾菊酒造(旧泉谷酒造場)」を冠し、西酒蔵だけが「綾菊酒造西酒蔵」と呼ばれる。ふりがなは「きゅういずみやしゅぞうじょう」である。3棟はかつて泉谷酒造場の建物であり、西酒蔵はそれとは別の経緯で建った、と登録名そのものが示している。

泉谷酒造場がいつ、どのような形で綾菊酒造の一部になったのかは、文化庁のデータベースにも蔵元の公開情報にも記載がない。蔵元は自社の創業を寛政2年とするが、その年代と泉谷酒造場との関係も明らかにされていない。ここでは記録にある事実だけを書き、推測で埋めることはしない。

所有者の記載にも差がある。文化庁のデータベースは4棟とも綾菊酒造株式会社とするのに対し、香川県教育委員会の登録文化財一覧では、旧泉谷酒造場の3棟が「個人」、西酒蔵のみが綾菊酒造(株)となっている。県の一覧は登録時点の情報を残している可能性があるが、このサイトでは文化庁のデータベースを正としている。

酒名の「綾菊」について、蔵元は綾郡・綾川、そして日本武尊の孫と伝わる綾黒丸から「綾」の字を取り、菊の花を浸した酒で長寿を保つという中国の故事から「菊」を合わせたと紹介している。

4棟が同じ日に登録された意味

綾菊酒造の4棟は、いずれも平成18年(2006年)3月2日に登録有形文化財として登録され、3月23日に告示された。登録番号は37-0304から37-0307まで連続し、4棟とも登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。個々の意匠の模範性よりも、酒造場としてのまとまりが周囲の景観をつくっている点が評価の軸になっている。

建てられた時期には半世紀以上の開きがある。もっとも古いのは明治後期の東酒蔵で、昭和初期に増築の手が入っている。仲酒蔵と離れ座敷が昭和初期、西酒蔵は戦後の昭和25年(1950年)である。構造も一様ではなく、仲酒蔵と東酒蔵は土蔵造、西酒蔵と離れ座敷は木造で建てられている。

建築面積は仲酒蔵318平方メートル、東酒蔵472平方メートル、西酒蔵474平方メートル、離れ座敷33平方メートルで、合計1,297平方メートルになる。大きな酒蔵3棟と、9畳ほどの小さな座敷1棟。この落差も、酒を造る場所と客を迎える場所が一つの敷地に同居していた酒造場の姿をそのまま伝えている。

敷地の配置と見る順序

綾菊酒造の配置は、中央の仲酒蔵を基準にすると分かりやすい。仲酒蔵は東西の道に南の妻面を見せて建ち、その東側に東酒蔵、西側に西酒蔵が、いずれも南北棟で並列する。3棟の酒蔵が櫛の歯のように道へ妻を向ける構成である。

西酒蔵の西面は国道に面しており、敷地の外から最も広く見渡せるのはこの面である。道に面した南側から仲酒蔵の妻面を正面に見て、東へ進むと東酒蔵の妻が続く。離れ座敷は東酒蔵の東南にあり、事務所の東側につながって建つため、道からは酒蔵に比べて目立たない。

東酒蔵の北側には、綾川寄りに延びた低い棟の酒蔵がある。川に近い北面は縦板張で、南の道側とは表情が違う。4棟の建物がどう見えるかは、各棟のページで詳しく扱っている。

酒蔵見学とアクセス

綾菊酒造では、完全予約制の酒蔵見学を通年で受け付けている。見学時間は午前10時から午後4時までで、所要時間はおよそ60分、入場料は無料である。休みは年末年始とお盆で、土曜・日曜・祝日は事前の確認が要る。予約は電話(087-878-2222)か蔵元のウェブサイトの問い合わせフォームから行う。

見学は、蔵の歴史と酒造りについての説明とビデオ上映に始まり、蔵の見学、工場の見学、蔵の店へと進む。仕込みの時期やその日の作業内容によっては受け付けられない日があると案内されている。運転する人と20歳未満の人は試飲ができない。

公共交通で向かう場合は、琴電綾川駅から車でおよそ10分である。高松空港からは車で約20分。敷地内に駐車場があり、大型バスも停められる。人数が多い場合は事前に相談するよう蔵元が求めている。

登録有形文化財の4棟は、現役の酒造場の建物である。敷地に入るのは見学を予約したときに限り、それ以外は外の道から外観を眺める形になる。

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁):綾菊酒造(旧泉谷酒造場)仲酒蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00005378
国指定文化財等データベース(文化庁):綾菊酒造(旧泉谷酒造場)東酒蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00005379
国指定文化財等データベース(文化庁):綾菊酒造(旧泉谷酒造場)離れ座敷
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00005380
国指定文化財等データベース(文化庁):綾菊酒造西酒蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00005381
香川県教育委員会:香川県内の登録有形文化財
https://www.pref.kagawa.lg.jp/kenkyoui/shogaigakushu/bunkazai/culturalassets/culturalassets_16.html
綾菊酒造株式会社:酒蔵のご案内
https://www.ayakiku.com/?tid=1&mode=f3
綾菊酒造株式会社:綾菊こだわりの酒造り
https://www.ayakiku.com/?tid=1&mode=f4
綾川町:綾川町の特産品
https://www.town.ayagawa.lg.jp/docs/2011071400208/
酒蔵プレス:綾菊酒造株式会社(酒名の由来)
https://www.sakagura-press.com/sakebrewery/ayakiku/

最終更新日: 2026.09.24

基本情報

名称綾菊酒造
所在地香川県綾歌郡綾川町山田下字桜本3393-1
所有者綾菊酒造株式会社
指定登録有形文化財 4件
座標34.22292, 133.94742